第43話 悪徳勇者の一途な覚悟




 ~ライギスside



「まずは、貴様が持つスキル《輪廻転生リインカーネーション》を頂く」


 シユンこと魔王ザフトがはっきりと言った。


「やはりそうか……だが、お前は不死の存在。あのスキルを得ても意味がないんじゃないか?」


「貴様が言う通り、この身体は何度も蘇生できるだろう……だが、シユンの魂が再び宿る保証はない。万一の保険として頂戴するつもりだ」


「それで暗殺にも敏感で、以前成功させた俺をマークしたってのか?」


「ああ、その通りだ。はっきり言うと、俺は前世の貴様こと『ライギス』のようなタイプの勇者が最も大っ嫌いだ。ある意味、俺を殺した勇者よりも最低なクズ野郎だと吐き気すら催していたくらいだ」


「じゃあ、スキルを奪った後で俺を殺すのか!?」


「それも想定に入れ、最初はカリシュアにそのように指示をした……しかし、転生後の貴様は非常に大人しく、普通の人間として暮らしていたそうじゃないか?」


「ガキのうちからイキったって生きていけねぇだろ? ある程度、自立できる年齢まで待ってたんだよ。腹の奥じゃ、ずっとライギスのままだったさ……」


「大抵の人間が持つ内面なんてそんなもんだ……いや中にも例外な者もいるが、そういう人間ほど悪い奴らに騙され利用される。人間社会における負の側面だ。ザフト流に言えば骨身に染みてよくわかっているつもりだ」


「その通りだぜ。ライギスとして生まれた貧困村や国だって、そんなの日常茶飯事だったさ。流れて辿り着いたナルポカ共和国だって、君主制のない市民中心の平等な国とか謳っている癖に、結局はユウガ達のような特級市民が幅を利かせて好き放題にやって暗黙で許される。それが人間社会の本質だと思っていた」


「しかし、それでは社会は成り立たない。秩序と法がありモラルがあってこその共存社会だ。俺が思うに、要は腹に一物を抱えながらもレッドゾーンを超えないようモラルが必要なんだ。それを簡単に超えてしまう奴は頭がいいとか度胸があるとか、ましてや勇敢なんかじゃ決してない。ただ忍耐力がなく自制できない低能のクズ野郎さ。人間は誇りや理性があるからこそ、強く美しい存在になれるんだよ」


「魔王の癖に歯の浮くような台詞を……っと言いたいが、今の俺なら、あんたの言いたいことはわからなくもない。今じゃ、こんな俺も誇りを持って清々しい気分であんたと向き合っている。普通なら怖くてゲロを吐いている魔王様を相手にな」


「その変わり様、カリシュアの存在か?」


「ああ、そうだ」


 俺は迷いなく言い切る。


「……知っていると思うが、カリシュアは最高位の魔族で死神族グリムリーパーだ……さらに魔王軍の四天王であり、俺に絶対の忠誠を誓う側近だぞ?」


「カリアは俺の全てだ。たとえ魔族や死神だろうと関係ない。それに魔王ザフト、あんたにとって彼女は所有物だとしても、俺にとってはたった一人の大切な女の子に変わりないんだ」


 だからこそ、俺はこうしてこのバケモノを向き合い対峙している。

 逃げも隠れもせず堂々と……。


 カリアのためだと思えば、こいつにスキルを奪われようと殺されようと仕方ない。


 しかし、願わくば……最後くらいはカリアの手で――。



「……いいな、そういうの」


 魔王ザフトは、ふと気の緩んだような柔らかい笑みを浮かべ呟く。


「あん?」


「なんでもない。それじゃ、まずスキルを貰うぞ。覚悟はいいな?」


「あ、ああ……待て、もし俺を殺すつもりなら、最後にカリアに会わせてくれ」


「わかった。約束しよう――《無双吸収ピアレスドレイン》!」


 魔王ザフトは左手を翳すと、そこから漆黒の渦が発生し、俺の身体を巻き包んでいく。


 痛みや苦しみは一切ないが、その代わり何かが吸い取られていく感覚に見舞われた。


 漆黒の渦はすぐに消失し、魔王の頭部に同じ渦が巻き、半透明の板が出現する。

 その板に、《輪廻転生リインカーネーション》と書き記されていた。


 フッと板は消える。


「これで、《輪廻転生リインカーネーション》は俺のモノになったな……俺が求めているスキルではあるが、使い方に悩むところもある」


「以前のように、その辺の村で人間の女を拉致してくればいいじゃねぇか? 骸骨の頃と違って、その顔なら十分にイケるだろ?」


「……それが一番の問題なんだ。俺は魔王ザフトだが、前のような糞エロ骸骨じゃない……セイリア以外の女子となんて……」


「セイリア?」


「い、いや……そのぅ……なんでもない」


 急に頬を染め、もじもじと身体をくねらせる魔王。

 気色悪いが、なんか今の俺に似ているような気がする。


「なぁ、魔王ザフト……いや、シユン。お前、人間だった頃に好きな子がいたのか?」


「好きっていうか……恋人だった子がいる。けど俺が勇者に殺されて魔王に転生したことで敵対関係になってしまったんだ」


「んじゃ、フォーリア王国の勇者パーティの子ってわけだ」


「そうだ……だから俺は必要なんだ。より強力なスキルが……そして魔王軍を強化し力を手に入れる必要がある。この世界の秩序を変えるために――」


「世界の秩序だと? お、お前……まさか、その為だけに!?」


「笑うなよ。俺はセイリアともう一度、付き合うために地上を……この世界を征服しようと思っている。そして魔族と人間の境界線を失くし、彼女と添い遂げたい……これが俺の野望であり悲願なんだ」


 こいつ本気か!? 本気で、そんなこと言っているのか?


 俺は大口を開けたまま、魔王ザフトを凝視て心情を探る。


 嘘はついてないようだ……こいつ本音で俺に胸の内を話してやがるぞ? 


 なんて野郎だ……普通、魔王に転生できたのなら、やりたい放題だ。

 前ザフト以上に好き勝手やれるじゃねぇか!?


 俺が魔王ザフトになれば……。



 なれば?



 ……なったとしても、俺の気持ちは変わらない。


 俺はカリアが好きだ。


 けど無理矢理とか立場を利用してとかじゃない。


 ありのまま自然のまま……俺はカリアの傍にいて一緒に笑っていたい。


 それだけで充分なんだ。


 ――だからわかる。


 魔王ザフト、いやシユンの気持ちが……。



 心に突き刺さるほど――。



「……叶うといいな、それ」


「え?」


「二度言わねぇよ。そんなの遺言にしたくねぇからな。とっとと殺してくれ」


「カリシュアを呼ばなくていいのか?」


「……もう、いい。あんたを見ていたらお腹一杯になったわ。それに会ったら会ったで、ここに来た決心が鈍るかもしれない。正直、未練もあるが、最後くらいカッコつけたい気持ちもある」


「そうか……本当に、あの『悪徳の勇者ライギス』と同一人物とは思えない潔さだ」


「俺は、もうライギスじゃねぇ」


「ん?」


「ペコパン――それが俺の名だ」


 未だに恥ずかしい名前だが、何故か妙に気に入っちまっている。

 初めてギルドで会った時、カリアに「可愛い名前ね」と言ってくれてからずっと……。


「そうか、ペコパンか……しかし、勇者のスキルを奪ったとはいえ、お前の魔法技と暗殺術を駆使した戦闘能力は危険すぎる……独学で前魔王ザフトが得意としていた暗黒魔法 《闇地獄の炎ダーク・フレイム》を使いこなすくらいだからな」


「そりゃどうも。最後の遺言として、カリアに『会えて良かった。ありがとう』って伝えてくれ」


「わかった、約束しよう――」


 魔王ザフトは骸骨の仮面を被り、俺から離れて行く。


 きっと苦しまないよう、盛大な花火で一気に始末してくれるのだろう……。



 俺は両目を閉じ、最後にカリアの笑顔を想い浮かべた。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928



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