第40話 大好きな子の正体




 ~ライギスside



 リーフとミーフが二人姉妹だって?


 じゃ、カリアは一体何だって言うんだよ!?


 俺はあんたらの両親から、ちゃんと彼女を紹介されているんだからな!


 ――そうか!


 カリアは特別可愛くて美人で、二人に似てないから嫉妬しているんだ。

 髪の色もまるで違うしな。


 ったく、これだから女ってやつは……。


 俺は受付嬢の顔を見つめる。

 当時、彼女も同じ現場に居合わせているし、これまでカリアと会話している所を見ているからな。


「ハハハ、笑えねぇ。このお姉さん達、冗談きついっすよね~?」


「――あら本当よ、ペコパン君。ギルドマスターの娘さん、二人姉妹よ」


「はぁ!? 何言ってんだよ! あんた、カリアのこと知ってんじゃねぇか!? あんただけじゃない! このギルド内の人間なら誰でも知っているし、あのユウガ達だって、カリアに声を掛けて誘ってたんだぜぇ!?」


 しれっと言う受付嬢に対して、俺は声を荒げる。


 いくら姉達の機嫌を伺って口調を合わせているのか知らないけど、流石に聞き捨てならない。

 特にカリアに関しちゃよぉ!


 俺の怒声で三人とも沈黙し、きょとんと瞳を見開いている。


 ふと受付嬢が口を開く。


「ペコパン君……カリアって誰?」


「なっ……なんだと!?」


 俺は受付嬢を凝視する。

 ボケをかましてすっとぼけているとか、嘘をついているとかじゃない。


 この女……まさか。


 ――本当にカリアがわかっちゃいねぇ!


 リーフとミーフの姉妹も同様だ。


 不思議そうに「何言っているの?」っと、言いたそうな顔で見つめている。


「ふざけるなよ!」


 俺はその場を離れ、併設された食堂へ向かう。




 そこは酒場にもなっており、沢山の冒険者達が景気よく盛り上がっていた。


 酔っぱらった冒険者達の中に、ユウガの情報を与えてくれた熟練冒険者のオッさんもいる。


 俺は、そのオッさんを捕まえて、カリアのことを聞いた。


「ん? んん? カリア~? ギルドマスターの娘さん? あのハゲゴリラに隠し子がいたのか~ニャハハハッ、ヒック!」


 こいつまで、カリアのことを忘れてる!?


 その後、色々な奴に聞きまくっても、誰もカリアって少女を「知らない。見たことない」の一点張りだ。


 何だこれ……一体、俺の周りで何が起こっているんだよぉ!?


 まるで、カリアの存在だけ連中の記憶から、すっぽり抜け落ちているみたいじゃないか!?


 全てが夢や幻と言わんばかりに、カリアが否定されている――



「嘘だぁぁぁぁぁっ! そんなわけあってたまるかぁぁぁぁぁぁっ!」



 俺はギルドから抜け出し、都市中を走り回る。



 もう訳がわからず無我夢中で、カリアを探した。




 カリア! カリア! カリア! カリア! カリア!



 そんな筈ない! そんな筈ない! そんな筈はないんだ!



 彼女は存在する! 実在する! 実在しなきゃいけないんだ!



