第41話 二人っきりの誕生会
~ライギスside
カリアの正体が魔王軍の四天王……『隠密のカリシュア』だと?
魔王ザフト……あのエロ骸骨、やっぱり復活してやがったのか!?
――いや、俺はとっくの前に知っていた。
ただあんなバケモノと二度と戦いたくないから、ずっと無視してたんだ。
その証拠に、俺は転生し冒険者になってから一度も『勇者育成委員会』に立ち寄っていない。
けど、よりによって……初めて好きになった女の子が魔族で、しかも側近である四天王だったなんて……嘘だろ?
俺はカリアの言葉が信じられず、両目を見開いたまま硬直した。
「……証拠、見せるわ」
カリアは繋いでいた手を離す。
朝日が昇ると同時に、彼女の全身が光に包まれ姿を変えていく。
その姿はカリアとしての原形はとどめているも、明らかに異なる存在だった。
陽光に照らされ、より輝きを増した黄金色のツインテール。頭部にはフリルのカチューシャを付けている。
赤い瞳に青白の肌。先が尖った両耳。形は良くても血の気が引いた唇。
黒のフードマントをまとい、深緑色を基調としたスカートの短いゴシックファッション。
華奢な右手には、彼女の身長より高く巨大な大鎌が握られている。
その姿はまるで『死神』だ。
「――
「……死神……カリアが……どうして人間の姿に?」
「魔王ザフト様の命令で地上の調査と勇者ライギス、貴方を監視するためよ」
「俺を監視だと? あの魔王ザフトが? 何故、奴は俺が転生したことを知っているんだ?」
「あの方は知らなかったわ。私が報告して魔王に指示を仰いだのよ。
「そうか……それで俺に近づいたってわけか? そういや、ギルドの受付でイキリまくって真っ先に『ライギス』って名乗って、みんなから大笑いされたっけな」
間抜けな話、自分から正体をバラしたようなもんだ。
「そうね。あの場で貴方の正体がバレても面倒だったし、貴方がステータスを誤魔化すために施した魔法だって、なんだか頼りなかったわね。だから、私が手助けしたのよ?」
「だけど、ギルドの連中は最初からキミがギルドマスターの娘『カリア』だって認識してたぞ? ユウガだってそうだろ? それにロトブルとスレーフだって、俺に末娘として紹介してくれたじゃないか?」
「ザフト様からスキルを授かったからよ――《
「スキルを与える!? 魔王ザフトはそんなこともできるのか!?」
「ええ、前にとある勇者から奪ったスキルらしいわ。でも効果範囲がギルドの建物内に限られたり、持続時間も24時間しか持たないという弱点もあるのよ」
それで、たまたま訪れたギルドマスターの実娘達もわからず、ギルドの連中の記憶も抜け落ちたってわけか?
だがあのエロ骸骨魔王……奪ったスキルを他者に与えられるって、やっぱとんでもねぇ奴だ。無視して正解だったぜ。
「しかし、俺はキミのことを覚えている……」
「私と初対面の貴方にスキル効果は得られないわ。予め私の正体を知る、あのギルドマスター夫婦もね」
「ロトブルとスレーフもだと!?」
「そう――20年前よ。私は『奈落』で、あの夫婦と契約したの――命を助けてやる代わりに、私の協力者になれとね。それでダンジョンから逃がしてあげたわ」
「……なんだよ、あいつら。散々、前世の俺を批判して綺麗ごと抜かしていた癖に……テメェらなんて、もろ魔王軍、しかも死神と契約してんじゃねーか」
その死神娘にぞっこんになった俺も相当イカれてるけどな。
「ライギス、怒っている?」
「いや、もういいんだ。それに俺のことは『ペコパン』って呼んでほしい」
「わかったわ、ペコパン……私は、そうね……貴方、いえ
「じゃあ、カリア――魔王は俺を監視してどうするつもりだったんだ?」
「キミが再び、勇者を目指しザフト様の暗殺を目論むようであれば、逆に私が暗殺すること……そう命じられたわ。あの方、不死の存在なのに最近『暗殺』って言葉に過敏になっているの」
「ましてや、俺は一度成功している勇者……目をつけられて当然か」
「そうね……その力は健在……いえ、それ以上の存在だと理解したわ。あのユウガの一件でね」
「それで、カリアは一日姿を消し、魔王に報告して審判を仰いだ……俺を今すぐ処刑するべきかどうか」
「ええ、そうよ」
「んで、審判の結果は?」
「――ザフト様がキミに会いたいって」
「何だって? 俺に?」
俺の問いに、カリアは無言で頷く。
「どうして? 相打ちとはいえ、俺は暗殺を成功させた元勇者だぞ!? 普通、そんな危険分子と直に会おうとするバカはいるか!?」
「……あのお方が何を考えておられるか、私にはわからないわ。けど、以前のザフト様とは明らかに異なる方よ。今のあのお方は、人間達にとって最も驚異な存在になるでしょうね」
「驚異だって? まさか地上の侵略か!?」
「ご想像にお任せするわ」
本当にそうなら、益々俺に会いたいと思う気持ちがわからねぇ。
確か相手のスキルを奪えるらしいから、俺の《
しかし、これはレアだが非戦闘用のスキル。
不死の存在である
「ペコパン、どうする? 私と一緒にザフト様の所へ行く? それとも抵抗してここで戦う?」
「戦う? 俺がカリアと?」
「そうなるわ。貴方の返答次第よ」
カリアは言いながら、手に持つ大鎌を両手に持ち戦闘態勢に入った。
流石、四天王……相当ヤバイ魔力だ。
はっきり言ってタイマンじゃ確実に負ける。
ライギスの戦法として、一度姿を消し暗殺戦に持ち込めば――。
けど……。
俺は鞘に納めた剣をそのまま高台から放り投げる。
ついでに持っている装備、全てぶん投げた。
「ペコパン……?」
「冗談じゃない――カリアと戦うくらいなら、キミに殺された方が余程マシだ。それにライギスだった頃を振り返ると、大好きな子の手で殺された方が幸せなことかもしれないなぁ」
俺の返答で、カリアの赤い瞳が一瞬だけ潤む。
「……私は魔王ザフト様に絶対の忠誠を誓う魔王軍の四天王……この身も心も永遠にザフト様のモノよ……。どんなに想ってくれても、私がキミを好きになったり愛することはできないわ」
「四天王の立場なら仕方ないよ。けど俺は魔族とか人間とか関係なく、カリアが……キミが好きなんだ。大好きなんだ。これまで沢山偽ってきた俺だけど、この気持ちだけは偽りたくない!」
俺は思いの丈をカリアにぶつける。
彼女は戦闘態勢を解き、大鎌を下ろした。
「そういえば、まだお祝いしてなかったね……ハッピーバースデー。お誕生日おめでとう、ペコパン」
カリアは優しく微笑んでくれる。
俺が最も守りたい大切な笑顔を向けて……。
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