第24話 攻勢

 魔術師である冒険者が一斉に魔法を詠唱する。


「火の精霊よ!その鉄を溶かさん程の火力を顕現させよ!ファイアーアロー!」

「風の精霊よ!嵐をもって敵を切り刻め!ストームバースト!」


 火の槍が調査船に向かって飛び、嵐のごとく竜巻が調査船を襲う。

 しかしその攻撃はバリアによって阻まれ、船体に損傷を与えていない。

 だがそんなことはつゆ知らずに、冒険者たちは攻撃を加えていく。


「今こそ、その身体を強化し、そして敵を一閃とせん!」


 冒険者の剣士が叫ぶと、持っていた剣が光り輝きだす。

 そしてそれを振りかぶった。


「うおぉぉぉ!」


 振り切ったそれは、光り輝く斬撃と化し、そして調査船へと飛んでいく。

 そしてバリアに命中する。

 しかしながらバリアの耐久力は強く、破壊するには至らない。


「下の奴らは一体何をしているんだ?まさかこの調査船でも落とすつもりじゃないだろうな?」


 そうハロルド・ヴェルナーが笑う。周りの部下も一緒に笑った。機関が損傷していることには若干目をつむりながらではあるが。

 だが、冒険者からの総攻撃を食らっているうちに、バリアにダメージが蓄積していく。


「ヴェルナー少将。予想以上にバリアにダメージが入っています」

「む。そうか、機関のほうは?」

「いまだ原因不明の故障に見舞われています。現状維持が精一杯です」

「……ならば仕方あるまい。緊急事態で止むを得ないが、バリア修復を行うぞ」


 そういうと、調査船の艦橋はあわただしくなる。

 そのころ、遠藤は調査船の通用路を急いで移動していた。

 そして、とある壁の前で止まる。

 そして誰もいないことを確認して、そこにある「関係者以外立入禁止」の看板をどかし、その扉の向こうへと入った。

 狭いダクトのような場所をほふく前進で進んでいくと、ある場所に出る。

 そこは調査船のすべてのエネルギーを供給している機関室であった。さらにそこのバリア供給パイプのほうへ移動する。


「確か、この辺にあったはず……」


 遠藤はマイクロチップに入力された設計図を元に、供給パイプの弁を閉じようとしていた。

 しかし、そこに別のほうから人の声が入ってくる。


「回避行動の時に何があったのかちゃんと調べたのか?」

「えぇ、もちろん調べました。しかしめぼしい原因は見当たりませんでした」

「なのにダメージを負っていると?」

「はい。この状態はまさに太陽フレアを直近で受けたのと同等のダメージを負っています」

「ここは生物がいる惑星の大気圏だぞ?そんなことがあり得るのか?」

「ほぼあり得ません」

「ならなぜ起きた!」

「それを自分に言われましても……」


 機関部の技術員と、その上司がやってきているようだ。

 遠藤は素早く近くのパイプ群に身を寄せて、姿を隠す。


「機関の急な使用というのは考えられませんか?」

「そんなことしたら今までの行動はどうなる。この機関はそんなに甘ちゃんじゃないぞ」

「とにかく、現在は太陽フレア直撃の対処方法を試しています」

「まったく、これが使い物にならないと何もできないんだぞ」


 そういって機関室から去ろうとしていた時だった。

 機関からうなり音がなる。


「なっ!機関の出力上昇だと!?どういうことだ!」

「艦橋より連絡!バリアのダメージ修復を行うとのこと!」

「そんなことしたら機関がダメになっちまうじゃねぇか!」

「とにかく整備班を急いで派遣させます!」

「当たり前だ!」


 そういって二人は機関室から出る。


「時間はあんまり残ってなさそうね」


 パイプ群から身を出した遠藤は、そのまま作業に戻る。

 一方外では、冒険者たちが無我夢中で攻撃をしていた。


「くそ、あの障壁みたいなものが邪魔で攻撃が通らない!」

「もっと攻撃を当てないと障壁を破壊できない!」

「とにかく攻撃を続けろ!」


 冒険者の間では、より一層士気が上がる。

 レオも必死になって魔法を放っていた。


「やっぱりあのバリアが邪魔だな」


 その時、バリアがバチバチと放電のようなエフェクトを発する。


