第23話 開戦
それから何度か事務次官級の会談を得て、対調査船の作戦が立案されていく。
この日も、国王を交えた定例会議の真っ最中だ。
「冒険者の招集はどうなっている?」
「現在依頼書を通じて募集をかけています。現在のところ、合計で28名の冒険者が名乗りをあげています」
「28人か……。ないよりはマシという状況か……」
そう国王が憂いた。
実際調査船の戦闘能力は未知数だ。そのような相手に、まさに戦争を吹っ掛けるなど、常人の考えることではない。
しかし見返りは大きい。国王自らの依頼である上に、報酬もその分弾んでいる。
だが、敵の素性があまりにも分からなすぎる。分からない故に、冒険者も準備のしようがない。
「まったく、厄介な奴が敵になったものだ」
そう国王は嘆く。
しかしこうなってしまった以上、敵に必ず打ち勝たねばならない。
それは、調査船に蹂躙されたアリージ国が物語っている。
「調査船の行方はどうなっている?」
「現在行方知らずといったところです。奴ら透明になれることを利用して潜伏しているようです」
「ふむ……。となると、レオの言った保守軍の潜入員がどのような働きをするかだな」
「レオ君、その潜入員との通信は回復しているのかね?」
「いえ、あれ以来呼びかけても応答しなくなっています」
「通信を妨害されているか、彼女自身が拘束されているか……。どちらにせよ状況はよろしくないというわけだな」
そんな会議をしていると、騎士団の一人が会議室に入ってくる。
「伝令です!緊急事態が発生しました!」
「どうした、言ってみたまえ」
「は!先刻、我が国の隣国、フォジア共和国の首都が何者かによって破壊されたとのことです!」
「フォジア共和国だと?今回の作戦でドラゴンによる強襲をかける役割を持った国ではないか」
「陛下、これは調査船による攻撃を受けたと考えたほうがよさそうです」
「それに、アリージ国、フォジア共和国の直線上には、我が国も存在しています。このままでは我が王都が蹂躙されるのも時間の問題でしょう」
「そのようだな。作戦立案を急がせよ。我々には猶予が残っていないようだ」
「はっ!」
そういって定例会議は終了した。
レオはいつものように、マイクロチップの通信を使って、遠藤に呼びかける。
しかしいくらコールしても、その呼びかけには応じない。
仕方なく通信を切ろうとした。
その時、声がする。
『遠藤よ』
「遠藤さん!無事だったんですか?」
『なんとかね。前回の忠告はなんとか聞けたかしら?』
「ノイズがひどくてダメでしたよ」
『そう、でもあなたが無事でよかったわ。それで、なんの用かしら?』
「そうでした。調査船の作戦が立案されている状態なので、協力してもらおうと」
『もちろん、いいわ。それで、私は何をすればいいのかしら?』
「遠藤さんには、調査船のステルスを解除してもらいたいんです」
『ステルスだけでいいのかしら?』
「というと?」
『調査船には少なからずバリアも展開されているわ。それを解除しない限り、調査船に近づくこともできないわ』
「では、それもお願いします」
『了解』
「と、現状はこんなところですかね」
『分かったわ。とりあえずそのように動いてみるわ。いつ調査船のステルスを解除できるか分からないけど、数日以内にはできるようにしてみる』
「よろしくお願いします」
そういって通信は切れる。
時間との戦いはすでに始まっているのだ。
翌日、依頼書を見て応募してきた冒険者と関係者と共に、作戦の状況を聞く。
「作戦の概要だ。まずはそこにいる冒険者レオの協力者が、空飛ぶ鋼鉄船の姿を見えるようにする。その後陽動として、冒険者全員で攻撃を仕掛ける。この陽動の最中に、レオが空飛ぶ鋼鉄船に乗り込み、内部を壊滅状態にさせる。非常にシンプルだが、各員の協力がなければ不可能な作戦だ」
「空飛ぶ鋼鉄船って、実際どれくらいの高さで飛んでいるんだ?」
