平成生まれが妄想して書く戦中の話。
鵜ノ瀬 ゆう
第1話
私を含めた私の家族は年末が近いので親戚の家に滞在している。
「かの子は偉いなぁ。ほれほれ、俺のサツマイモをくれてやる?」
そう言い放ったと同時に声の主は大きな手で私の頭をワシャワシャと撫でまわした。もう少しガサツじゃなければいいのに…と私は思う。しかし、腹がまだ減っているので下手に文句を言ってせっかくのご馳走を逃すわけにはいかない。
「ありがとう、清兄さん」
私はつい先程まで私の頭を撫で回していた隣に座っている体格の良い従兄に礼を言った。いつも思うが、清兄ちゃんはとにかくでかい。このように食卓を囲んで話している時も普通見上げるようにしてお話をしなければならないのは正直言ってきつい。首が持っていかれてしまうわ!それに、手!!私の頭なんてすっぽり収まってしまいそうなくらい大きい。今しがた撫でられたが、どうも慣れない。清兄さんなりに優しくしてくれているのも私はわかっているから頭を撫でるな!とはとてもじゃないが言う事はできない。そんな人の気も知れず、隣で兄さんは私の両親や清兄さん自身の家族と楽しそうにお話をしている。時々隣でガハハと豪快に笑うのはよしてほしい。正直言って耳が痛くなってきた。このままでは私の耳を持たない。
「ねぇお父さんたち何の話をしてるの」
そう質問で会話を止めてしまえばこっちのもの。大人たちに変わるように隣の清兄さんがこちらを向いて何を話していたのか教えてくれた。
「このままうまくいくとな、日本は多くのアジアの国々を欧米で今日から解放してあげることができる。と言う話をしていたんだよ。多分、かの子の兄貴も御国の為、頑張ってるぞ!」
それはもう何度も聞かされている。もう正直って"センソウ"なんてうんざりだ。センソウはどのようなものかよくわからないが、実のお兄ちゃんは年末なのにずーっと帰ってこないし、いつも食べていたお米は大根や他の野菜が混じり、甘いものと言ったらさっき清兄さんにもらったようなサツマイモなどの類しかないのだ。ホットキャラメルやカルピス、サクラドロップスなども食べたり飲んだりしたいのに…しかし、母は嬉々とした顔でこう言ってくる。
「そうなのよだって山本五十六艦隊司令長官がハワイにある真珠湾攻撃見事に成功。それに両日にマレー半島に日本の軍が上陸!ものの二日でコタバルを解放できたのですもの!」
私にとってはハワイやマレーがどこにあるのかイマイチ分からないし、興味もない。でも、両親や学校の先生が良い大永遠の平和のために戦い始めた日本はとてもすごく、その臣民である私は少しばかり誇りを感じていた。そんなことを私が考えられている間に大人たちは会話をもっと弾ませ"センソウ"について熱く語り合っている。持て余している私に気がついたのか清兄さんが私に魅力的な提案をしてきた。
「そうだかの子!一緒に市場に行かないかい?配給では手に入りにくいものも買えるかもしれないぞ」
うるさい清兄さんから遠ざかるという事よりも自分だけ蚊帳の外みたいな扱いをされている方が気に食わないので、私は短く
「うん!」
と期待に満ちた声で返事をした。
平成生まれが妄想して書く戦中の話。 鵜ノ瀬 ゆう @Unose_sw
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