EX、煮干しの行方。

 *煮干し戦線クリア後。

時空を超える旅を続けるアルドからすれば未来の地、最果ての島の浜辺にてアルドは墜落した飛行船の近くで何かを探す若い男に出会う。

アルド「アンタ、どうしたんだ? こんな所で」

男「え。ああ、いやネコを探しているんだ。この辺りで見掛けたって話を聞いてさ」

急にアルドに背後から声を掛けられ、男は少し驚いた様子だったが直ぐに心を持ち直しアルドに事情を説明する。

アルド「ネコ……か。どんなネコなんだ?」

生来のお人好しと仲間から称されるアルドは、男の事情を知り、自然と協力の姿勢に前のめりになり男が探しているというネコの特徴を尋ねる。

男「白い小さなネコさ。飼っていたんだけど、逃げ出してしまって……ずっと探しているんだ。見かけなかったかい?」

アルド「うーん、残念だけど俺は見ていないな」

けれど男から聞かされた情報だけでは明確な力になれずアルドは腕を組み、悩み始めて。

男「そうか……まだ小さいから凄く心配してるんだけど」

アルド「……その手に持ってるのは?」

すると男はアルドの様子を受けてガックリと肩を落とし、行方不明の猫を想う。そんな男が肩を落とした際、アルドが気になったのは男が手に持っていた魚の煮干しであった。

男「ああ、コレは魚の煮干しだよ。ウチのネコの好物でね」

男「でも、時間が経ってるから匂いも薄くなってきてて、これじゃ誘き出せないかもしれないな……」

乾き切った煮干しは、男の手の中で今にも崩れそうな風体。

男「最近じゃ、魚の煮干しも中々手に入らないからね。少し困ってるんだ」

アルド「……」

物資も行き届かぬ事も多い最果ての島の事情を加味し、男が纏う悲壮にアルドは黙し、眉間に皺を寄せる。自らも苦境に強いられているであろう状況、それでも一匹の猫の為、命の為に行動する男にアルドは胸を熱くさせていたのかもしれない。

