第42話 魔王ザフトと悪徳勇者




 ~ライギスside



 俺はカリアに連れられ、『転移用門ゲート』を使用して『魔王都』へ向かった。


 『奈落』と呼ばれるダンジョンの入口が変わっていることに気づく。

 何でも、勇者に発見される度に場所を変えているらしい。


「ここ20年の間で、魔王ザフト様の暗殺に成功したのはキミだけよ。誇りに思いなさい」


 移動中、カリアは冗談っぽく言ってくる。


「知っていると思うけど、決して自慢できるやり方じゃなかったさ」


「ダンジョンでパーティ仲間を見捨てたから? 私達魔族も仲間意識は強いわ。でも勇者パーティの目的と意義を考えれば、普通は身を挺してでも、勇者のキミを先に行かせるべきよ」


「それは信頼がおけるまともな勇者の場合だろ? 『悪徳の勇者ライギス』は、その実力は認められても信頼には至らなかったのさ……思い当たる節は腐るほどある」


「……不思議だね。本当に前世が、ライギスとは思えないよ、ペコパン」


 カリアは瞳を細め、微笑みを浮かべる。


 確かに俺は変わったと思う。


 今だって魔王ザフトの所に連れて行かれるのに不安や恐怖がないからな。

 寧ろ穏やかで心が弾む気分、これもカリア……キミが傍にいてくれるからだ。


 ――どうすれば、俺はずっとキミの傍にいられるのだろう?


 さっきから、俺はそればかりを考えている。





 そして簡単に『魔王都』へ到着し、『魔城シュヴァルツナハト』に入った。


 外観は20年前と変わらないが、魔法技術がより発展しているようだ。


 階段や廊下は立つだけで勝手に進路方向へ動き始めた。

 途中、メイド服を着た魔族少女に奇妙な光を身体に当てられ、不審な物がないか調べられてしまう。


 魔王は暗殺されるのを恐れている話もあるのか、相当用心深くなっているようだ。


 こりゃ、また潜入を試みても、そう上手くいかないと思った。



 カリアに案内され、鋼鉄製の巨大な扉の前に立つ。


「ペコパン、この『玉座の間』に魔王ザフト様がいらっしゃるわ」


「カリアも傍にいてくれるんだろ?」


「勿論よ」


「ならいいや」


「……不思議な人」


 気楽に構える俺に、カリアは呆れた表情を見せる。


 ギギーッと扉がゆっくり不気味な音を立てて開けられ、俺は中へと通された。


 広々とした左右の壁側に、さっき検査を受けたメイド服を着た魔族少女達がずらりと並び直立している。


 カリアを先頭に赤絨毯の上を歩き前へと進んでいく。


 奥の方に石段があり、その前に数人の魔族達が整列して立っている。

 どいつもカリア並みの強力な魔力を持っているようだ。


 黒騎士風の男に、ダークエルフの小娘、ドレス姿の吸血鬼の淑女、軍服を着た三人の半獣娘達だ。

 きっとカリアと同じ魔王の側近、四天王かそういう立場の魔族だろう。


 普通の人間なら、こいつらの瘴気を浴びるだけでも発狂してショック死してしまい兼ねないレベルだが、俺の場合カリアが傍にいることで平静を保つことができた。

 改めて愛の力って偉大だと気づく。


 石段の上に豪華な玉座があり、その左右にサキュバスクィーンと闇魔道師風の少女が並んでいる。


 その玉座に腰掛ける奴こそが……



 ――あれ?



 誰だ、こいつ?



 カリアは階段の前で跪き、後ろで俺も同じように膝をつき頭を下げた。


「魔王ザフト様――カリシュア、只今戻りました」


「うむ。ご苦労だった、カリシュアよ」


 魔王ザフトだと? こいつが――?


 俺の知っているザフトは全身が骸骨の男だった。


 こんな骸骨の仮面を被った人間っぽい奴じゃない!