「な、なんだ!?」


 その正体は分からないが、バリアが複数枚展開されるのが見て取れる。


「障壁が増えた!?」

「くそ、このままじゃジリ貧だ!」


 そんな嘆きの中、レオに通信が入る。

 相手はバックス・オードだ。


「もしもし?」

『あぁ良かった。死んでたらどうしようかと』

「そんな縁起でもないことを……。そんなことより、何かありました?」

『今、あるものをバッヘン王国王都の近くまで持ってきてます』

「あるもの?」

『エンジア王国の技術の粋を集めた、エンジア砲を持ち運べるように小型化したミニ・エンジア砲です』

「ミニ・エンジア砲……」

『威力は少し落ちていますが、十分な火力を有しています。力になれるかと』

「分かりました。こっちに被害が被らないように、準備を進めてください」

『了解です。準備ができ次第、また連絡します』


 そういって通信は切れる。

 レオは覚悟を決めて、再度攻撃を仕掛ける。

 その時、シンシアが声をかけてきた。


「どうしたシンシア?」

「ちょっとしたいことがある」

「したいことって?」

「集団での攻撃魔法詠唱」

「それ普通にやってもできる奴じゃん」

「普段はやるタイミングがなかった。だからやってみたい」

「んな子供みたいな……」


 しかし、シンシアの屈託のない目を見て、レオは仕方なく了承した。


「それで、どんな魔術試すつもりだ?」

「真空魔法」

「おっけ。それじゃあ行くか」


 そういって二人並んで魔術を詠唱する。


「風の精霊よ、我が目前に存在する氣を裂き、敵を虚無に陥らせろ。トータルバキューム」


 そういうと、二人の前に空間が引き裂かれるように真空の円錐が発生する。

 そしてそれは、まっすぐ調査船にまで伸びた。

 バリアに衝突すると、バリアは一瞬電撃を発生させる。

 その直後。

 発生した真空を埋めるように、周りの空気が急激に集まる。

 それによって衝撃波が発生し、それは周囲に拡散した。

 しかし円錐状に展開した真空の層は、衝撃波を一点に集中させる。

 それは成形炸薬弾にも使用されているモンロー/ノイマン効果であった。

 その衝撃波は空気の気圧差で生じた衝撃波によって、バリアの耐久度を限界まで削る。


「バリア展開の限界です!」

「くそ、なんなんだ今の攻撃は……」


 ハロルド・ヴェルナーが悔しそうに言う。


「いかがいたします?」

「バリア展開が最優先だ。機関の出力をあげろ」

「しかし機関部からはこれ以上の出力上昇は危険だと……」

「いいからやれ!」


 ハロルド・ヴェルナーは怒鳴る。


「わ、分かりました」


 そういってバリアは再び複数枚展開される。

 その時である。

 バリアの出力が落ちていく。


「ヴェルナー少将!」

「何が起きている……!」


 それは遠藤の活躍である。

 遠藤がバリアに供給しているパイプの弁を閉じたのだ。


「これでよし。後はいつも通り逃げるだけ」


 そういって機関室から逃げる。

 しかし偶然にも、先ほどの機関部の二人に遭遇してしまった。


「貴様何している!」


 遠藤は冷静なまま、二人を処理していく。

 前方にいた上司のみぞおちに膝蹴りをかまし、気絶させる。

 そのまま後ろにいた部下を裏拳で吹き飛ばす。

 こうして二人を完全に無力化する。

 こうして調査船は盾を失った。

 その時である。


「主砲、撃て!」


 王都近くの森の中から、ミニ・エンジア砲が火を噴いた。

 それは調査船の主砲部に命中する。そして主砲が爆散した。

 調査船の艦橋では警告を示す赤色のライトが点灯する。


「調査船の制御不能!不時着します!」

「ぐぬぅ……!」


 そのまま調査船は王都の目の前にある草原に不時着する。

 その様子を見た騎士団や冒険者たちは一斉に宇宙船の元に向かう。


「白兵戦の開始だ……!」


 そういってレオは調査船へと向かった。

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