 かれこれ、どれくらい走り回ったのか。



 いつの間にか、夜が明けようとしていた。


 俺は憔悴し、ふらふらと誰もいない街を徘徊する。


 疲労で膝が折れ、地面に蹲った。


「カリア……カリアぁ……」


 弱々しくその名を呟くので精一杯だった。



「――ペコパン」


 懐かしき響き、愛しの声。


 俺は顔を上げると――なんと、すぐ目の前に彼女が立っていた。


 淡く儚そうに微笑む、カリアの姿。


「カリアぁぁぁぁぁ!!!」


 渾身の力を振り絞り、叫び立ち上がる。

 必死で腕を伸ばし、彼女の腰元に抱きついた。


「ああ、カリアァッ! 本物のカリアだぁ! 良かったぁ! ほら見ろ、やっぱりいるじゃねぇか! あああぁぁぁぁぁぁ……」


 俺は顔を埋め、声を張り上げる。


 その柔らかい温もりを確認しながら、みっともなく号泣していた。


「……ペコパン、私のこと一生懸命探してくれてありがとう」


 カリアは嫌がりもせず、寧ろ優しく俺の髪を撫でてくれる。


「ぐすっ……いいんだ。カリア、キミが存在してくれるだけで……俺はもう」


「場所を変えてお話しない? 約束通り始めましょう」


「約束? なんの?」


「――二人っきりの誕生会だよ」





 カリアに連れられ、俺は都市を一望できる高台に来た。


 もうじき朝日が昇ろうとしている。

 彼女は自分から俺の手を握り締め、一緒にその光景を眺めていた。


 ――本当なら色々聞きたいことが山ほどある。


 しかし俺にとっては、そんな事どうでも良くなっていた。


 ふと、カリアが口を開く。


「こうして見ると、ナルポカ共和国は綺麗な国ね……」


「そうだな……考えてみれば俺、こうしてゆっくりとこの国を眺めたことなんて一度もなかったよ」


 ましてやライギスの頃なら尚更だ。


 けど今は、これだけ心穏やかな気持ちで過ごしている。

 これも、カリアが……キミが傍にいてくれるからだ。


「……ねぇ、ペコパン。どうして何も聞かないの?」


「え?」


「私のこと……可笑しいと思っているでしょ? だから、ずっと探してくれたんでしょ?」


「もういいんだ……カリアが俺の傍にいてくれるだけで……こうして話して触れ合うことができているから……」


「優しいね」


「……いや。本当の俺は、キミにそう言われる資格がない男なのかもしれない」


「どうして?」


「信じてもらえないかもしれないけど……俺の前世は『悪徳の勇者ライギス』だったんだ。その証拠に今も当時の糞みたいな記憶とLv値が引き継がれている……20年前、魔王ザフトと相打ちになって、勇者になった時に覚醒したスキル《輪廻転生リインカーネーション》を発動して5年後先に転生したんだ。その手段も、キミのような子には絶対に聞かせたくない……ユウガ達以上の最低でクズなやり方だ」


 何故今頃になって、カリアに全て打ち明けてしまったのかわからない。


 きっと、カリアに聞いてもらいたかったんだと思う。


 ライギスだった頃の自分、そしてペコパンとしての自分のことを――。


 これまでろくな生き方をしてこなかったクズ勇者として懺悔したかったのかもしれない。

 荒んだ心に初めて光を照らしてくれた、この世で最も愛しく大好きな、カリアという少女に……。


「でも今のキミは違うんでしょ?」


「ああ……自慢じゃないがペコパンとして生まれてから、親や兄弟を含む誰にも迷惑を掛けたことはない。まぁ記憶は維持していたから、ろくな妄想ばかり抱いていたけどね……けど、ユウガ達は別だった。必ずキミに危害が及ぶと知ったから、初めて手を下してしまったんだ」


「……知ってるよ。全部、私のためだって」


「知ってる? カリアが?」


 俺は横目で、彼女の横顔を見つめる。


 カリアは街並みを眺めたまま、黙って細い首を縦に振った。


「ペコパン……どうしてギルドカードを作成した時、キミのステータスが誤魔化せたと思う?」


「俺が事前に施した魔法が持続していたから……そう割り切っている」


「違うよ。キミの魔法効果は既に切れていた……私が魔法を施したの。キミと握手した時だよ」


「カリアが……どうして?」


「ペコパンなら……ううん、ライギスなら、もう気づいているでしょ? 私が人間じゃないってこと――」


「…………」


 俺は無言のまま何も答えない。


 返答してしまえば、またカリアが消えてしまい二度と会えなくなる……それが怖かった。

 そう、まるで溶けていく泡のように……。


 しかし、それは「YES」と言っているようなものだ。


 カリアはそんな俺を見つめ、切なそうに微笑む。


「キミは正直に本心で話してくれたわ……だから本当のこと言うね――私は魔王軍、四天王の一人『隠密のカリシュア』よ」


 彼女からその言葉を聞き、俺は絶句した。






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