ゴミ箱の子 三十と一夜の短篇代58回

白川津 中々

 ある日ティシュがなかったのでそのままゴミ箱へ放出したら思いの外具合よく日毎そうするようになっていた。

 ゴミ箱への射精は解放感を伴い、得も言われぬ快楽が欲求を刺激し心を満たす。おまけにペットのまんじゅうが決まって見にきて、さながら公開プレイの様相なのである。そりゃ興奮もする。

こうなるといつかゴミ箱が妊娠するかもなと馬鹿な事を考えていたら、本当に腹のあたりが膨らんできたのであった。


 当初は面白がって見ていたが段々と愛着が湧くもので、俺は辛そうにしているゴミ箱に布団をかけてやったり横にしてやったり、気分が悪そうな時はレモンをやったりしていた。時に機嫌が悪くなり中のごみを散乱させる事もあったが、そんな時は優しく抱き留めてやるとおとなしくなった。胸の中で温めてやると、なんとなくゴミ箱と心がつながっている気がした。これが家族であると、これが愛であると、俺はかつてない感情に戸惑いつつも、心地がよかった。


 そして十月十日。臨月を迎える。


 いつ産気づくだろうかと気が気でなく待っていると、突如ゴミ箱がガタガタと揺れ、その日だと悟った。


 救急車に電話をしても相手にされない。そりゃそうだ。いったい誰がごみ箱が妊娠しただなんて妄言を信じるというのだ。そんな奴は気が狂っている。


 仕方がないので自宅出産を決意。うろ覚えの知識でお湯とタオルを用意。

 苦しそうに悶えるゴミ箱を必死に握り、ヒ、ヒ、フーとラマーズ法を促すも、一向に楽になる気配はない。時間が過ぎてゆく。どうやら難産。途中、母親から飯の呼び声があっても無視の一手。それどころではない。大切な子供が生まれるのである。どうやら今日はジンギスカンらしいがマトンよりも子孫。当然の選択である。


 そして深夜。いよいよ大詰め。産道が開き、頭が見えてきた。



「がんばれ! がんばれ!」



 必死で声をかける。ゴミ箱は苦しみながら腹を動かし、子供を産もうとしている!

 なんという神秘! なんという感動! これぞまさしく生命の美しさ! 新たなる命の誕生の輝き! おぉ神よ! 感謝します! 私は人としてこれほどまでに感動した事はありませんでした! 我が子幸あれ! 人類に希望あれ! 



 涙を浮かべ見守る。 霞んで前が見えない。産まれる! 生まれる! うまれた! とうとう誕生したのだ! ゴミ箱の子が!




 だが、目の前に横たわる子供は、猫の姿をしていた。


 まんじゅう、お前だったのか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴミ箱の子 三十と一夜の短篇代58回 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説