アルド「それじゃあ、俺が手に入れて来てやろうか?」

不意に、言葉が漏れる。見て見ぬふりは出来ぬ、後先も考えずに放った言葉ではあったが肩の力が抜けていた言葉を言い終わると同時に覚悟も決まって。

男「本当かい⁉ 魚の干物を持ってきてくれたらお礼はするから頼むよ‼」

すると男は、アルドの言葉に歓喜の声を上げる。舞い降りた一縷の希望にすがるような勢いは、アルドが少し気圧される程であった。

アルド「べ、別にお礼は要らないけど、分かった。少し待っていてくれ」

そうしてアルドは魚の煮干しを求め、再び時空を超える旅を始めるのだった。

***

最果ての島の浜辺の深奥。アルドは再び、そこで猫を待つ若い男に話しかける。

男「アレ、君は……魚の煮干しを持ってきてくれたのかい‼」

アルド「ああ。これでネコが顔を出してくれれば良いけど」

*一匹目。

男「ありがとう‼ これからコレをここに置いて様子を見てみるよ」

男「これはお礼だ。大したものじゃなくて悪いけど……」

*二匹目。

アルド「どうだ? ネコは見つかって……ないみたいだな」

男「ああ……でも、もう少し待ってみるよ」

アルド「コレ、新しい煮干しだ。良ければ使ってくれ」

男「良いのか⁉ 君は本当に良い人だな‼」

男「あんまり良いお礼が出来ないけど、これからもまた持ってきてくれると嬉しいよ」

アルド「ああ、任せてくれ‼」

*三匹目。

男「……」

アルド「おい、どうした? 大丈夫か?」

男「はっ‼ 寝てた‼」

アルド「……」

男「君は……また煮干しを持ってきてくれたのか」

アルド「まだ見つからないんだな」

男「……ああ、でも僕はいつまでも探せるよ。たかがネコの一匹なんて言って諦められないからね」

アルド「……大切なネコなんだな」

男「家族さ。僕は結婚を約束してた人が居てね……あのネコは、その人が飼っていたネコの子供なんだ」

男「僕はその人と……別れることになったけど、せめてあのネコとはこれからも一緒に過ごしたいと思ってる」

男「あの子からすれば、勝手な話なんだろうけどね」

アルド「……また来るよ。次に来るときには、ネコが見つかっていればいいな」

男「ああ。期待しといてくれ、ネコが見つかっても君が来るのを楽しみにしておくよ」

*四匹目。

アルド「おーい、来たぞ。何処に居るんだ?」

エイミ「ホントにアルドはお人好しよね。ネコ探しの手伝いの為に時空を超えるなんて」

アルド「……ネコ、見つかったのかな」

エイミ「……ネコ、か」

男「うわぁぁ‼」

エイミ「なに⁉ なんの騒ぎ⁉」

男「はぁ、はぁ……」

アルド「どうした‼ 大丈夫か⁉」

男「……き、君は……ああ、いや少し寝てたら悪い夢を見てさ」

アルド「……そ、そうか。怪我がないなら良かった」

エイミ「ビックリしたじゃない‼ 夢ぐらいでそんな大声出さないでよ‼」

男「ああ、すまない……ところで君は?」

アルド「ああ、彼女はエイミ。一緒に旅をしてる俺の仲間だ」

男「そうか……今日も魚の煮干しを持ってきてくれたのかい?」

アルド「ああ。まだ見つかってないんだな」

男「……もしかしたら、もう他の誰かの所で幸せに暮らしてるのかもしれない」

アルド「……」

エイミ「大切に育ててたネコなんでしょ? あんまり無神経な事は言いたくないけどさ、きっとまた会えるわよ。いや、会わなきゃいけないの‼」

エイミ「家族なら、きっと生きていれば一緒に過ごすべきだから……‼」

男「家族か……どうだろう。まだ、生まれたばかりで名前も付けてなかったから」

エイミ「じゃあ、今から名前を考えて家族になる準備をしなさい‼ そんな暗い顔してたら来るものも来ないっての‼」

アルド「……むちゃくちゃ言ってるぞエイミ。ん……?」

アルド「アレは……時空の穴‼」

男「……なんだ、アレは。あ……‼」

ネコ「ニャァァ……」

エイミ「……ネコ?」

男「オマエ……‼ 奇跡だ……奇跡が起きた‼」

アルド「アレが、探してたネコなのか……⁉」

男「ああ、間違いない! 少し大きくなってるけどあの子だ‼」

アルド「でもなんで時空の穴から……?」

エイミ「……」

男「ほら、オマエの好きな煮干しだよ、たんとお上がり」

ネコ「ニャァァ」

エイミ「……ねぇアルド。あのネコって」

アルド「どうしたんだエイミ……あ!」

フラッシュバックする過去の映像。時空の穴に巻き込まれ遭難し、志半ばに息絶えた亡骸に寄り添う猫との記憶。

アルド「まさか、あの時の……」

エイミ「……きっと、そうなのかも」

男「良かった、ホントに良かった‼」

男「そうだ君達‼ この子に名前を付けてくれないか? 君達に名付けて欲しいんだ」

エイミ「……キロノ。その子の名前は、きっとそれが良いと思う」

男「キロノ……良い名前だな。うん、それにしよう‼」

男「本当にありがとう、この子……キロノはきっと幸せにしてみせるよ」

アルド「……良いのか、エイミ」

エイミ「良いに決まってるじゃない。そうだったらいいと思うしさ」

エイミ「それより、早く私たちは確かめなきゃ。あの時空の穴の先を」

アルド「そうだな。違ったら、またあの子を探さなきゃいけないし」

——。


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とある受難者の祝福 紙季与三郎 @shiki0756

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