第41話 一章 エピローグ

 『ゴブリオン』を殺した俺たちはその後洞窟内をくまなく散策し、捕虜の見逃しが無いかを確認していった。

 理由はウィリーさんの娘がまだ見つかっていなかったからだ。

 結論から言うとウィリーさんの娘を含め、8人の10歳くらいの子供たちがとある一室の檻に閉じ込められていた。その部屋は牢屋、というよりも食糧庫と言った方が相応しいと感じた。


 ウィリーさんを含めた俺たちはその檻を破壊して、子供たちに脱出を促すがウィリーの娘以外は頑なに檻を出ようとしなかった。

 それどころか檻が開いたのを認識した子供たちは皆一様にガタガタと身を震わせボロボロと泣き出した。

 最初は子供たちの反応がいまいち意味がわからなかった俺たちだが、食糧庫の一角にてそれを発見したとき全てを悟った。


 大きな粗末なテーブルの陰に転がったそれは、だった。要するにここに囚われている子どもたちは言葉どおり『ゴブリン』共のだったのだ。

 そう考えれば外に対する異常な怯え方にも納得がいく。事実、悟った者たちはほとんどが耐えられずその場に嘔吐していた。


 俺は何とか食道をこみ上げてきた内容物をぐっと飲み込んだ。


 さてどうしたものか、と考えているとこの部屋に数人の女たちが入ってきて、檻の中にいる子供たちを見つけるとその中の何人かが檻の中にいる子供達へと駆け寄っていき抱きしめた。


 「ぁ、お、かーさ、ん?」

 「うん、そうだよ、キリー、あなたのお母さんよっ……!!」

 「おかぁさん……、お、かーさんっ、おっおがぁざんっ! う、うええぇぇぇえええぇぇぇぇん!!」

 「こわかった、こわかったねぇ、よく頑張った、キリーはえらい! えらいねぇ……!!」


 泣きじゃくる我が子を決して離すまいとしっかと抱きしめる母親の背中は、何というか強かった。


 その母娘に続いて次々と親たちが我が子へと向かって行き同じように抱きしめる。しかしそんな親たちとは別に檻の中に入っていかず、檻の中に目を凝らし、キョロキョロと部屋中を見回す親たちがいた。

 それを見て俺は何とも言えない気持ちになった。

 子供たちは捕まると食料としてこの檻の中に入れられる。そして捕まったはずの子供たちはその檻の中にはいない。つまり——


 それから俺たちは親に会えなかった子たちを手分けして何とか檻から出して遂に洞窟を後にしたのだった。



 長蛇の列を作りながら洞窟を出ると何と朝日が目を覚まそうとしていた。どうやら気が付かないうちにだいぶ時間が経っていたようだ。

 俺はそんな今は小さな明かりを目にして、脱力した。というよりは肩の荷を降ろしたような感覚に近かった。もっというなら、ホッとした。


 「……終わったなぁ」

 「そうね、終わった、のよね」

 「そぉですねぇ……」


 どうやら俺と同じような感覚を味わってる人が何人かいたらしい。


 「ちっ、結局俺は何にもできなかった……!」

 「アーガスくん、そんなことは無いよ。君は僕の背中を押してくれたじゃないか。おかげでほら、こうして娘に無事に会えた」

 「はっ、よかったじゃねーかよ! ちっ、くそったれ……」


 アーガスがギロリと俺を睨んできた。

 なんだあいつ、ガン飛ばしてきて。


 「旦那様! 帰ったら早速式を挙げましょうね!」

 「ノエル、その呼び方はやめてくれって言っただろ……」


 やれやれ、一体道中何度同じ注意をしたんだろうか。数えだすときりがないほどなのは間違い無いんだが。にしてもこいつなんでこんな元気なん? 死にそうになってたよねこの子。


 「ノエル、あなたに結婚などというのはまだ早いです」


 お、そうだそうだ言ってやれ。


 「だからあなたの代わりに私が……り、リンさんのお、お嫁さんに……!」


 言葉を続けるにつれ、段々とアルマの顔が朱へと染まっていく。


 「あ、アルマも何言い出して——」

 「おっと、そういうことならあたしも立候補しようじゃないか」

 「へぁ?」


 全く意識外の所からナタリー、がズバッと切り込んできた。


 「な、ナタリー! は、あれは冗談じゃなかったの!?」

 「お、おいおいそりゃないだろうリン! あ、アタシだってあんなことは流石に冗談じゃ言えねぇよ!」


 あらやだこの人めちゃピュアやん。


 「え、あ、そ、そうですか……」


 え、なにこの状況。俺どうしたらいいのか全くわからんのですが。


 「ちっ! 見せつけやがって……」


 おいアーガステメェこの野郎。お前当事者になってみろ、絶対ろくに頭働かねぇぞ!

 キャイキャイと何故か知らんが俺を巡って女たちがだんだんヒートアップしていく。


 「ちょ、もうやめ——!」


 俺はいい加減にこのよくわからん争いを止めようと声を掛けようとし。


 パシッ


 「ほら、リン行くわよ」

 「あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!?」


 突然アーリィが俺の手を取って、強引に帰路を歩み出した。それに過剰に反応したアーガスが絶叫する。


 「え、ちょ、アーリィ!」

 「ほら、私まだ怪我してるんだから。早く帰って休みたいの」

 「え、あぁ、うん、おっけー」

 「ほら早くっ走る走る!」

 「あ、あぁ……」


 ちら、と後ろを見ると何事かを話しながら俺たちを追ってくるノエル、アルマ、ナタリーの三人が見える。

 その後ろには憤怒の形相で吼えるアーガスが。その後ろでマリーとエリーゼがやれやれと言った様子で付いてくる。

 さらにその後ろからは囚われのみになっていた人たちがぞろぞろと歩みを進めてきた。その中にはもちろんウィリーさんたちもいた。


 そんな光景を見て。

 俺はこんなにも沢山の人たちを助けられたんだなぁ。

 そう、しみじみ思った。





 —————


 「お、こいつが念願の神闘士か!」

 「ああ」

 「ようやく、ようやく手に入れたのね」

 「そうだ。かれこれ、四百年ぶりだな」

 「地球の転移、転生者は適正率が低いかわりに個体の強さが桁違いだからなぁ……! まぁともかくこれで俺たちの世界もようやく【神天武闘祭】にエントリーできるな! なぁ、もうエントリーはしたんだろ? 相手はどこの世界の奴らだ?」

 「……いや、まだエントリーはしてないんだ」

 「はぁ!? 何してんだよ、念願の【神天武闘祭】だぞ!? 俺たちにはあと数年の猶予しかねぇんだぞ!? ちょっと俺が代わりにエントリーしてくるわ。問題ねぇよな?」


 私は悩みに悩んだ。しかし悩んだところでこの世界の寿命が伸びることは無い。寿命を得るためには【神天武闘祭】で勝つしか方法はないのだ。

 私は重々しく首を縦に振った。


 「よし、んじゃ行ってくるわ!」


 大きな声でそう言いながらダレイドは部屋を出ていった。そんな親友の背中を見ながらふと視界の端に映った画面の先で女たちと談笑しながら歩む宮間 燐を見て私は搾り出したような声を出した。


 「すまない……」



 一章 終

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拳の剣聖 @shinkai0927

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