第55話 エピローグ
一方、北の砦では動くものは一人もいなかった。
全員死んだように倒れ込んでいた。
皆体のいたる所が傷だらけだった。
クリスティーナ・ミハイルはぱっちりと目を開けた。
なんか体が軽く気分爽快だった。
ゆっくりと体を起こす。
「うーん、よく寝た」
クリスは周りを見ると皆死んだように倒れていた。
近くの人間を揺する。
「グリフィズ様。グリフィズ様。大丈夫ですか」
「うーん」
ゆっくりとグリフィズが目を開ける。
「げっ、シャラサール様。もう勘弁して下さい」
グリフィズは切羽詰まった大声を出した。
「えっ、グリフイズ。しっかりして。私よ。クリスティーナよ」
クリスがグリリィフィズをゆする。
「えっ?クリス様に戻ったんだすか」
「何言っているのよ。元々クリスよ。伝説の戦神なわけ無いでしょ」
その騒ぎで全員起き出す。
「あっ、クリス戻ったんだ」
ジャンヌが起き出して言った。
「グリフィズもお姉様も何言っているんですか。私はクリスですよ」
少しふくれてクリスが言った。
「本当に女の子なんだ」
ボソリとジャンヌの横で起き上がったアレクが言った。
「な、何を言うのよ。私が男に見えるわけ」
怒ってそういった者を睨みつけてクリスはそれが赤い死神だと気付いた。
とっさにクリスは固まった。
(何で敵の赤い死神がここにいるのよ)
心のなかで絶叫していた。
「申し訳ありません」
しかし、次の瞬間絶句した。赤い死神が平身低頭して謝ってきたのだ。
傲岸無比、皇帝にすら低頭したことのないと言われる赤い死神が、クリスに頭を下げている現実にクリスは言葉もなかった。
「は、は、は。赤い死神と恐れられているアレク様もクリス様には頭が上がらぬようですな」
突然現れたジャルカが笑って言った。
「ジャルカ、貴様、私達が苦労している時にどこに隠れていた」
ジャンヌが怒って言った。
そう言えばジャルカがいなくなっていることに誰も気づきはしなかった。というか戦神のシゴキの厳しさにそこまで考える余裕は無かった。
「あのジャルカ様。良くわからないのですが、何故、ここにアレクサンドル様がいらっしゃるのですか」
クリスが訊ねる。
「まあ、クリス様。いろいろありましてな、アレク様にもいろいろお手伝いいただきましたのじゃ」
笑ってジャルカが誤魔化した。
「まあ、そうなのです。クリスティーナ様。アレクサンドル・ボロゾドフと申します」
アレクが慇懃に挨拶をした。
「これはこれはご丁寧に。クリスティーナ・ミハイルと申します。殿下にお会いできて光栄です。私のようなものにまで、ご丁寧にご挨拶賜り有難うございます」
クリスはきれいなカテーシをした。
「そのようなもったいない。今回の御恩は一生忘れません。何かございましたらいつでもお声がけ下さい」
アレクは言葉とは裏腹に、出来たら二度と声はかけてほしくない、と震えながらアレクは思っていた。クリスからは戦神の恐怖は感じなかったが、あの戦神を前にした恐怖は二度と味わいたくなかった。あの力には到底敵わなかった。しごかれてその凄さが改めて身にしみたアレクだった。
それはボロボロにされた兵士達一同の素直な気持ちと全く同じだった。彼らにしてもシャラザールに助けられたのは事実だった。それはどれだけ感謝しても感謝し尽くすことはなかった。シャラザールがいなければ下手したら今頃王都もノルデインに制圧されていただろう。
しかし、シャラザールの訓練は訓練と称しながら一歩間違えれば確実に殺されていた。5体満足についているのは奇跡だった。二度と関われリは持ちたくない。クリスとは正直話しはしたいし関わり合いたかった。しかし、シャラザールとは出来ればと言うか絶対に二度と関わり合いたくはなかった。兵士達の心からの願いだった。
傲岸不遜なアレクにしてからそうだった。シャラザールは今回全能神に勝ってしまった。と言うことは史上最強、いや宇宙最強になったはずだ。そんな奴に勝てるはずもなかった。二度とマーマレードに近付くことは止めようと心に誓ったアレクだった。
「えっ私ですか?殿下の為に何かさせて頂いた記憶がないのですが」
クリスが不思議そうに聞く。
「まあ、クリス様。いろいろありまして」
「そうだ、クリス。アレクが何かあったら助けてくれるっていうんだから、素直に聞いておればよいよ」
ジャンヌの言葉にアレクは固まった。そうだ。あの言葉のとおり取られるとこれからもパシリとしてシャラザールにこき使われるのではないかと、アレクは思い当たって絶句した。
そう、これから望もうと望むまいと散々シャラザールにこき使われるアレクの話は別の話になる。
「そうですか」
なんか釈然としないものを感じながら、クリスが言った。
「そうですぞ。クリス様。人の好意は受け取っておかないと」
ジャルカも笑って言った。
いや、絶対に二度と関わり合いたくはないとアレクは思ったが、顔には出さないように、微妙な笑顔を貼り付けていた。
「それよりもアレク様。今回の件、貴国の皇帝陛下が聞かれたらどう思われますかな」
笑いながらジャルカが聞いた。
「まあ、大変だとは思いますが、何とかしますよ」
憂鬱になりながら、アレクは言った。
あの皇帝の事だ、マクシムの件といい、途中撤退の件といい許しはしないだろう。淡々とマーマレードの特別な戦力シャラザールがいかに強力だったか話すしかあるまい。まあ、国境をそのままにしてくれたのだから、皇帝としては喜ぶべきであるとはアレクは思うが、あの皇帝の事だ。中々納得はしないとは思うが、マクシムやダニールの亡き後、後継者問題含めて人がいないのは事実だ。納得するしかあるまい。皇帝の相手といい、この砦の後始末といい、やることを思うと、ぞっとするアレクだった。
うんざりするアレクの視線の先に快活に笑う、ジャンヌの姿が見えた。その笑顔がイネッサに重なったのは気のせいだろうか。ちょくちょく遊びに行っても良いかも知れないとアレクはふと思った。
そのジャンヌの方に歩き出したアレク達の間を吹き抜ける風はそろそろ秋の色を帯びていて物寂しさを醸し出していた。
完
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皆さん、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございました。
本編完結しました。
明日20時にイネッサの事書いて終わります。
評価宜しくお願いします。
少し休んで
「皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917566155
の続き記載始めます。
まだ読んでいらっしゃらない方はお読み下さい。
クリスと今回出てこなかった大国ドラフォードの皇太子の恋のものがたりのはずです。
ここに出てくる登場人物の大半出てきます。
ではここまでありがとうございました。
明日また・・・
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