10 今度はこちらから踏み込む!

 それからガラステーブルに二人分のマグカップを置いた雪宮さんが対面に着席。


「……」


「……」


 おぉおい、これからどうすればいいんですかね!?

 いや、勉強だよ……それは分かってるけど。


「……」


「……」


 なんかこう……勉強を始めるにしても会話が……!

 最低限のコミュニケーションとかあるじゃん。

 それがあって初めてさあ勉強開始って感じじゃん。

 ……硬直状態から動かないし動けないんだが?


「……」


「……」


 気まずい。気まずすぎる!

 マズいぞなんとかしなければ……何か、何か話すんだ。

 でもほんと、何を話せばいいんだこれ。


 多分だけど普通はこうなるまでに色々と関係性を積み重ねているんだろうけど、俺達はそういうのを何一つ重ねずにこうしている訳で。

 本当に田中のファインプレーが一度発生しただけでこの状況な訳で。

 驚くほどに会話を始めるのが難しい。


 で、もう既に色々とブレーキが利かなくなってしまっている俺は超能力を半ば無意識に発動させてしまった訳だけれど……。


『ヤバい……何話せばいいんだろう。緊張するし……そもそも普段ですら碌に話せなかったのに、この状況で一体どう切り出せば……』


 雪宮さんも俺と同じような事を考えている訳で、頭の中実質真っ白だ。

 これでは何も分からない。

 二人して何も分かっていない。


 田中のファインプレーと雪宮さんのフルスロットルな勢いだけで形成されたこの状況は多分想像以上に歪で、これでどちらかがパリピな性格でもしていればそんな歪さを無理矢理綺麗な形に矯正して踏み込んでいきそうな訳だけれど、どちらも酷く奥手だから今日までまともに会話すらしてこなかった訳で。


『だ、誰かたすけてえええええええええッ! 私に力をかしてえええええええッ!』


 結局第三者の無理矢理な介入が無ければ、どこかで止まってしまう。


 ……だけど。

 此処はもう雪宮さんの家で、あの時の田中の様に無理矢理状況を動かしてくれるような誰かは現れない。

 雪宮さんを助けてくれる誰かも、力を貸してくれる誰かもいない。


 此処には俺しかいない。


 ……ああ、そうだな。

 此処には俺しかいないんだから、雪宮さんが限界なんだとすれば俺が頑張らないと。

 というかそもそも……此処に至るまで、雪宮さんは頑張って長年硬直状態だった俺達の何もない関係を変えようと踏み込んで来てくれてたんだ。

 俺はこれまで、あらゆる状況に流されてきただけ。

 何もせずに此処に居る。


 ……そろそろ俺の番だろ。

 これ以上雪宮さんばかりに頑張らせるな。

 雪宮さんを困らせるな。


 本当は反則過ぎるしプライバシーも何も無いし、この力を使うのはあまり良くないのかもしれないけれど……今だけは全力で使っていく。


「……なあ雪宮」


 今後こんな力を使わなくても、ある程度の会話が成立するような関係になる為に……今この時だけはこの力を使ってある程度の会話を成立させる。


 今度は俺から……踏み込むんだ!







 作者からのおしらせ


 この作品とは別に異世界ファンタジーを書いてます。

 滅茶苦茶面白い物を書けてると思うので、更新を待っている間にでも読んでいただけると嬉しいです。


最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054898545876


 


 


 

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隣の席の無口クール美少女の心の声が、俺にだけ聴こえるラブコメ 山外大河 @yamasototaiga

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