第56話 幕間 ジャンヌの秘密

イネッサははっと気付いた。


ここはどこ?


地面は白い雲がふわふわしていた。


やっぱり私死んじゃったんだ。


涙が頬から流れてきた。


「父様、母様。アレク」

もう二度と会うこともないだろう。


「泣くな、童女よ」

そのイネッサを見てスラリとした凛々しい女騎士が言った。


「でも、私、男の人達に襲われて」


女騎士がパチリと指を鳴らした。


「えっ」

イネッサはどうして殺されたのか詳しいことが記憶の中から抜け去った。


「すまぬ。余のせいなのじゃ」

女騎士が謝った。


「シャラザール様が反省されることはありますまい」

「しかし、オオクニヌシ、余があの者共を地界に叩き落としたせいで、この童女がこのような目にあったのじゃ。いっその事あやつらを地獄に叩き落としてやれば良かった」

シャラザールは歯を食いしばって言った。


本来ならばこのまま地上に来臨し、マクシムとアフロディーテの2匹の悪魔をそのまま地獄に叩き落としてやりたかった。


「童女よ。その方が望めばお主に酷いことをした奴らを余が来臨して地獄に叩き落としてやるぞ。そうだそう望め」

いきなりシャラザールはイネッサに迫った。


「シャラザール様。天界の者が地上に干渉するのはよくありません」

オオクニヌシが注意する。


「しかし、オオクニヌシ、このままでは余の気持ちが収まらん。余が生まれ変わってマクシムを成敗に向かうか」

とんでもない事をシャラザールは言い出した。


「お止め下さい。シャラザー様。そのようなことになれば、今度は地界に大シャラザール帝国が再現してしまいます」

「当然じゃな。今回は蛮族と言えども見逃しはせん」

拳を握ってシャラザールは宣言した。

地上をシャラザール帝国一色にする気満々だった。


オオクニヌシはため息をついた。このシャラザールならやるかねまい。その上天界にも逆侵攻しかねない勢いだった。


「あのう、神様。もし許されるならばやりたいことがあるのですが・・・・」

イネッサは恐る恐る声をかけた。


「何じゃ。多少のことならば何でもさせてやるぞ」

シャラザールは少女に迫った。


「えっ、いえ、恐れ多いとは思いますが、出来れば地上でアレク様を見守りたいのです」

「何とそのようなことでよいのか」

拍子抜けしたようにシャラザールが言う。

「シャラザール様。そのような事など、簡単に安請け合いなさるべきではありませんぞ」

オオクニヌシが注意する。


「何を言う、元はと言えば全能神のゼウスが乱倫すぎるからこのような事が起こるのじゃ。

何なら今すぐ余がゼウスを成敗に参るが」

「いや、それはお止め下さい。天界が二分した大戦が勃発致します」

オオクニヌシが大慌てで止める。

すでにシャラザールの高名は天界中に響いていた。女性を中心に圧倒的な人気だった。

それが軍を起こすとなると天界が二分しかねなかった。


「じゃろう。それならば童女の希望を多少無理して聞いてやっても良かろう」

シャラザールが笠に着て言う。

「しかし」

オオクニヌシが止めようとするがシャラザールは早速台帳を見出した。


「余の子孫にジャンヌという今病気でまさに死のうとしている童女がおろう。

その童女の魂にこの童女の魂を入れれば良かろう」

「マーマレードの王女ですか」

「そうじゃ。どの道死ぬならその童女を生かしてやれば良かろう」

「しかし、この子の魂を入れようとしていたドラフォード生まれる赤子の魂はいかが致しますか」

「そのジャンヌの魂を入れれば良かろう。ジャンヌは母親が厳しいと泣いておったからの。この童女の強い魂ならば何とかなろう」

「しかし、シャラザール様」

「あのう、王女殿下とかは無理だと思うのですが」

イネッサは断ろうとした。

「何を言う。相手はノルディンの王子ぞ。マーマレードの王女くらいで丁度釣り合いが取れるわ。それとも更に3歳若い、ドラフォードの王女が良いか。年が近ければそれだけ付き合える可能性も高まろう」

「そんな、付き合うだなんて。遠くから見るだけで結構です」

「ならばマーマレードの王女で丁度良かろう。国も隣同士だし」

シャラザールが言った。


「しかし、記憶は移せませんよ。それも敵対国ではないですか」

オオクニヌシが言う。

「なあに、いざとなれば余が介入してやる」

シャラザールはやる気満々で言った。

「まあ、二人が恋仲になるかどうかは運命の女神が握っておるがな」

オオクニヌシは大きなため息をついた。介入は止めてほしい。切なる願いだった。


「で、そろそろやらないとまずいのではないか」

「まあそうなのですが」

オオクニヌシは抵抗しようとするが、シャラザールを止められるわけはない。

そして、イネッサが考えるまもなく、シャラザールは勝手に話を勧めていった。


「判りました。アレク様を陰から応援させて下さい」

イネッサは押し切られていた。



*********



そして、マーマレードの宮殿では奇跡が起こった。

「お妃様。姫様が元気になられました」

「なんと、医者たちはもう難しいと申していたではないか」

「奇跡が起こったのです」

「おおお、シャラザールよ。私の願い聞いて頂いて有難うございます」

マーマレードの王宮は大騒ぎになった。


「良かったではないか。オオクニヌシ」

「本当に良かったかどうか」

オオクニヌシは溜息をついた。

「ふんっ。マクシムとアフロディアを生かしておくのは絶対に悪いことだがな」

「シャラザール様。お願いしますから、何もしないで下さいね」

オオクニヌシの願いは残念な事にかなわなかった。


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ここまでありがとうございました。

二人がどうなるかは

「皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917566155

をお読み下さい。

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赤い死神の大侵攻作戦で王国を蹂躙します…しかし、その前に無敵の戦神が立ち塞がりました 古里@3巻発売『王子に婚約破棄されたので @furusato6

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