英雄譚第10話能力

 クレナ王女との婚約が決まり、はや数日がたった。王国内は皇女と侯爵家の二男の婚約でもちきりだ。ぶっちゃけ外に出づらくなるだけなので困ったもんだが、仕方がない。


「ただ、毎日毎日うちの前に来るのは勘弁してほしいなぁ……」

「仕方ないことですよ」

「僕ならまだしも兄さんや姉さん、父上や伯爵、果てにはエナに迷惑が掛かっていると思うと……」


 本当に申し訳なくなってしまう。とはいっても何もできないのが現状だ。


「まぁ、うだうだしてても何も変わらないし、能力の確認でもしようかな」


 僕の職業【刻印師】は未だに謎が多い職業だ。なんせほとんど前例がなかったからだ。


「シーラ、悪いんだけど杖とか剣とかを用意してもらえるかな?」

「承知しました。 では後程、お部屋にお持ちいたします」

「ありがとう」


 そして僕は一足先に部屋に戻った。


「さて、まずはスキルだよな……」


 特に気になるのは、【漢和辞典】【単語検索】【刻印】の三つだ。


「……スキルに【解析・鑑定】って使えるのかな?」


 試しに使ってみた。まずは【漢和辞典】に……


「【解析・鑑定】対象:【漢和辞典】」


 漢和辞典:漢字、漢語(熟語)の意味を日本語で解説した辞典の名称


「あ、使えるんだ……」


 これは想定外の収穫だ。でもこれで、かなり能力の把握がはかどるな。


「【解析・鑑定】対象:【単語検索】」


 単語検索:発した単語を【漢和辞典】を用いて検索する


「わぁ、そのまんまだぁ……」


 まぁでも、予想通りで助かった。


「【解析・鑑定】対象:【刻印】」


刻印:脳内で意識した単語や語句の持つ効果、概念を触れているものに刻み込む。又、付与エンチャントがすでにかけられたものにも可能。しかし、単語や語句の意味を正確に理解してないと発動しない。


「あれ、ってことは……」


 この三つのスキルって実はかなり相性がいいというか、相互補完の関係になっている?


「つけたい効果の単語を調べて、刻み込む、という事か」


 あれ、かなり優秀なスキル? もしかしてだけど……


「失礼します。 先ほど申していたものをお持ちしました」

「ありがとう」

「では、私はこれで……」

「あ、ちょっと待って」

「はい?」

「ちょっと効果を試したいから残ってもらえる?」

「わかりました」


 シーラがいろいろな武器や杖、盾などいろいろ持ってきてくれた。


「まずは、これからかな」


 その中から、一つの短剣を散りだした。


「【刻印】、炎」


 僕が短剣に向かって指を構えて、そう唱えると、《炎》という漢字が浮かび上がり、短剣に吸い込まれていった。


「これで、成功したのかな?」

「何をなさったのですか?」

「スキル【刻印】を試してみたんだけど」


 あれ、何も起きない?


「魔力とかでも流せばいいのかな?」


 僕が魔力を流すと、短剣の刃の部分に纏うように炎が揺らめきだした。


「これは……」

「お、成功したみたいだね」


 魔力の供給を断つと、炎は消えた。

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刻印~文字を刻み、書き換える英雄譚~ 鏡花水月の幻想 @naroukyouka

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