お題「恩着せがましいホラー映画」

ヒック。ヒック。

しゃっくりが止まらなかった。放課後の教室。夕日に照らされながら、私たちは雑談していた。

「なに~?ユミしゃっくり止まらないの?」

ケイコが茶々を入れてくる。

「なんか朝起きたときにもヒック出たんだけどヒック、ここに来てヒックぶり返してるみたいヒック」

「あ、そういえばさ」

ミカが思い出したようにスマホを取り出す。

「この前Youtubeで、『絶対しゃっくりが止まる恐怖映像』っての見かけたんだけど、これ試してみたら?」

サムネは真っ黒で、タイトルに「絶対にしゃっくりが止まる動画です」と書いてある。たしかに、びっくりする拍子にしゃっくりが止まるとは、言うけれど。

「え~~~~!!私絶対見たくない!!」

とっさに身を引くケイコ。でも、私はホラーはそんなに苦手ではないし、友達との会話中のしゃっくりが止まってかつ話題も作れるなら一石二鳥。

「じゃあ、イヤホンで見るよ」

私はミカのスマホをもらって、その1分半の動画を見た。

内容は、なにか老人の幽霊みたいなのが和室の真ん中に座って、「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」とひたすらに奇妙な笑いを挙げているだけの動画。画角も遠いし、全然ドッキリもしなかったけど、でも見終わった頃には見事にしゃっくりが止まっていた。

偶然かもしれないけど、たしかに凄い。

「ほんとに止まったじゃーん!」

ケイコは大げさに驚いている。「すごいじゃんこれ」とミカも驚く。人に試したのは初めてらしい。

「いやあ、まさかホラー動画に感謝する日が来るとはねえ」


その日は解散して、私は家に帰った。その日、家には誰もいない。スマホで動画でも見るか、と適当な動画をタップすると、私はひっくり返った。

放課後に見たあの幽霊の動画だ。真っ黒サムネをタップした覚えはないけど。流行ってるのかな?と思い、別のミュージックビデオの動画をタップすると、それも同じ内容だった。もしかしてパロディか何か?と思ってしばらく再生していると、

「ヒッヒッヒッヒッヒッ……感……ヒッヒッヒッ……謝……ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ……しろ……ヒッヒッヒッ」

なにか、笑い声に混じって言葉が聞こえてくる。

不気味に感じた私はスマホを伏せた。一体何なんだ。感謝?

わけが分からず恐ろしくなった私は、リビングに行ってテレビを付けることにした。とにかくなにか音を聞きたかった。しかし。

「きゃあ!」

そのテレビの中にも、先程の老人の幽霊が佇んでいた。電源ボタンが効かない。

「ヒッヒッヒッ……感謝……ヒッヒッヒッ……しろ……」

頭がグラグラする。恐ろしさが頂点に達した私は、思わず叫んだ。

「もう出てこないで!!!!」

すると、静寂。画面の中の幽霊は笑いを止めた。

そして、私に向かって、こう話しかけた。

「では……全てお前に請け負ってもらう……」

その瞬間、

「ヒック、ヒック、ヒック」

私の口から、再びしゃっくりが漏れ出てきた。でも、放課後のものとは違う。

「ヒッ……ク、ヒッ…………ク、ヒッ………………ク」

徐々に、息が詰まる時間が長くなっていく。今までの中でも格段に苦しい、喉に綿でも詰められているかのようなしゃっくり。

「ヒッ…………………………ク」

このままでは、息ができずに死ぬ……

その瞬間、私は悟った。

あの幽霊は、ひとのしゃっくりを背負っているんだ。あれは、笑い声ではなく、人々から吸い上げた大量のしゃっくりなんだ。

「ヒッ……」

息が完全に止まってしまう前に、私は

「しゃっくりを止めていただき本当にありがとうございます!!!!」

瞬間。

しゃっくりが止まった。


テレビでは、見慣れたバラエティ番組が流れていた。

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