陰謀論の創り方(暗殺篇)

筑前助広

本編

 どーも、アルファポリス第6回歴史時代小説大賞にて、応募全3作品全入賞という快挙を成し遂げ、かつアルファポリス・エブリスタ・ノベルアッププラスというWEBで行われた歴史時代ジャンルコンテストの全てで入賞している、日本いや世界で唯一無二の男です。もう、ペンネームを筑前無二にしようかしら。


 と、のっけからマウントを取ったのは、これから述べるのが創作論ですからね。世の中には実績のない、いわばワナビが語る創作論を笑う人間がいますから。一応、舐められるのが嫌なので、ジャブを放った次第です(冗談です)


 さて、本題です。

 皆さん、陰謀論を創りたいって思った事はありませんか? ありますよね?

「あ~、陰謀論を創りてぇぇ!!」

 などと、無性に思う事は誰でもあるはずです。

 ですので、今回は簡単に陰謀論、中でも暗殺説の創り方をご紹介します。


 陰謀論の暗殺説を創作するにも、まずは殺すべきターゲットの選定が必要です。勿論、暗殺したいターゲットがいれば越した事はありませんが、漠然と暗殺説にしたいという方は、この選定が大変難しいです。だって、偉人なんて綺羅星の如くいるのですから。


 そこで、まずはターゲットより先に〔時代〕の選定をいたします。

 つまり、何時代の人物を暗殺説にしたいのか? という事。これが決まれば、時代を更に小分けにしていきます。

 例として、今回は江戸時代にしましょう。その江戸時代でも、1770~1790年代と田沼意次が活躍した時期に絞ります。


 これで、〔暗殺説に仕立て上げる人物は1770~1790年に死んだ偉人〕と決まりました。

 そして、ここに登場するのはWikipediaの没年ページです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:1770%E5%B9%B4%E6%B2%A1

 あとは70~90年の間の没した偉人の経歴を見て、ターゲットを決めます。

 ここで抑えておきたいのは以下のポイント。


・不可解な死:死因がはっきりしていないケース。

・都合がいい死:このタイミングで死ぬ?というケース。

・突然の死:その通り、突然に死ぬケース。


 正直、病死もどうとでもなります。ただし他殺は暗殺説にしにくくなります。


 では今回は、伊勢津藩の第8代藩主・藤堂高悠をターゲットにして、暗殺説を創っていきましょう。


 まずは彼の経歴です。


 父・高朗の隠居により家督を継ぐ。同年3月5日、和泉守に改める。同年12月18日、侍従に任官する。

 高悠は勤皇の意思が強く、佐賀藩と協力して仙洞御所の普請役を率先して務めたが、そのため藩財政をさらに悪化させた。

 生来から病弱ということもあって、明和7年(1770年)閏6月2日に20歳で病死した。嗣子がなく、跡を兄の高嶷が継いだ。


 どうです? 彼の経歴に臭う所がありませんか?

 まず、この頃の幕朝関係はギクシャクしておりました。概要は省きますが、宝暦事件や明和事件が起こり、しかも当代は中々キャラ立ちしている女帝・後桜町天皇の時代です。

 幕府が朝廷の周囲に気を使っている中、勤王思想が強く仙洞御所の普請役を率先して務めたのです。藩の財政を傾けてまで。これだけで、暗殺する価値はあります。

 あと、一つ。その後を異母兄の高嶷が継いでます。この兄は当時は支藩である久居の藩主で、本家を継ぐ身分ではなかったんですよ。恐らく母親の身分が低くそのような処置になったのでしょう。


 早すぎる死。タイミング。人間関係。ん~香ばしい。


 これで、材料は揃いました。

 では実際に物語ににしてみたので、是非読んでください。



◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆


 曽我喜三郎そが きさぶろうは、料亭が見合わせる茂みの中で、息を殺していた。

 江戸の郊外、道灌山どうかんやまである。月見と虫の音の名所であり、事実として満月は美しく、蟋蟀こうろぎが風流に泣いている。しかし今の喜三郎には、そんなものは目にも耳にも入らなかった。

