第25話 潜入

 調査船はギアをおろし、何とか安定した着地をしようとする。

 しかし機関の出力が安定せず、調査船全体がガタガタ揺れ動く。

 そして半ば墜落するように、草原へと降り立った。

 その様子を見ていた冒険者や騎士団は急いで現場へと急行する。


「総員突撃!」

「おぉー!」


 そういって冒険者が魔法を詠唱する。


「火の精霊よ!その炎で鋼鉄の壁を溶かしつくせ!ファイアスピア!」

「大地の精霊よ!その広大な手によって、敵を踏みつぶせ!ヒューストーン」

「風の精霊よ!今こそすべてを穿て!ウィングドリル!」


 調査船に対して、一斉に攻撃を行う。

 火の槍が命中し、上空からは石のようなものが落下し、そして調査船の装甲を削るように穴を開ける。

 しかしここまでやっても、まともに攻撃が通っているようには見えない。

 レオたちも一緒になって攻撃を加える。

 だが、無意味な状態であることにはいまだ変わりない。


「くそっ、どうしたら内部に入れるんだ?」


 レオは思考を張り巡らせる。

 敵は曲がりなにも、宇宙を航行して惑星間を移動することができる程の技術力を持つ科学力の塊である。

 一方こちらは科学力には乏しいものの、魔法が発達した人間が複数人いる。それに、近くには科学と魔術を融合させた武器が存在している。

 レオはバックス・オードに連絡をとる。


『もしもし』

「オードさん、ミニ・エンジア砲を調査船近くにまで持ってくることは可能ですか?」

『えぇ。問題はありませんが』

「では調査船の見えるところまでミニ・エンジア砲を持ってきてください。再設置が完了したら、こちらが連絡するまで砲撃を続けてください」

『了解です。なるべく急ぎます』


 とりあえず、確約は取り付けた。

 あとはこの状況を打破することだ。

 しかし方法が思いつかない。


「何か方法でもないものか……」


 そういってレオは今一度自分の装備を確認してみる。

 自分の誕生日の時にもらったカロンの杖、各種必要な薬草や装備品。そのように確認していくうちに、あるものが目に止まる。


「これ……」


 それはレオの腰に下がっていた刀剣である。この刀剣は国王から貸していただいた、亜人種族とバッヘン王国をつなぐ刀剣だ。


「これにすべて賭けるか……!」


 そういって、レオは刀剣のグリップを握る。

 そしてゆっくりと引き抜いた。

 刀剣は白く輝く。それはまるで星のごとく輝いていた。

 レオは刀剣を真上に掲げ、両手でグリップを握る。

 そしてそのまま振り下ろした。

 その斬撃は、地面をえぐりながら、調査船のほうへと飛んでいく。

 そして斬撃は調査船へと命中する。

 その瞬間、巨大な土煙と共に、甲高い破裂音のようなものが響き渡る。

 その土煙が晴れると、そこには深く傷を負った調査船の姿があった。


「あの傷に向かって集中砲火だ!」


 誰かがそう叫ぶ。

 その言葉通り、多種多様な攻撃魔法が割れ欠けた船体の傷に集中する。

 しかしそれでも、そこに穴が開く様子は見られない。


「どこかに弱点があるはずだ……」


 その言葉にレオは思い出す。遠藤に言われた言葉を。


「確かアブダクション装置と、隊員用のハッチ……」


 レオは一度アブダクションされている身だ。アブダクション装置の場所は知っている。

 その場所に向けて走った。

 アブダクション装置の出入り口は調査船の真下、やや船前方にある。

 船の下は人が一人立っても十分なスペースがあった。

 そこをレオは走り抜ける。

 そして目立つ円形のハッチを発見した。

 レオはそのハッチに刀剣を突き刺す。

 そしてそのまま走りながらハッチを斬り裂く。

 10m程度斬ったところで、刀剣を振りきる。

 振り返って見ると、内部が見えるようになっていた。

 レオは刀剣を使って、内部に入りやすいように穴を大きく拡張する。


「よっと」


 レオは調査船内部に入る。

 内部は非常警告がなっていて、警告を示す赤色のランプが点灯していた。

 レオは慎重になって、通路を移動していく。

 すると奥のほうから調査船の隊員がやってくるのが見えた。

 レオは近くの通用路に身を隠す。


「本当に現地民が入ってきますかね?」

「さぁな。だが外部装甲に傷が入ったのは確かだ。そこから侵入されないように、今は最善の手を尽くしているところだろうよ」

「最善の手とは?」

「主砲をぶっ放す、とのことだ」


 その言葉通り、地上に向けて主砲が旋回する。

 それに気が付いた冒険者たちは防御のために、土壁を強靭化して対応しようとする。

