第14話 巡合

私達は王都に到着し、手筈通り潜入することができた。

門を通るときは鼓動が早まったが、抜けると徐々におさまった。


王都は人が多く行き交い、賑わっていて、至る所に屋台などが出ていた。

私とステラちゃんはあたりをキョロキョロと見回していた。


中央の広場に着くと、大きな銅像があった。

リーテさんはその銅像を指差し言った。

「今回のターゲットはこの人よ」

「え?こんな銅像になっている人を狙うんですか?」

私は驚きを隠せなかった。

リーテさんは微笑み、

「そうよ。この国の英雄だからね。彼はキリクとの戦争の際に敵国の王子を討ち取っているの。だから銅像までできてるのよ」

「そんなにすごい人なんですね……」


私たちはその日の宿を求め、歩みを進めた。

すると後ろから声をかけられた。


「リーテ女王様!」

私たちは驚き後ろを振り向く。

するとそこには、先ほど銅像になっていた人物が現れたのだ。


彼の名前は、デュエム=エスタ=チェルタルド。

この国の英雄であり、なかなかイケメンである。

彼の体はがっしりとしていて、凛々しい戦士そのものだった。


リーテさんは淡々と言った。

「勘違いではないでしょうか?私はリーテではありません」

「そんなはずはありません。私にはわかります。それに……あなたの事情は理解しております。どうして王都にいらっしゃるのかはわかりませんが、よろしければ私の屋敷に来てください。もちろん誰にもこのことは言いません」


リーテさんはふーと息を吐くと、

「わかりました。気が付かれては仕方がありません。お屋敷に伺いましょう。いいわね?」

と言い、私とステラちゃんに同意を求めた。

私とステラちゃんは顔を見合わせうなずいた。


デュエムさんのお屋敷は王都のはずれにあり、かなり立派なお屋敷だった。

私たちは応接間へ通された。

応接間の中央には向かい合うように大きなソファーが置かれており、デュエムさんと私たちは向き合う形で座った。


「それにしても、ご無沙汰しております。大戦の時は、本当にありがとうございました。あなたたち四極の魔女様のおかげで我が国は救われました」

デュエムさんはにこやかに言った。


「おい、誰がしゃべっていいと言った?」

リーテさんが突然、低くよくとおる声で言った。

私は突然のことで何が何やらわからない。

「り、リーテさん……突然どうしたんですか?デュエムさんは普通に話を切り出しただけですよ」

リーテさんは私のほうを向き微笑んだ。


そして再びデュエムさんの方を見ると冷たい口調で言い放った。

「おい、この豚野郎。お前ごときがずいぶん立派な屋敷に住んでいるじゃないか。不相応だろ。お前は地面に穴でも掘ってそこに住んでいろ」

どうしよう。リーテさんはいったいどうしてしまったのだろうか?

それにデュエムさんも先ほどからうつむき何も言わない。

こんなことをしたら、ここから追い出されるだけではなく、国王にも私たちがこの屋敷にいることがばれてしまうのではないだろうか?


私がヒヤヒヤしていると、デュエムさんはむくりと立ち上がり部屋を出ていった。

私はとても動揺した。


「リーテさん!ひどいじゃないですか。久々に再開したというのにあんなにひどい事を言って。デュエムさん怒って出ていっちゃたんじゃないですか?」

私が問い詰めると、リーテさんは突然笑い始めた。


「沙羅、気にしなくていいわ。あの豚はあれが大好きなのよ」

「えっと……それはつまり」

「あの豚は英雄の仮面をかぶったドMということよ」

衝撃だった。正直凛々しくてかなりイケメンだったので少しドキドキしていたのだが、性格を知り私は引いてしまった。

「ほら、窓の外を見てごらんなさい。あの豚、何してると思う?」

私はリーテさんに促されるまま、立ち上がり、応接室の窓から外を覗き込んだ。


すると窓の外では、使用人たちの制止を振り切り、ものすごい勢いで穴を掘るデュエムさんの姿があった。

私は小声で、「ああ……」と言ってしまった。


ひとしきり穴を掘り終えたころ、デュエムさんは応接室へと戻ってきた。

穴を掘っていたからなのか、罵声を浴びせられたからなのか、彼の顔には妙な高揚感が見て取れた。


私は思わずゴミを見るような目で見てしまった。

デュエムさんは私の視線に気が付くと、にっこり微笑み「ありがとうございます」と言った。


その時私は思ったのだ。

こいつと一緒にいるべきではないと。

しかし、今回の目的はこの豚……デュエムさんを篭絡することだ。

私は仕事と割り切ることにした。


使用人の方に、私たちが泊まる部屋へ通された。

私たちは荷物を置き、ソファーやベッドへ腰かけた。

私はリーテさんに今回の作戦を聞いた。

「リーテさん。今回はデュエムさんを手籠めにするということでしたが、すでに仕上がっていませんか?」

「ふふ、そうね。でもあれは私に対して興奮しているだけだから、修行もかねて沙羅もあの豚に暴言を吐き続けてやって欲しいの」

正直嫌で仕方がない。それに初対面の男性に暴言を吐き続けるのは気が引ける。しかしこれも修行なのだ。しかたがない。


「そして、あの豚を魅了した後、彼を連れ出して、この国の西へ行くわ。そこにはもう一人の四極の魔女がいるの。それが今回の目的よ」

「デュエムさんをその人の元に連れていくことが目的なんですね」

リーテさんはうなずいた。

「正直嫌で仕方ありませんが、頑張ります」

私がそういうと、リーテさんは笑顔になった。

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