英雄譚第9話婚約

「改めて確認するが、ソーヴよ」

「は、はい」

「お主はその文字が読めるのだな?」

「な、何の問題もなく読めるのですが……」

「ではそれを、お主の父、コーヴァスに見せてみよ」

「は、はい」


 僕は国王に言われた通り、渡された最重要機密書類を、父上に手渡した。受け取った父上は数分の間、最重要機密書類とにらめっこをしていた。が、諦めたように顔を上げて、手に持っていたものを国王にお返しし、口を開いた。


「大変お恥ずかしいのですが、私にはこれは全く読むことができませんでした」

「よい、気にするでない」

「にしても、ソーヴはよく読めたね」

「え?」


 そこで国王が爆弾を落としてきた。


「いや、あれは儂ですら読めないのだ」

「そ、そうなのですか……?」


 国王がいるため、大げさには反応してないが、内心ではとても驚いている。


「これは初代国王がお書きになった、言い伝えに存在する文字、【ニホン語】と呼ばれるもので書いてあるらしい」


 言い伝えに存在する文字? ニホン語? 何が何だか理解ができない。一気にいろいろと情報が入ってくる。


「つまり、あれが読めたお主は言い伝えにも存在する【新たな歴史を刻む者】という事だ」

「…………え?」

「聞こえなかったか?」

「い、いえ! そういう事ではなくですね……」

「そしてだな」

「は、はい」

「そのニホン語が読めたお主と我が一族は血縁関係を持たんばならないのだ」

「は、はい……」


 確かにそんなことが書いてあったな。


「そこで、我儂の娘であるクレナをお主の嫁に出すことで、血縁関係を持とうと考えている」


 嫁ね……嫁かぁ……嫁?!


「お、お待ちください王よ! 私には婚約者がいまして……」

「それがどうした?」

「なので……正妻に迎え入れることができないのです」

「妾で構わんぞ?」

「クレナ様も政略結婚は嫌でしょうし……」

「私は構いません」

「私の婚約者が何というかわかりませんし……」

「ではこちらから使いを出しておこう」

「…………はい」


 逃げられなかった。何とか理由を見つけたかったのだが、苦し紛れに言い放った言い訳はことごとく返されてしまった。それどころか、逆に自分の逃げ道をふさいでしまった。


「エナが悲しまなければいいんだけど……」


 そう願うしかなかった。


 その後、エナの家に王家からの使いが訪れ、国王から直々に書かれた文書を受け取った伯爵とエナはあらゆる経緯を理解した上で、承諾し、僕とクレナ王女の婚約が正式に取り決められた。


 この件で僕は、エナも伯爵もとても心優しく、そして強い人だと再認識した。

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