第26話 終戦
その後、冒険者たちや騎士団の団員が外部装甲の割れた部分から調査船内部に突入し、調査船の船員を次々と拘束していく。
一般的な船員の装備では冒険者たちの魔法による攻撃を防ぐ方法はなく、船員たちはあっという間に拘束されていった。
「おい、離せ!」
「俺たちゃ何もやってねーっての!」
「どうなってんだ!クソ!」
そんな船員たちの罵声も言語が異なっていて聞こえてはいないようだ。
レオはその様子を調査船の艦橋から見下ろしていた。
そばには、拘束されたハロルド・ヴェルナーの姿もある。
「レオ」
そこに、シンシアがやってくる。
「シンシア、よくここまで来れたな。途中で迷いそうだったのに」
「途中で女の人が教えてくれた」
「女の人?もしかして遠藤さんかな」
そんな話をしているうちに、ハロルド・ヴェルナーが目を覚ます。
「うぅ……。体が痛ぇ……」
「ヴェルナー少将。気分はいかがです?」
「あぁ?最悪の気分だ。こんな原住民にコケにされるなんてな」
「地球より低い文明だからといって慢心したのが敗因ですよ」
「まったくだ。こんなことになるなら、現地徴収エージェントなんて使わなければ良かったんだ」
「分析がよくできていますね」
「だが、我々の野望は終わっていない」
「まだそんなことを言うんですか?現状を把握してください。船員は次々と拘束され、もはやあなたたちには戦う力は残ってないんですよ」
「ふふふ。そっちこそ、現状を把握したほうがいいんじゃないか?」
「……どういうことですか?」
「我々はあらゆる可能性を考えて行動しているということだ」
「あらゆる可能性……?」
「ねぇ、レオ。彼は何を言っているの?」
シンシアは直接ハロルド・ヴェルナーの言葉を聞き取れるわけではない。
しかし、ハロルド・ヴェルナーが悪い顔をしているのは分かるようだ。
「大丈夫、大丈夫だから」
「ふふふ……。我々の計画に狂いはない。すべて順調に事が進んでいる……」
「一体何を企んでいるんですか?」
「聞きたいか?」
「聞きたくないと言ったら嘘になります」
「なら教えてやろう。これは昨日の時点で確定していることだ」
「昨日……?」
「そうだ。我々調査隊は地球に向けてあるメッセージを送った」
「……一応聞きますが、その内容は?」
「非常に単純明快で簡単なことだ」
「まさか……」
「この惑星は侵略可能であるとの連絡をした!」
最悪の展開である。
「すでにこの恒星系には革命軍の艦艇300隻が向かっている!じきにこの惑星に到着することだろう!」
「シンシア!国王陛下に伝達を!これから調査船のような奴が大量にやってくる!」
「わ、分かった」
そういうと、シンシアは慌てて艦橋を出ようとする。
しかし、間に合わなかった。
上空から何かの飛行音が鳴り響く。
レオが艦橋から空を見上げると、そこには複数隻の宇宙船らしきものが浮かんでいた。
「ふははは!もうあがいても仕方ないぞ!」
「それはどうかしら」
艦橋の出入口から声がする。
シンシアが出ようとしていたところに遠藤がやってきたのだ。
シンシアは後ずさりする。
「お前は……、確か艦内指名手配中の保守軍の遠藤ノノだったな」
「私一人捕まえられないようじゃ、革命軍も落ちぶれたものね」
「ほざけ。だが時は満ちた。すでにこの惑星は我々革命軍によって包囲されている。貴様も逃げる場所はないぞ」
「それはどうかしら?」
そういう遠藤の顔は余裕そうでいた。
レオとシンシアは艦橋から、様子を見守るしかできなかった。
すでに外では、新たな脅威がやってきたことに対して、混乱が生じ始めていた。
そんな中で、ハロルド・ヴェルナーは薄笑いをしながら、上空の様子を見ている。
「今に見ていろ……。すぐに環境是正装置が働いて原住民どもを皆殺しにしてやる……」
そういったハロルド・ヴェルナーは、宇宙船の様子を見て、何か違和感を覚える。
「なんだ……?なぜ是正装置を発動しないんだ?」
「それは答えが違うからよ」
そう遠藤がいう。
しばらくハロルド・ヴェルナーは宇宙船の様子を見ていたが、あることに気が付いた。
「宇宙船の艦影が違う……。それに艦番号も革命軍とは違う……」
ハロルド・ヴェルナーは少し考えた後、一つの結論に至る。
「あの艦……!まさか保守軍の艦か!」
「正解。ようやく状況を飲み込んだようね」
「クソッ、地球にいる同胞はどうなっている!?」
「残念ながら、連邦政府のほうから活動縮小を余儀なくされているわ。もちろん、あなたたちもね」
「……俺たちの野望もここまで、か」
そういってハロルド・ヴェルナーは力なく肩を落とす。
それと同時に、まるで脳内に響くような声が聞こえる。