 声や雰囲気も何か違う。

 しかし、全身に漲る天井知らずの闇の魔力は魔王ザフトそのモノだ……。


「その後ろにいる人間が、20年前に俺を暗殺した勇者が転生した者か?」


 口調も違う――前は自分のこと、「我輩」って呼んでいたぞ。


 俺は、カリアに「顔を上げなさい」っと促され素直に応じる。


 魔王ザフトは俺の顔を見ても特に反応を示さない。


 やっぱり可笑しいぞ……こいつ。


 確かに今の俺は16歳の少年……20歳代のライギスに比べれば若く見える。

 けど顔つきは、ほどんど変わってないんだ。

 普通「うむ、貴様の顔に見覚えがあるぞ」くらい言うんじゃないか?


「勇者よ。貴様の名前は確か、ラ、ライ……ライムギ?」


「陛下、ライギスです」


 魔王のボケに、隣にいる闇魔道師の少女がツッコんでいる。


 あっ、このすっとぼけ具合……やっぱりザフトか、こいつ。


「そうそう、ライギスね。転生前は、目的のためなら手段を選ばぬ勇者と聞いていたが随分と大人しいな? 貴様は俺に仕えているわけじゃないから、本来なら跪く必要はないと思うがな?」


「俺はただ、この子の立場を悪くしないよう振舞っているだけだ」


「ほう、カリシュアの立場か……報告通り興味深い奴だ」


 魔王ザフトは玉座から立ち上がり、片腕を上げる。


「皆、しばらく、こやつと二人っきりにしてほしい――」


 そう言うと、カリアを含めた周囲の魔族達が一斉に消えた。



「カリア!?」


「安心しろ、席を外してもらっただけだ」


 魔王ザフトは言いながら、ゆったりとした足取りで階段から降りて来る。


 俺は立ち上がり身構えた。

 装備は捨ててしまったので何も持っていない。


 こいつ……ここで俺のスキルを奪って殺す気か!?


 ペコパンに転生してから、俺は一度も《輪廻転生リインカーネーション》を施していない。


 まだ童貞ってやつだ。

 だから、今死んでしまったら二度と転生することができない。


 クソォッ! テメェに殺されるくらいなら、カリアに殺された方が遥かにマシだぜ。



「――そんなに身構える必要はない。危害を加えるつもりはないさ」


 魔王ザフトは言いながら、骸骨の仮面を取った。


 その素顔は黒髪で人の良さそうな純朴な顔立ちだ。

 年齢的にも16歳の俺とそう変わりない。

 どこにでもいそうな普通の男に見える。


 つーか人間の男じゃねぇか!?


 いや、しかし魔力は半端ない……ったく、傍にいるだけで立ち眩みがしそうだ。


 一体、何なんだ、こいつ!?


「あ、あんた……本当に魔王ザフトなのか?」


「驚くのも無理はない。前のザフトは全身が骸骨姿である死霊王ネクロキングだと聞いている」


「聞いている? じゃ、ザフトじゃないのか!?」


「ザフトさ……この身体はね。理由はライギス、お前と同じく転生したんだ。このザフトの身体にな」


「転生した!? 魔王の身体に!? お前は何者なんだ!?」


「俺の本名はシユン。元フォーリア国の勇者パーティで雑用係ポイントマンをしていた冒険者だ。自国の勇者に殺され、どういうわけか蘇生中の魔王ザフトとして転生してしまったんだ」


「蘇生中? カリアの話だと、俺が暗殺してから魔王ザフトはどの勇者にも殺されてないと聞いたぞ!?」


「……まぁ、内輪で色々あるんだよ。話すと長くなる」


 内輪だと? まさか内乱でも起こっているのか?

 まぁ、あのエロ大魔王のことだ。

 同じ魔族でも始末したい奴なんて大勢いるのだろう。


 しかし、わかるようでわからねぇ。


 こうして二人っきりで自ら正体を明かしている、こいつの目的が――。


 何を考えてやがる!?


「一体、俺をどうするつもりだ!?」


 俺の問いに魔王ザフトこと、シユンは不敵に微笑んだ。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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