第2話 初勝利?!

 「手強かったわね……」


 とある一軒の酒場でエルスティアは反省会を開いていた。


 初めての戦闘で全滅した勇者一行は、自分達の何が悪かったのか話合っているのだが。


 全部だよっ!


 勇者は一人で突撃するし、戦士は体力が無さすぎる。僧侶にいたってはなんの為にいるのか理解に苦しむ程だ。


 その上一人一人の能力が低すぎて話にならない。


 正直担当を変えてもらおうかと悩むほどだ。


 そう脳内でつっこみを入れる俺は特殊な仮面を被り、気配を消して勇者達の席の近くで佇む。


「敵が強すぎるわ」


 お前達が弱すぎるんだ。


 黒子には特殊な力が備わる。性悪な神の加護というやつだ。


 それは担当している勇者パーティに限りだが、遠くからでもレベルを確認する事が出来るというもの。こうして指で輪を作って眼に当てると……。


 勇者レベル1じゃねえかっ! 村人でも2はあるんだぞ。どんな育ち方したらこんな弱くなるんだよっ!


 戦士は……うん、まあ、1だよな……。


 僧侶が5もあるんだが、全く役に立たない5だな。……ぼけてるし。


 ちなみに俺は20、実戦も積んでいるから当然だが、あいつら弱すぎだろっ!


「確かに……俺達もうちょっとやれると思ってたんだが。ここまで魔物が凶悪だとは先生も教えてくれなかった……」


 先生もまさかゴブリンにやられるとは思っていなかっただろうよっ! っていうか戦士は学園上がりか……よく卒業出来たな。


 学園は表の勇者支援学園。それは勇者に同行する人間を育てる為に造られた専門機関だ。ちなみに俺が育った施設は裏、黒子を育てる為だけの場所だった。


 とはいえ学園を卒業したのであれば最低限の力は備わっているはず。というかレベル3以下は卒業出来ないはずだったが、どうなってるんだ。


「ダースさんは学園を首席で卒業されたと聞いていますが、実戦は初めてだったのですか?」


「……いや。……学園側からは、ほら、あれだよ……外に出るのは卒業してからと釘を刺されていたんだよ」


 はいダウトっ! あの能力で首席はあり得ない。勇者の視線に目が泳いでいるのがその証拠だろう。


 それでも戦士にも僧侶にも悪意は感じられない。本心で世界を救いたいと考えているようだが、足を引っ張っぱっていては意味がない。


 さあ、勇者よ。嘘を暴いてパーティの再編成を訴えるんだ。


「そうなんですか。では仕方ないですね。初陣であるなら緊張して実力が出せないのも仕方ないです」


 おいいいいいいいいっ!


 あんなあからさまな嘘に騙されてんじゃねえよっ!


 アホなのですかっ?!


 いやアホなのかもしれない。そういえば初めて見た時からどこかずれているような感じがしていたのだ。普通はよぼよぼの僧侶を一目見て、チェンジっ! と言ってもおかしくないはずなのに、仲間として迎え入れている。


 この調子ではすぐに騙されて身ぐるみ剥がされてしまうかもしれない。


「やっぱり経験を積むしかないわね……ジーザスもそう思うでしょ?」


「……」


 俺が考え込んでいる間に勇者が僧侶に話しかけている。問い掛けは至極まっとうな内容。むしろあの実力でよく連携の訓練もせずに外に出たものだ。


 だが勇者に話を振られた僧侶は俯いたまま反応しない。


「ふがっ……。ふむ、ふむ。そうじゃの。お主の言う通りじゃ」


「そうよね。じゃあ明日からは少し慎重に行動しましょうか」


 おい僧侶。お前今寝てただろうっ! 半分瞼が落ちたままだぞ……。


 本当にこのパーティについて行って大丈夫なのだろうか。早めに見切りをつけるのも手かもしれない。


 だが、まだ旅は始まってすらいない。もしかしたら、大化けする可能性も……わずかに、ほんの僅かにある。一度引き受けた仕事を投げ捨てるにはまだ早いか……。


 今しばしの間は様子見をすることにしよう。


 願わくば是非とも死なないように強くなってほしいものだ。



 ◆   ◆   ◆


 