『こちらは地球連邦保守軍超遠方警備艦隊です。皆さんどうかご安心ください。我々は敵ではありません。皆さんの安全を保障するために来ました』
そんな文言を繰り返し話す保守軍。
それを聞いた冒険者や騎士団は、畏怖の念から武器を収めるのであった。
そしてバッヘン王国の王都には、地球連邦保守軍の使節団が訪問する。
「あなたが国王陛下ですか?」
保守軍は翻訳機を介して国王とコンタクトをとる。
「いかにも。バッヘン王国の国王だ」
「この度は我が国の革命軍が大変ご迷惑をおかけしました。その謝罪をいたします」
「うむ。しかし具体的にはどのようにしてであるか?」
「現在考えているのは、この惑星に存在する国家を、すべて外交上国として承認するというものがあります。これをすることで、我が地球連邦と対等に交易ができると考えます」
「なるほど……。それは我が国や隣国のみにできないだろうか?」
「それは推奨しかねます。もし技術的に秀でた国家が少数誕生してしまうと、惑星内で内乱が多発してしまいます。それを回避するには、すべての国家に対して一様に技術を与えることが重要と考えます」
「そうか……我が国だけ抜け駆けはできないということか」
「その代わり、必ずや国家の繁栄につながる技術を提供いたしましょう」
「……分かった。その考えに同意しよう」
こうして、バッヘン王国を中心として、この大陸、そしてこの惑星のすべての国家に対して地球連邦からの技術供与を受けることになった。
「これから苦難の道が続くでしょうが、それもまた惑星の発展につながるというものです。これからも末永くよろしくお願いします」
そういって保守軍の一行は国王の前から去る。
遅れてやってきていたレオたちは謁見室の前で待機していた。
そこに、保守軍の一行がやってくる。
「遠藤少尉、いるか?」
「はい、ここに」
「今回の活躍、よくやった。昇進は確実だな」
「ありがとうございます」
「ヴェルナー少将はどうした?」
「現在、巡航戦艦紀伊にて拘留中です」
「分かった。……それで、君が遠藤少尉の協力者だな」
そういってレオのほうを向く。
「君たちエージェントとなってしまった国民には迷惑を掛けてしまった。今一度謝罪する」
「いえ、いいんです。なんだかんだマイクロチップには助けられましたから」
そういってレオは頭をさする。
「これがあったから仲間を守ることができました。結果としては良かったんだと思います」
「そうか。もしもの時は摘出手術も受けられるのだが、その必要はなさそうだな」
「えぇ」
「では我々はここで失礼しよう。遠藤少尉、後で報告を」
「はい」
そういって保守軍一行は去った。
その後、レオたちは国王に呼び出される。
「この度の戦争、どうにかして我々の勝利で収めることができた。そしてレオはそれに一番力を注いでくれた。これは称賛に値する」
「は、ありがとうございます」
「そこで褒美をやろうと思うのだが、何か必要なものはあるか?」
「……いえ。ありません」
「そうか?金品でもいいのだぞ?」
「自分は冒険者です。必要なものは自分で揃えようと思います」
「ふむ。そうか……。少し残念ではあるがな」
「それとこれはお返しします」
そういってレオは刀剣を国王に差し出す。
「これは国王のレガリアになります。自分が持っていていいものではありません」
「む、それもそうか」
そういって国王は少し笑う。
「そういう無欲なところ、昔の自分を見ているような気分だ」
「そうなんですか?」
「まったくだ」
話が長くなりそうな予感を感じた騎士団団長が制止する。
「おほん、では褒美は何もなしということでいいな?」
「はい」
「しかし何もないのも仕方ないだろう。……よし、勇気ある者、勇者の肩書を授けよう」
「肩書、ですか?」
「大っぴらにするも良し、あえて使わないも良し。どうするかはレオに任せる」
「分かりました」
「では行くがよい、勇者よ。冒険者として、この国を支えてくれ」
そういって、レオたちは王宮正面から送り出される。レオは少し照れくさそうに、シンシアはいつも通りの感じだ。
「それで、盛大に見送られたけど、この後はどうする?」
「なんでもいい」
「じゃ、少し休憩した後に、依頼でも受けに行くか」
そういってレオは上空を見上げる。
しばらくの間、保守軍の艦艇はこの惑星にとどまるようだ。
彼らの技術があればこの国も、いや、この惑星もますます発達していくことだろう。
レオは大きな一歩を踏み出した。
ごく平凡なファンタジー世界の日常を送っていたと思ったら、実は異世界転生した人間でした!?~突然エージェントに任命されて俺の人生は一変した~ 紫 和春 @purple45
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