エピローグ 戦友への手紙
その時に現れた目もくらむほどの強烈なマリンブルーの閃光は、神殿の外で待機していた俺たちを巻き込んで、それどころか、『孤独の霊峰』全体を覆うほどの、とてつもなく大きくて、それでいて、優しい、暖かな光だった。母なる海、なんてのはピンと来ないけど、ただ、あれが愛の温かさっていうんなら、何だか俺でも納得できる、そんなすごい光だった。
思えば、あの最後の戦いでは、きっとヴィルフレードは、もうアオイとのわだかまりを解いていたのだろうな。
初めて見たあの技では、まるでマリンブルーの海を切り裂くような荒々しい技だったのが、最後に見たときには、青い光の海はどこまでも穏やかで、それでいて守護兵を一瞬で消し去るほどの、とてつもない衝撃波を伴う一撃を包含していた。
それから目を覚ましたときには、もう俺とパシオネ、幼さの残るヴィルフレードと、フェデリカしか、こちらの世界にはたどり着いていなかった。
俺のよく知っていたヴィルフレードは、きっと、もう消えてしまったのだろう。
あの、誰よりも世界を守るべき立場だったくせに小さな男の子だけを守るのに最後まで躍起だった、お転婆で心優しい精霊と一緒に……。
でも、俺はこの手紙を、まだお前のために書いている。
お前が命をかけて助けた二人は、とても元気に暮らしているよ。
幼い君、ヴィルフレードは、いつもいたずらばかりして、よくフェデリカを怒らせている。
でも、フェデリカはいつも笑っていて、何だかとても幸せそうだ。
やっぱり姉弟でいるのが楽しいんだろうな。
ネズミのパシオネは、いつの間にかフェデリカと契約していて、「この小娘は、俺が育てる! 虎刈りの弟なんかと一緒では、ろくな人生が送れないだろうからな!」なんて言って、張り切っている。
老パシオネがそれを聞いたら、どう思うのやら。彼はもう長い眠りについたようだから、きっと、もう出会うこともないんだろうけれど。
なあ、ヴィルフレード。
確かに、これで本当に良かったんだ、と思える日々が、君の姉さんと幼い君の暮らす日常の中で、次々に生まれているよ。
君は最初からその未来を、信じて疑わなかったんだろう。
すごいな、お前は。そして、誰よりも強かった。
あの神格化したフェデリカも、そんな君の思いを受けて、誰よりも君のことを想いながら、あの世界を支えていたんだよな。
君たち姉弟が幸せになるために費やしてきた膨大な時間の長さを思うと、俺は言葉が出ない。
本当に、似た者姉弟、だったよな。
俺なんかは、しっかり者の妹と比べられると、よくお人好しすぎるとか、もっとしっかりしろ、だなんて仲間にたしなめられるんだ。
その中に、君もいてくれたら……いや、何でもない。
そうだ。一応、報告しておかないと。
フェデリカがね、パシオネを連れて冒険に出たい、と言っている。
あの姉弟(と一匹?)にはね、もうきちんと家がある。
彼女にはきちんと自活したい、とか、何か思うところがあったんだろう。
俺は危険だから無理をするな、と言ったんだが、パシオネと一緒になって「いやだ! どうしても出るんだからッ!」て聞かなくて、最後にはヴィルフレードまで手をバタバタさせながら、「姉さんの言うことを聞けぇ!」なんて言う始末だよ。
まったく、この頑固で一度言ったら聞かない性格は、誰に似たのやら。
また、手紙、書くよ。そうしていると、どこか、安心するんだ。
お前が残したものが、永久に続くよう、俺も頑張るよ。
最後に、フェデリカから、伝言だ。
「――――ありがとう。孤独だった私を、助けてくれて」って、さ。
それじゃあ、またな。
(了)
囚われの神姫と孤独の霊峰 入川 夏聞 @jkl94992000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます