第17話 転移

「それで、今日はいったいどうしたの?」

エターニャさんが尋ねてきた。

「やっと本題に入れるわね……実はあなたの力を借りたいの」

「私の力を?まさか異世界に誰か飛ばすとかじゃないわよね?」

「そのまさかよ。この子をもとの世界に戻してほしいの」

そういってリーテさんは、私の肩をポンと叩いた。

「何か訳ありってこと?正直、かなり魔力を使うからあまりやりたくはないんだけど」

そう言ってエターニャさん嫌そうな顔をした。

「まあ、そういわないで。もちろんタダでとは言わないわ。代わりにその豚を置いていくわ」

その場にいるリーテさん以外の皆が驚いた表情をした。

「え?そ、そうなの……」

エターニャさんは真っ赤な顔をして、デュエムさんをちらちら見ていた。

デュエムさんは驚いた表情のまま、

「それは困ります!さすがに私も王都で仕事がありますし、それに私がいなくなったら」

「黙れ豚野郎!」

リーテさんの怒鳴り声で、その場は水を打ったように静まり返った。

そしてリーテさんはゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。

「よく聞けこの豚野郎。お前の存在など、大したものではない。それとも英雄と言われて浮かれているのか?お前ごときが」

デュエムさんはうつむいている。

リーテさんはにやりと笑い、

「そうだな、ではこうしよう。これは放置プレイだ。私や沙羅がここに来るまで、お前はひたすらここで待つんだ。さぞ辛いだろうな。それともお前のMは表面的なものなのか?直接的な言葉や暴力だけでは満足できないのか?」

デュエムさんは、ハッとした顔をした。

「確かに……確かにそうです。これはプレイの一環……エターニャ様の不慣れな攻めを私なりに堪能し、最高のご褒美が返ってくるまでただひたすら待つ。これは、これは最高のご褒美じゃないか!」

彼はそう大声で言うと急に立ち上がり、今までに見たことがないほどくねくねし始め、顔は紅潮し、妙な奇声を発し始めた。

ステラちゃんと私は気持ち悪さに顔をゆがめた。

エターニャさんはデュエムさんの姿に、口を半開きにし、目はとろんとして大満足の様子だった。

もうこの二人の世界にはついていけないと思った。


オホンとリーテさんが咳ばらいをし、

「それじゃあ話を戻すわね。エターニャ彼女をもとの世界へ戻してくれるかしら?」

「任せて!私が責任をもって元の世界へ彼女を戻すわ!」

とてもいい返事だった。


私はエターニャさんやリーテさんと一緒に応接間の奥にある、薄暗い部屋についた。

エターニャさんがたいまつに火をつけると、床には大きな魔方陣が書かれていた。

「沙羅、心配しなくても大丈夫よ。あなたはこれから、ビルの屋上へ戻るわ、こちらの世界に来る直前にね。そこからどうするかはあなた次第。でもね、これだけは忘れないで。あなたは強いわ。どれだけ腹が立つ上司や同僚、同期に嫌がらせをされても負けてはいけない。あなたは必ず奴らに復讐を果たせる」

「私は口撃のスキルを身につけられているのでしょうか?それに、ちゃんと復讐することができるのでしょうか?」

リーテさんは優しく微笑んだ。

「大丈夫。そうだ、どうしてもだめだと思ったらこれを使って」

そう言ってリーテさんは私に小包を渡した。

「これはいったい?」

「私からのプレゼント。ここぞという時にあけてね!」

「ありがとうございます」

そう言いリーテさんを見つめると、リーテさんはまた優しく微笑んだ。


そこへ後ろからエターニャさんに声をかけられた。

「そろそろ始めるわよ!リーテ、そこから離れて」

「わかったわ。……沙羅、あなたならできる。頑張るのよ」

そう言ってリーテさんは、私から離れた。


「沙羅、それじゃあ始めるからそこから動かないでね」

エターニャさんがそういうと、魔法陣が光はじめ、光が私を包むようにぐるぐる回り始めた。

するとものすごい風が吹き始めた。私はリーテさんのほうを見た。

すると彼女は、狐の面を外しこちらに向かって微笑みかけていた。

その顔はどこかで見たことがある顔だった。


そして私の真っ白になったのだった。


気が付くとそこは、私が飛び降りたビルの屋上だった。

夜空は薄く濁り、星がぽつぽつとしか見えない。

私は元の世界に帰ってきたのだ。

私は長い夢を見ていた感覚だった。

しかし、手にはリーテさんから渡された小包があった。

私はどっと疲れた感覚がして、家へ帰ることにした。


家に戻りドアを開け、電気をつける。

私は改めて元の世界へ帰ってきたのだと実感した。

そして今までの異世界のことを思い返していた。

毎日毎日いろいろなことがありすぎて、本当にあっという間だった。

リーテさんやステラちゃんの顔が浮かび、私は涙が止まらなくなった。


明日からまた仕事に行かなくてはいけない。

憂鬱が自分を支配した。

しかし、以前の私とは違っていた。

あいつらに必ず復讐するという覚悟が私には宿っていたのだ。

明日会社に行ったら誰からやってやろうかワクワクしている。

そのあと私は一晩かけて復讐の計画を練るのだった。

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社畜ちゃんは復讐がしたいようです。 ハシダスガヲ @hashidasugao

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