「それはその時の状況によって変わってくる。あまりにも高い場合は、隣国のエンジア王国から最終兵器が火を噴くことになる」
「私たちが空飛ぶ鋼鉄船を落とさなくてもいいの?」
「今回は落とすことが目的じゃない。我々の存在意義を示すために行うものだからな」
そういって説明役の公務員は全員を見渡すように言う。
「ほかに質問はあるか?」
そういうと、あたりは静まり返る。
「質問がないようだな。作戦の決行日は今日からだ。調査船がどこにいて、どのような状態であるかは不明であるため、今日からローテーションで見回りをする。すでに2か国がやられている。次の標的は我が国だ。そのためにも、諸君らには全力を尽くしてもらいたい」
そういって話は終わる。
早速数時間後には、見回りが始まった。主にフォジア共和国の方向を重点的に観察していた。
そしてそれから数日後。
皆、緊張状態を維持しているため、ピリピリとした状態が続く。
そんな中、詰所にいたレオのマイクロチップに通信が入る。
隣国のエンジア王国のバックス・オードからだ。
「もしもし?」
『ロイドさん?バックス・オードです』
「どうかしました?」
『今我々の観測チームが、謎の巨大物体がバッヘン王国王都上空にいることを突き止めました。もしかしたら調査船が王都上空にいるかもしれません』
その報告を聞いて、レオは思わず叫ぶ。
「総員戦闘準備!敵は王都上空にいる可能性あり!」
その声を聞いたとたん、詰所は大騒ぎになる。
各々が自分の役割を果たすために、急いで持ち場につく。
レオも必要なものを持って外に出る。
上空を見上げても、何かいる様子はない。
しかしレオにはマイクロチップに流れてくる何かを感じ取っていた。
その直後、甲高い破裂音が響き渡る。
そして、王都上空5000mのところに、調査船が現れたのだった。
「あれが鋼鉄船……」
周りの冒険者や騎士は、調査船を見上げて唖然とする。
あんなに高いところにいながらも、その荘厳さを一心に放っているのだ。
「目標までの高度が高い!これでは魔法で狙うこともできないぞ!」
そう、目視で見ただけでも非常に高いところにいることは間違いない。
しかし、そのための作戦がある。
「オードさん、エンジア砲をぶっ放してください!」
『了解!』
そういって、エンジア砲の準備がなされる。
エンジア砲は火薬と魔術を融合させ、超長距離精密射撃システムを搭載した最新の兵器である。
そのため、観測や精密に射撃するための準備が欠かせない。
「目標観測!主砲、右280!仰角790!」
エンジア砲が旋回し、調査船へと照準を定める。
「主砲射撃用意!」
砲弾が装填され、いよいよ発射される。
「主砲、発射!」
その瞬間、周囲を衝撃波が襲い掛かる。安易に周辺に立っていれば、肉体が衝撃波によって引き裂かれるほどだ。
そんなエンジア砲から発射された砲弾は、しばしの飛翔の後、調査船へと着弾する。
一方、調査船のほうは、エンジア砲のことには気が付いていた。
「嫌な予感がする……」
そんなハロルド・ヴェルナーの予感をもとに、調査船が移動を開始した時だった。
調査船の艦尾に砲弾が着弾したのだ。
その時は、調査船はまだバリアを展開しており、艦自体には損傷はなかった。
しかしバリアに命中した衝撃で、調査船にダメージが入る。
それによって調査船は一時的に高度を落とさざるを得なかった。
「鋼鉄船が高度を落としてきているぞ!」
王都にいる冒険者の一人が叫ぶ。
その高度は次第に地面へと向かってきており、そして地面からの高さが200mを切った。
「冒険者諸君、いまだ!」
そういって騎士団長が叫ぶ。
冒険者が一斉に攻撃を開始した。
ここからが本番である。
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