 夜の無。感じるのは、激しい胸の高鳴りだけだ。言葉は交わさないが、喜三郎と共に草陰に潜んでいる四人の同志もまた、似たようなものだろう。

 これから人を斬らねばならない。喜三郎は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


(何を震えているのだ……)


 喜三郎は、自らの右手を掴んだ。

 人を斬ったのは、これが初めてではない。五年前、二十歳の時に藩命で脱藩者を斬った。それだけでない。領内をうろつく不逞浪人も斬った事がある。賊徒の追討にも参加した。何かあれば呼ばれ、その剣を頼りにされてきた。

 それに若干十八歳にして、若山流わかやまりゅうの免許も得たほどの腕がある。自らの経験と才能があるから今回の刺客に選ばれたというのに、何を恐れる事があろうか。

 そう言い聞かせても、やはり震えは止まらない。何せ、相手が相手なのだ。これから斬る男は、安濃津あのつ藩第八代藩主・藤堂高悠どうどう たかなが伊賀無足人いがむそくにんである喜三郎には、仰ぎ見るどころか顔も合わす事も出来ない相手だが、主君である事には変わりはない。


「お殿様を斬らねば、いずれ藤堂家は改易になり多くの藩士が路頭に迷う事になる」


 そう言ったのは、家老の藤堂多門とうどう たもんだった。

 なんでも高悠は尊王の志が篤く、仙洞御所せんとうごしょの造営には普請役を買って出て、藩財政を著しく傾けたらしい。それだけではなく、最近では公家や尊王論者たちと結びつき、何やら善からぬ企みをしているのだという。

 幕府は三年前に、尊王論を吹聴し江戸攻撃を企んだ山県大弐やまがた だいに藤井右門ふじい うもんを処刑したばかりで、京都の動きには過敏になっている。そんな中で高悠の動きは看過出来ないものだとも、多門は説明した。

 また暗殺が成功した場合に跡を継ぐ事になっている、高悠の実兄・高敦たかあつは、わざわざ手を取って頼むと言ってくれた。伊賀無足人という軽輩の自分にだ。

 この暗殺には、大儀がある。しかし、これから自分が〔大名殺し〕をすると思うと、どうしても平静ではいられなくなる。

 気が付けば、汗がじっくりと単衣を濡らしていた。夜になり、やっと風に涼しさを感じるようになったが、それでも汗は止まらない。

 喜三郎は、両手で独股印を作り、抑えた声で「臨」と唱えた。

 それから両手を、大金剛輪印だいこんごうりんいん外獅子印げじしいん内獅子印ないじしいん外縛印げばくいん内縛印ないばくいん智拳印ちけんいん日輪印にちりんいん宝瓶印ほうひんいんと目まぐるしく変化させた。

 九字護身法。お勤めの傍らに修験道を研究していた父がよくやっていたもので、喜三郎も昔から何かあると唱えたものだった。

 ふうっと、心が軽くなる。その時、隣りにいた指図役の滝田宗兵衛たきた そうべえが「来たぞ」と袖を引いた。

 料亭から、駕籠が出て来る。護衛は五人。屈強な武士たちだ。ひとまず駕籠を見送り、道灌山の下り坂で襲う手筈になっている。

 これが第一段。もし自分たちが失敗した時の為に、高敦の家人が十名ほど第二段として控えている。


「行くぞ」


 滝田が立ち上がる。喜三郎は頷いた。

 鬱蒼とした茂みを下っていく。横目で駕籠が見えた。通り過ぎ、先回りをする。

 滝田が全員を集めた。闇に血走った眼が八つ浮かんでいる。全員の緊張は最高潮に達しようとしていた。


「いいな、手筈通りだ」


 滝田が言う。滝田は最年長の四十歳で、経験豊富な使い手だ。そんな男でも声が上ずっている。


「これは義挙なのだ。御家を救う為の」


 誰かが言った。喜三郎も頷いた。


「行くぞ」


 滝田が声を挙げ、飛び出す。喜三郎も続いた。


「何者」


 護衛が慌てて刀を抜こうとする。その暇は与えなかった。抜き打ちで胴を抜くと、逃げようとした駕籠舁きの袈裟を斬り下ろす。鮮血がほぼ同時に幾つか上がった。不意を突いた奇襲が成功し、同志が護衛を掃討したようだ。

 喜三郎が、駕籠に手を掛ける。派手な着物の若者。白い肌は真っ青になっている。この男が高悠か。その面相は、聞かされたように下顎が前突している。


「やめろ、やめてくれ。助けてくれ」


 喜三郎は無言で高悠を引きずりだすと、無銘の大刀を大上段に構えた。


「何でもする。お前を家老に取り立てる。銭もやろう。だから」


 もう何も考えなかった。大名殺し。その汚名を背負う覚悟はしていた。両親は既にいないが、娶ったばかりの妻が一人。腹には赤子がいる。その二人と、御家の為だ。

 振り下ろす。鮮血。ごろりと、首が転がった。深い感慨は無い。ただ若者を斬った、としか思わなかった。


「よし、行くぞ」


 滝田が、肩に手を置いた。落ち合う場所は、谷中天王寺やなかてんのうじの裏の林。駆け出そうとした時、行く手を遮る一団がいた。

 先頭の男の顔が、月明かりに顔が照らされた。見た顔。第二段の指図役を務める、安達主馬あだち しゅめ。柳生流の使い手だ。


「止まれ」


 安達が腹に響く声で吠えた。四人は思わず足を止める。一瞬、加勢に来たのかと喜三郎は思ったが、様子が変だ。背後にも数名が回り込んでいるのだ。


「見事、本懐は……」


 と、一歩前に出て言った滝田の声を制するように、一団が刀を一斉に抜いた。


「こ奴らは主君弑逆の謀反人だ。全員斬って捨てよ」


 全てを喜三郎は悟った。口封じ。その上に、罪を着せるつもりなのだ。


「おのれ、謀ったな」


 滝田が吠える。その横で、喜三郎は無銘を抜き払った。事ここに及べば、もはややるしかない。


「曽我」

「滝田殿、やるしかございますまい」

「しかし」

「活路を開くのです」


 身体が自然と動いていた。駆け出し、敵の中に躍り込む。残りの三人も、すぐに続いた。それで、敵は些か虚を突かれた格好になった。

 刀を夢中で奮う。斬り上げ、斬り下ろす。最初の三人までは容易に斬れたが、「狼狽えるな」という安達の一喝で、敵は落ち着きを取り戻した。


「相手は四人ぞ。取り囲め」


 斬撃が伸びて来る。躱したが、二の腕を浅く斬られた。敵も中々のものだ。細かい傷はこれで三つ目だ。

 しかし、多勢に無勢。同志は、一人また一人と斃れていく。滝田も既に片腕一本になっている。

 喜三郎は咆哮した。激しい憤怒。それは、高敦にか? 多門にか? 或いは、見抜けなかった自分自身にか。

 向かって来た敵の胴を抜くと、安達に遮られた。八相に構えている。


「お前とは立ち合いたかった」


 安達が言った。

 それは俺もそうだと思ったが、こちらは傷を受け過ぎている。


「逃がさんぞ」


 前に出ようした安達が横から飛び込んだ男に、押し倒された。滝田だった。


「行け、早く」


 滝田が必死にしがみついている。それを安達が振り払おうとするが、滝田は鬼の形相だった。


「かたじけない」


 喜三郎は前を遮る二人を斬り倒すと、道灌山を転がるように駆け降りていった。



◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆


 いかがでしたでしょうか?

 立派な陰謀論、暗殺説になってませんか?


 それでは皆さんも、よき陰謀論ライフをお過ごしくださいませ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰謀論の創り方(暗殺篇) 筑前助広 @chikuzen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