 そして主砲が一発発射される。

 砲弾は、冒険者たちが積み重ねた強靭な土壁に命中する。

 土煙が晴れると、そこには凹みがついた土壁があった。防御には成功したようだ。

 その土壁を使って、その後ろから冒険者たちは攻撃を加える。


「大丈夫かな、外のみんな……」


 レオはそんなことを言う。

 その時だった。

 真上の通風孔の蓋が開く。

 そしてそこから誰かが出てきた。その姿に、レオは見覚えがあった。


「あ、遠藤さん」

「あら。あなた、こんなところまで来たのね?」

「はい」

「ちょうどいいわ。あなた、代わりに司令官のところに言ってもらえるかしら?」

「ヴェルナー少将のところですか?」

「えぇ、あなたも言いたいことは一つくらいあるでしょう?」

「まぁ……」

「とりあえず、この船の地図を渡すから、それを頼りに艦橋まで行ってちょうだい」

「分かりました」


 そういってマイクロチップに情報がアップロードされる。言われた通り、地図のようだ。


「ありがとうございます」

「それじゃ、私はこの辺で。まだやることがあるから」


 そういって遠藤はどこかへと行ってしまう。

 レオは地図を頼りに、艦橋のほうへと向かった。

 マイクロチップの地図アプリを開いて、指示されたほうへ向かうと、広い部屋に出る。

 そこではハロルド・ヴェルナーが部下に指示を出していた。


「もっと主砲でやれないのか!?」

「しかし相手があのような方法を用いている他、我が方も損傷が激しく、全力を出せないでいるので……」

「そんな御託はどうでもいい!とにかく外にいるやつらを蹴散らせ!」


 そういって机を叩く。


「外部装甲の状態はどうだ?」

「かなり損傷しています。この船の主砲一発でも食らえば、穴が開きそうですね」

「くそ!こんなことになるなら、もっと装甲を追加すれば良かった」

「しかし、あの斬撃のようなもの一体なんだったんでしょうね?」

「そんなことはどうでもいい!とにかく、破損した外部装甲周辺のダメコンを急がせろ!もし奴らが中に入ってきたらどうするつもりだ!」

「しかし、破損の程度がひどく、ダメコンをしても間に合うかどうか……」

「間に合わせるんだ!これ以上の損傷は許されないのだ!」


 そういって檄を飛ばす。

 レオは刀剣を構えて、艦橋へと突撃する。


「そこまでだ!」

「……ほう。誰かと思えば、仮称栗林ではないか」

「どうしてテラフォーミングするんです?」

「これまた単刀直入だな。簡単だ。地球のキャパシティが限界だからだ」

「だから他の惑星を征服するんですか?」

「この惑星は技術的に遅れている。我々が技術力を向上させてやるのだ。これはむしろありがたいことではないか」

「そうは思いませんけどね」


 そのままにらみ合いが続く。

 その時であった。


「主砲、撃て!」


 突然の砲撃。そして調査船は大きく揺れる。

 ミニ・エンジア砲による攻撃だ。この攻撃によって、レオが傷つけた外部装甲が完全に破壊された。

 それにより、船体に穴が開き、中に入れるようになる。


「今だ!突撃!」


 一斉に冒険者が内部に突入する。

 艦橋では、揺れによって姿勢を崩したハロルド・ヴェルナーに対して、レオが刀剣を突き刺そうとする。

 しかしハロルド・ヴェルナーはすんでのところで避けた。

 そして何かスイッチを押す。

 その瞬間、刀剣の輝きがなくなり、なまくらに近い剣となった。


「ははは!この環境是正装置さえあれば、魔法なんていう物理法則すら是正させられる!我々は負けないのだよ!」

「果たしてそうでしょうか?」

「何?」


 その瞬間、巨大な火の玉がハロルド・ヴェルナーに飛んでくる。

 そして命中した。


「あっつ!熱い熱い!」


 ハロルド・ヴェルナーは思い出した。


(こいつにはマイクロチップがインプラントされている!マイクロチップには魔法に似た攻撃召喚装置があった!)


 そう、この攻撃はマイクロチップによるものなのだ。

 レオは刀剣をしまうと、半身を引いて、握りこぶしを作る。


「覚悟しろ……、ハロルド・ヴェルナー!」


 そういって、マイクロチップによる身体強化を行う。

 そのまま勢いよく突っ込んだレオは、右の拳をハロルド・ヴェルナーに叩き込む。

 ハロルド・ヴェルナーはそのまま吹っ飛び、壁に激突した。

 そして力なく床に落ちる。


「……終わった」


 レオはそう確信した。

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