青い青い鳥

 冬になると、渡り鳥たちは暖かい場所を求めて飛び立ちます。

 西へ東へ、はたまた東へ西へ。

 北へ南へ、はたまた南へ北へ。

 ある渡り鳥のつがいは、広い畑のそばにある、小さな森の、そのほんの入り口くらいのところへやってきました。

 そこへ巣を作りました。そして卵を産み、家族が生まれるのを待ちました。


 あるとき、渡り鳥たちが眠っている間に、不思議なことが起こりました。

 夜空が青白く照らされ、何か光るものが飛んできました。空高くからやって来て、落ちて、落ちて、落ちて、それから渡り鳥の卵のすぐそばを通り過ぎました。

 しばらくすると、四つあった卵たちがだんだんと青ざめていき、それから、握りこぶしくらいの青い石に変わっていました。

 四つの青い石は、ゆっくりと巣の中を沈んでいき、とうとう突き破って真下へ落ちてしまいました。

 幸い、下には柔らかい土と木の葉の山があって青い石たちは割れずにすみました。


 太陽が顔を出し、朝になりました。心地よい日の光を浴びて、青い石たちにヒビが入ります。破れ目は次第に大きくなり、そして中から小鳥が飛び出しました。小さな小さな、そして、青い青い鳥でした。

「朝だわ」

「お腹が空いたわ」

「ここはどこ?」

「お家はあそこかしら?」

 青い青い鳥たちは、口々にさえずりました。そして、空を見上げ、遠くの木の枝に鳥たちの巣があるのに気がつくと、飛び立とうとしました。しかし、

「駄目だわ」

「飛べないわ」

「届かないわ」

「どうやって飛ぶの?」

 飛び立とうにも、飛び方が分かりませんでした。親鳥から飛び方を教わっていないのです。

 青い青い鳥たちは、ひょこひょこと地面を跳ね回りながら考えました。

「どうしましょう」

「どうしましょうね」

「どうしましょうかしら」

「あっ!」

 一匹の青い青い鳥が、悲鳴を上げました。目の前には、いつの間にか、大きな蛇がいました。大きな蛇は、その大きな口で、青い青い鳥たちをそっくり食べてしまいました。


 そこにジョンソンさんがやってきました。

「おや、こんなところに蛇がいる」

 それから、あたりに散らばった青い石の破片や、青い羽毛を見ると、むんずと蛇を掴みながら言いました。

「かわいそうに。今出してあげよう」

 それから蛇を振り回すと、中から、ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーんと青い青い鳥たちが出てきました。

「出られたわ」

「生きてるわ」

「骨が折れたわ」

「あなた誰?」

 鳥たちは口々にさえずります。

「わたしはジョンソン。君たちは?」

 ジョンソンさんが訊ねました。

「分からないわ」

「鳥だわ」

「渡り鳥だわ」

「上の巣から落ちてきたの」

 ジョンソンさんは遥か上にある鳥の巣を見つけました。

「巣に帰るのは難しそうだ。どうだろう、ひとつ私の家に行かないかい?」

 ジョンソンさんの提案に鳥たちは喜びました。早速、ジョンソンさんは鳥たちを家に連れて行くことにしました。


「ただいま」

 ジョンソンさんが家に帰ると、

「おかえりなさい」

 青い赤ちゃんが出迎えます。

「お邪魔します」

「ごめんください」

「失礼します」

「こんにちは」

 青い青い鳥たちが一斉に挨拶をしました。

「お客さんがいっぱい! こんにちは」

 青い赤ちゃんはびっくりして思わず声を上げてしまいました。

「しばらく泊めてあげようと思うんだ。良いかな?」

 ジョンソンさんが訊ねます。

「ええ。構いませんよ」

 青い赤ちゃんが言いました。

 それで、青い青い鳥たちは、ジョンソンさんたちと一緒に暮らすことになりました。


「お腹が空いたわ」

「何か食べたいわ」

「スープが良いわ」

「パンも欲しいわ」

 青い青い鳥たちがさえずります。

「はい。はい。はい。ただいま」

 ジョンソンさんと青い赤ちゃんは大急ぎでスープを作りました。

 そして、青い青い鳥たちに食べさせます。

「熱すぎるわ」

「冷たすぎるわ」

「塩っぱすぎるわ」

「私は好きだわ」

 青い青い鳥たちがさえずります。

 次にジョンソンさんと青い赤ちゃんはパンを焼いて、青い青い鳥たちに食べさせました。

「固すぎるわ」

「柔らかすぎるわ」

「甘すぎるわ」

「丁度いいわ」

 青い青い鳥たちがさえずります。お腹がいっぱいになった鳥たちは、そのまま眠ってしまいました。


 次の日の朝、青い青い鳥たちが目覚めると、外はすっかり明るくなっていました。ジョンソンさんたちはもうこの頃には仕事に出かけています。

「誰もいないわ」

「どこにもいないわ」

「ごはんがあったわ」

「美味しかったわ」

 青い青い鳥たちが口々にさえずります。それから一匹が言いました。

「私たち、私たちだけでも上手くやっていけそうな気がするの」

「そう思うわ」

「ごはんが美味しいわ」

「スープもあるわ」

 他の鳥たちもめいめいさえずりました。

「だからこの小屋を出て、森で暮らしていこうと思うの」

「そうね」

「そう思うわ」

「行きましょう?」

 鳥たちは、外へ出かけることにしました。


 ジョンソンさんの家を出て、森へ向かって行く途中、広い畑の中を通って行かなければなりません。

 青い青い鳥たちは、ひょこひょこと跳ねながら進んで行きます。

 するとすぐ近くで、何かガサガサ鳴る音が聞こえました。

「何かしら」

「蛇かしら」

「逃げましょう」

「怖いわ」

 鳥たちは小さな声でさえずりました。すると、とうもろこしの影から大きなネズミが出てきました。

「鼠だわ」

「大きいわ」

「あっ」

「あーっ」

 ネズミは瞬きする間に鳥たちを食べてしまいました。


「おやまあ」

 まるまる太って動けなくなってしまったネズミを見てジョンソンさんは言いました。それからネズミの背中をやさしく叩くと、ポロ、ポロ、ポロポロ、と青い鳥たちが出てきました。

 お腹の中のものを吐き出して、すっかり青ざめたネズミは言いました。

「ありがとうございます。あなたたちも、急に食べてしまってごめんなさいね」

 そう言って、青いネズミはどこかへ走っていきました。すると、空から大きな影が降りてきて、青いネズミは捕まってしまいました。

「あっ、お母さんだわ」

「えっ、お母さん?」

「お母さんだわ!」

「ごちそうだわ!」

 青い鳥たちはすっかり興奮してさえずりました。青い鳥たちの声に気づいた母鳥が、ネズミを携えやってきました。それから、「クルルゥゥゥ」と優しい声で鳴きました。

 青い鳥たちは、ジョンソンさんに言いました。

「助けてくれてありがとう」

「私たちおうちに帰るわ」

「ごはんが美味しかったわ」

「スープも美味しかったわ」

 ジョンソンさんは手を振り応えました。それから青い鳥たちは、母鳥と、後からやって来た父鳥とに連れられて、住処へ帰って行きました。ジョンソンさんは鳥たちの姿が見えなくなるまで、ただ立っていました。

「さようなら」


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青い青い赤ちゃん @chased_dogs

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