第15話 嘲笑
私はその後、顔を合わせるたびにデュエムさんを罵倒した。
本当に心苦しいのだが、これも修行だ。仕方がない。
私は心を鬼にしてひたすらデュエムさんを罵倒し続けた。
その度に彼は顔が紅潮し、目はとろんとして、びくびく痙攣している。
本当に気持ちが悪い。
私の罪悪感は徐々に薄れてきた。
しかし、彼の興奮も長くは続かなかった。
おそらく彼は徐々に私の罵倒に慣れてきているのだろう。
このままではまずい。これでは彼を魅了しきれず、ついてきてほしいと頼んだとしてもきっとついては来てくれないだろう。
そこで私は元の世界で受けていたパワハラの数々を思い出した。
言葉の暴力で一番応えるのは人格否定だ。
自分の存在というものに対して疑問を持つような、今までの人生や人間としての尊厳を否定されるのは、本当にきつい。
次にきついのは周りからのひそひそ話や嘲笑だ。
これもボディーブローのように効いてくる。
誰も信じられなくなり、この世界には自分一人しかいなくなったような感覚に陥る。
最終的には疑心暗鬼になり人目が気になって仕方なくなるのだ。
これだ!と思った私は、リーテさんや、ステラちゃんに協力してもらい、直接的な暴言を吐くのを止め、デュエムさんにわざと見えるように指をさして彼を笑い、聞こえるか聞こえないかぐらいの悪口をひたすら続けた。
はじめはそこまで反応はなかったが、やはり徐々に効いてきた。
そしてそれに追い打ちをかけるように、彼が眠っているところを無理やり起こし徹底して睡眠を妨害した。
人は眠れなくなると、どんどん思考が弱くなり、自分でものを考えられなくなる。
そして部屋の高価そうなものを片っ端から壊して、彼の驚くさまをあざ笑い続けた。
そして1週間がたった頃、ついにデュエムさんは私のことを「沙羅女王様」と呼ぶようになった。
そして彼の屋敷に来てから10日目、いよいよ彼を連れ出すことにしたのだ。
「おいそこの豚野郎。相変わらず気持ちが悪いなお前は」
私がそういうと、彼は例の表情でびくびく痙攣し始めた。
もうここまでくると慣れてしまい、そこまで気持ちが悪いとは思わなくなっていた。
「あ、ありがとうございます。沙羅女王様」
彼を床に座らせ、私はソファーに腰かけた。
「お前に一つ頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
「はい!何なりとお申し付けください!」
私はにやりと笑みを浮かべる。
「明日国の西方へ向かうからついてこい。本当はお前のような気色の悪い生き物と一緒に行動するなどごめんなのだが、今回はお前を荷物持ちとして特別に連れて行ってやろう」
「はい!ありがとうございます!」
デュエムさんはとてもいい笑顔で答えた。
こうして彼を連れ出すことに成功した私たちは、翌日彼の屋敷を発つことになった。
私はその晩リーテさんと中庭で話をした。
リーテさんは笑顔で、
「さすがは沙羅ね!かなりうまくいったじゃない!」と満足そうに言った。
「ありがとうございます。ですが、自分があんなにひどいことをできるとは、なんだか徐々に怖くなってきました……」
「口撃には冷酷な心が必要よ。だからこそ慈悲の心をもたず、徹底して相手を追い込むことが必要なの。でも直接的な暴言だけじゃなく、相手の猜疑心を利用するなんてやるわね」
「あれは、私も元の世界で大分やられたので……」
リーテさんは咳払いをして、話題を変えた。
「とにかく、明日はこの屋敷を出て西へ向かうわ。結構距離があるから、ステラちゃんに乗せてもらいましょう」
「でも、デュエムさんにステラちゃんがドラゴンだということがばれてしまいますが、それはいいんですか?」
リーテさんは少し考えるそぶりをしてから、
「まあ、騒いだら電気ショックで気絶させるから問題ないわ」と言い、や指を突き立てた。
デュエムさんの扱いは、とても雑になっている。
「……わかりました。あの、西にいる四極の魔女に会っていったいどうするのですか?」
「彼女は時間操作系の魔法を使えるの。だからいよいよ元の世界へ戻るときが来たのよ」
私は呆然としてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ私はこの世界に来てそこまで強くなってはいません。今戻ってもきっとまた前と同じ結果になってしまうと思うのですが……」
そう。私はこの世界に来てから、特に口撃について学んだわけでもなく、ほとんどリーテさんの力でここまで来ているのだ。
だからこそ、元の世界に戻ったとしてもまたあの日々が繰り返されるのではないだろうかと不安になってしまった。
しかしリーテさんは口元でニヤッと笑った。
「そんなことはないわ。あなたはしっかり強くなっている。それに最後に私からとっておきのプレゼントをあげる。それを使えば何の問題もないわ」
「とっておきのプレゼントですか……わかりました。リーテさんを信じます」
こうして私たちは、明日西の魔女の元へと向かうことになった。
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