第16話 初恋

翌日私たちはデュエムさんの屋敷を発ち、王都を抜け近くの森へとたどり着いた。

そこでステラちゃんはドラゴンの姿になった。

デュエムさんはとても驚いていた。

「か、彼女はドラゴンだったのか!」

「騒ぐな豚野郎。これに乗って西へ向かう」

私がそう言うと、少しくねっていた。

もう彼の反応にリアクションはない。


私たちはステラちゃんに乗り、国の西方へと向かった。

山をいくつも超えると、海が見えた。

リンク王国の西端は海に面しているようだ。

そして海岸線沿いに大きなお城があった。

リーテさんはそのお城を指さし、

「あれが四極の魔女の一人である、エターニャ=スパツィオがいる城よ」

「え!エターニャ様がいらっしゃるんですか!」

デュエムさんは驚いた様子だった。

「豚野郎。会話に入ってくるな!」

私はデュエムさんを怒鳴りつけた。

デュエムさんは再びくねくねし始めた。

「リーテさん、そのエターニャさんという方が、私をもとの世界に戻してくれるのですか?」

「そうよ、そのためにもこの豚が必要なの。こいつは彼女のための手土産みたいなものね」

「この豚が必要なんですか?」

リーテさんはクスクス笑いうなずいた。


そうこうしているうちに城の前に降り立った。

そしてステラちゃんが人間の姿に戻ると、デュエムさんは立膝をつき、ステラちゃんの手をそっと掴んで、

「あなたの力で私を消し炭にしていただけないでしょうか?」と、恍惚の表情で言った。

ステラちゃんは涙目でこちらを見ている。

私はデュエムさんの後ろから、

「おい、豚野郎。今すぐ手を放せ。お前はそこにある石を素手で叩き割っていろ」と言い放った。

彼はステラちゃんの手を放し、2mほどの岩を素手で殴り始めた。


デュエムさんを無視して城の城門をくぐり、敷地内へと立ち入った。

敷地内を進んでいくと大きな扉の前へたどり着いた。

扉についているライオンの形をしたドアノッカーを使いノックした。

すると後ろからデュエムさんが「割りました!」と声をかけてくる。

彼を再び無視し、もう一度ドアをノックした。するとゆっくり扉が開き、そこには真っ白なドレスを着た少女が現れた。

彼女の瞳はきれいなオッドアイをしており、その瞳は私をじっと見つめていた。

隣にいるリーテさんが彼女に挨拶をした。

「久しぶりねエターニャ。大戦の時以来だから、もう3年ぶりかしら」

エターニャさんは微笑み、

「そうね。会いたかったわリーテ。それに……」

エターニャさんは頬を赤らめうつむいた。

彼女はちらちらとデュエムさんを見ていた。

私は不思議そうにその光景を見ていた。

するとリーテさんが小声で私に教えてくれた。

「エターニャはこの豚が好きなのよ。本当に趣味が悪いわよね」

「え!ドMの豚野郎ですよ!こんなのが好きな人間なんているんですか?」

「聞こえてるわよ!」そう言ってエターニャさんは怒った様子だった。

デュエムさんは何のことかわからず首をかしげていた。


「まあいいわ。とりあえず立ち話もなんだから中へどうぞ」

そう言って私たちは中へと案内され、応接間のような広い部屋へ通された。

私たちは向きあうようにソファーへと腰かけた。

デュエムさんは当然のように床へ正座した。

それを見たエターニャさんは慌てた様子で、

「でゅ、デュエム様!こちらに掛けてください」とさりげなく自分の隣を勧めた。

「いえ、私のような豚が椅子に座るなど恐れ多いです」

「で、ですがお客様ですので、椅子に座ってください」

「いえ!私は豚人間です!お断りします!」

エターニャさんはあわあわしている。

見かねたリーテさんは、ふーと息を吐き、

「おい、そこの豚。話が進まないから横に座れ」と吐き捨てるように言った。

デュエムさんはしぶしぶエターニャさんの隣へと腰かけた。

案の定エターニャさんの顔は真っ赤になっていた。

私は小声でリーテさんに尋ねた。


「エターニャさんはどうしてこの豚が好きなんですか?」

「えっと……大戦のときに、そこの豚が敵の矢をエターニャの代わりに受けたのよ。正直エターニャの力であれば、余裕でかわせたんだけど、そこの豚はご褒美だと思ったんじゃない?」

「あの時、私は運命を感じたの。そしてこの世には本当に王子様がいるのだと思ったわ」

急にエターニャさんが補足を始めた。

「あれは、第3次キリク侵攻の事だったわ、私たちと……

この話が長くなると感じた私は、リーテさんへ再び小声で尋ねた。

「でも、それだけ好かれていて、どうしてこの豚は何の反応もしないんですか?」

「それは、彼女もMなのと、彼女の魔法は物理攻撃系じゃないからピンとこないんじゃない?」

エターニャさんは顔を真っ赤にして、「Mじゃないわよ!」と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る