 正直失敗したと思っている……。


 想像以上にこのパーティはやばい。


 初めての全滅から三日ほど立っているが、未だに最初の草原から先に進めていない。


 それどころかゴブリンの一匹も倒す事が出来ていないのだ。


 二日目は草原を歩いている際に遠距離から弓で狙われ、僧侶が瞬殺された。ゴブリンが持っている武器はこん棒とは限らない。弓や剣、斧、個体によっては簡単な魔法を使う。


 運が悪かったことと、索敵能力の低さが露呈した戦いだった。


 ちなみに僧侶を先に倒されてしまった勇者は仲間を倒された怒りで、結局突撃して何も出来ずにやられてしまい。戦士も守るか攻めるか悩んだ挙句に三匹に集中攻撃されていた。


 三日目、少しは考えたのか小型の盾を購入して(一つ10Gを三人分)挑み、連携も上手くいくかに思えたが、


 盾は何の役にも立たなかった。


 戦士を前衛に立て守りを主軸に進み、現れたゴブリンへと剣を振るったのだが、戦士の攻撃を上手く避けたゴブリンに反撃され、戦士がやられるとあっという間に全滅してしまった。


 今日のこの戦い次第で俺は全力で配置換えを願い出るつもりだ。せめて一匹でもゴブリンを倒してくれれば、多少なりとも先が見えるのだが難しいだろう。


 担当勇者の変更は状況によって許可が下りる。そうなれば別の勇者の担当につくまでの間、施設へと戻り訓練を続けることになるが仕方ない。


 正直初めての担当で気合を入れていたからこそ、落胆が大きいのかもしれないが、このまま今の勇者を見続けていても意味がないと思えてしまう。

 

 そして四度目の旅立ちを始めた勇者一行は、またもゴブリン相手に全滅の危機に瀕していた。


「ジーザスさんっ!? このぉっ!」


 すでに僧侶が倒され、戦士とは分断されている。この状況で立て直すのは無理だろう。


 あ……。戦士が倒された。


 さてと……もう終わりだ。そう考えた俺は戦場へと足を動かす。


 だが俺の予想は裏切られる。


 5匹のゴブリンに囲まれた勇者は逃げる事もかなわず、ただ撲殺されるだけの状況だった。


 必死で剣を振るがその刃は敵に当たることも無く。風を切る音だけが響き渡っていた。


「あっ……」


 不意に勇者の体勢が後ろに傾く。剣に引っ張られる形で仰け反った彼女の頭部が、背後からにじり寄っていたゴブリンAの鼻頭に直撃したのだ。


 痛みで目を瞑るゴブリンAは手に持っていたこん棒を振り回すが、勇者はすでに地面に倒れている。こん棒は隣のゴブリンBの腕に直撃し、振り上げていた手から錆びた剣が落ちた。


 錆びた剣はゴブリンCに蹴り上げられ、戦士を倒して近寄ってきていたゴブリンDの頭部に突き刺さった。


 刺されたゴブリンDは倒れる際に、隣にいたゴブリンEの肩を引く。倒れた先には大きな岩があり、ゴブリンEは後頭部を強打して動かなくなった。


 しかもゴブリンEが倒れる際、ボウガンの矢が誤射され、ゴブリンBの側頭に刺さり、はずみでゴブリンCに倒れ込む。慌てたゴブリンCは倒れまいとしてゴブリンAに手を伸ばすが、ゴブリンAは視界が塞がったまま敵と認識したのかゴブリンCにこん棒を叩きつけた。


 最後は頭部を殴られながらも、ゴブリンCがゴブリンAの体を掴みゴブリンBと共に倒れてしまった。


 なんだこれ……。


 結果ゴブリンA以外のゴブリンは動かなくなったのだ。


「……よいっしょ。……えいっ!」


 勇者が草の上であわあわ言ってる間にゴブリンがほぼ全滅した。現状が飲み込めていない勇者だったが、起き上がり目の前で二匹のゴブリンの下敷きになり唸り声をあげているゴブリンAに剣を突き刺す。


 確かに俺は一匹でも倒せなければ担当を変えてもらおうと思ったのだが。これはどうなのだろうか……。


 ……どちらにせよ今回は全滅するという事だけは免れた上に、一匹とはいえゴブリンを倒した。


 ということは……。


 よしっ! 


 俺は思わずガッツポーズをする。確認すると勇者のレベルが2という表記に代わっていたのだ。 

 

 初勝利とも言えないような戦闘だったが、勝ちは勝ち、初勝利だ。


 戦士と僧侶、二人の身体を引きずって行く勇者を見ながら、俺はもう少しだけ様子を見ようと思うのだった。




 第四回勇者蘇生報告書

 

 戦士と僧侶のみの蘇生


 死因

    王国内草原にてゴブリン5匹との戦闘により戦死


 担当のコメント

    

    勇者が生き残り勝利。レベルも上がったが、先行き不安の為、要経過観察


                  勇者エルスティア担当黒子。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者の黒子 常畑 優次郎 @yu-jiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