7 初任務と修行②
宍粟は電話で伝えられた場所へ到着した。少し遅れて優弥もその場所に辿り着く。
「宍粟さん、走るの速くないですか?」
短い呼吸を繰り返して息を整えながら優弥は問いかける。
「これくらいどうってことありません。それよりも、ここが今回の駆除の場所ですね」
「ここって、小学校ですよね」
電話で呼び出された場所は普通の公立小学校だった。土曜日ということもあって人はほとんど居らず、二人は正門を通って校舎へと歩く。
「珍しいですね。こうもあっさりと入れるなんて」
「それは我々の同業者のおかげですよ。ほら、あそこです」
宍粟が指さした場所を優弥は見る。そこには、紺のスーツに身を包んだ三十代くらいの男が立っていた。その男は、宍粟たちの方へ接近してきた。
「魔術師の宍粟です」
「お待ちしてました。ちなみに宍粟さん、そちらの方は?」
「は、はじめまして。魔術師の鹿賀優弥です。今宍粟さんの下で修行中です」
「そうでしたか。私は間者の
「お、お願いします」
優弥がやや緊張した様子であるのに対し、真垣は慣れた様子で大人の応対をする。そこに、宍粟が割って入ってきた。
「真垣さん、堕体はどこに?」
「二階の教室です。ついてきてください」
真垣の後に続く中で、優弥は質問を投げかけた。
「あの、間者ってなんですか?」
「間者とは、一般的な生活をしながら堕体を監視するもののことです。例えば私は、学校で教鞭をとりながら監視をしています」
「堕体って、そんな突発的に発生するんですか?」
「突発的にといいますか、どちらかと言えば変態の方がニュアンス的には近いですね」
「変態!?」
「形態が変化する方の変態です。――っと、目的の場所につきました」
小話をしながら、ついたのは空き教室だった。ちょうど外の日差しが入らない影になっている場所にそいつはいた。
「では、私はこれで」
「ご苦労様です。駆除し終わったらまた電話します」
そう言うと真垣は去っていった。
「さて、優弥くん。先ほどの説明の続きをしましょう」
宍粟は教室に入り、影へと近づく。堕体も異変を感じ取ったのか、もぞもぞと動き始めた。
「そんなさっさと入って大丈夫なんですか?」
「魔力とは、いわばガソリンです。そして能力とは、車です。ガソリンを入れなければ車が走らないように、能力もまた魔力なしでは成立しません」
優弥の忠告を聞きもせず影へと迫る宍粟。しぶしぶ優弥も教室へと入る。影の中で動いていた堕体は宍粟達の前へ姿を表した。背丈は宍粟の半分ほどしかなく、下半身は蛇に似ていて、二つの手で体重を支えながら威嚇している。
「ウウウウ!」
「めっちゃ睨んでるんですけど……」
「すなわち、適切な能力を身につけるためにはまず魔力を理解しなければならないのです」
淡々と話を続ける宍粟。その歩みは止めず、ついには堕体との距離は1メートルほどになっていた。
さっきから威嚇を続けていた堕体は身の危険を察知したのか、先手必勝と言わんばかりに宍粟に飛びかかった。
「アウウアァ!」
「宍粟さん!」
鋭利な爪で宍粟を切り裂こうとする堕体。
しかし宍粟は、まるでその攻撃がくるのが分かっていたかのようにひらりと避けた。攻撃を避けられた堕体はすぐさま体勢を立て直し、再び宍粟を襲う。しかし、またもや攻撃は避けられ拳は空振りに終わる。
「優弥君いいですか?」
「……あ、はい!」
目の前の攻撃を避けつつ、いつもと変わらぬトーンで宍粟は話を再開した。眼前で起きていることに呆気にとられていた優弥は、宍粟の一声で正気に戻った。
「堕体をよーく見てください」
「よーく、ですか?」
言われた通り優弥は目を細めて堕体を観察する。すると、堕体の体は黒く薄い膜に覆われていた。
その膜を見て優弥は「あっ」と小声を漏らしてリアクションする。
「これ、魔力ですか?」
「正解です。堕体も私たちと同じように魔力を纏っているのです。またこの色から察するに一番低級の堕体であることが分かります」
ひらひらと攻撃を避けながら解説する。さっきから当たらぬ攻撃を続ける堕体は、疲れからか攻撃の手数が減っていった。
「もちろん能力を使って駆除するのがセオリーですが、このような低級堕体の場合、魔力だけでも駆除することができます」
その例を示すかのように、宍粟は右拳を握った。すると拳に青色の魔力が纏い始め、堕体が攻撃の手を緩めた一瞬の隙をついて右ストレートを打ち込んだ。
「ムグゥ!」
宍粟の拳は堕体の顔面にめり込み、堕体は勢いそのままに掃除用具のロッカーに吸い込まれるようにぶつかっていった。がしゃんという音が静かな教室に響き渡り、へこんだロッカーの中で堕体は伸びていた。
「――優弥君の当面の目標は今のように魔力を使って駆除することです」
「いやいやいや無理ですよ!」
呆然とその様子を見ていた優弥は頭を振って否定する。宍粟は戦いで乱れた服装を整えた。
「大丈夫です。できるようになります。とりあえず今日はこれで終わりですので真垣さんを呼んで退散することにしましょう」
宍粟は電話を内ポケットから取り出して真垣へ駆除完了を知らせる。電話を受けた数分後に真垣は教室へとやってきた。
「お疲れ様でした。後処理は私の方でやっておきます」
「ありがとうございます。ではいきましょう」
「はい」
二人は校舎を出た。
時刻は昼の12時を過ぎ、街の賑わいはピークに達していた。
曇天瓦解〜魔術師となった青年は仲間とともに悪を討つ〜 理科係 @yuugiriman
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。曇天瓦解〜魔術師となった青年は仲間とともに悪を討つ〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます