第2話 気付き

村から出たことがない俺にとって、見たことのない花にすら興奮は抑えられなかった。嗅いだことのない匂い、見たことのない小型モンスター。一つ一つに反応していては日が落ちてしまう。


とりあえず目的地はターチス街。そこに行けばギルドに参加できたりパーティーを作れると兄貴が教えてくれた。


兄貴は家業を継いだ。俺の実家は村名産のイガという野菜を作る農家だ。家の手伝いをしてたら自然と筋肉がつきすぎた。兄貴は俺が旅立つ日も畑に行った。俺が昔から外の世界に憧れていたのを知っていたからだろう。兄貴なりの優しさだと思う。沢山の土産話を持って帰るまでは村には帰れないな…


そんなことを考えながら数時間歩いているとターチス街に着いた。周りは城壁で守られており、大きな門の前には腰の丸いおじいさんが立っていた。


「はいはい、ターチス街へようこそ。商いの方かね、冒険の方かね」


「冒険者の登録をしにきました」


「はいはい、ここは通行書とか要らないんだがね、街の中で暴れられちゃ困るんだ。その時に逃げられても困るから、ここで指紋を取らせてもらうよ」


「指紋…ですか…」


自身の手を見る。爪は長いし畑仕事でボロボロだが…指紋あるのか??


「ああ君はネコ科の子か、随分大きいからお顔を見るのも一苦労だなあ。ネコ科は鼻ね、鼻をここにつけてもらえば指紋代わりになるから」


おじいさんに差し出された黒い板にかがんで鼻をつける。3秒くらい押しつけ離すと鼻の形が白く浮き出てきた。


「はい、ここでの作業は終わりだよ。キミも大変そうだねえ。ターチス街を楽しんで。」


「ありがとう」


俺の何が大変そうだったのか分からないがそんなことは今どうでも良い。ついに、ついに街に来た!俺も剣を持ったり弓を引いたりするんだろうか。とりあえずギルドに入ればいいのか?


「すみませんおじいさん、ギルドに入りたいのですが、街のどこへ行けばいいですか?」


「ギルドかい、それなら道をただ真っ直ぐ行けばわかるよ。あの大きさで見逃す奴はおらんからな」


おじいさんに言われた通りに街を真っ直ぐ歩く。こんなに賑やかな場所を初めて見た。


しかし違和感がある。俺のような見た目の獣人が全くいない。人間やエルフ、小人族は沢山いるというのに、こんなにでかいのは俺だけ。道も人が多いから俺が通るのも一苦労だ。俺ぐらいにでかいと好奇な目で見られるのか?


なにかおかしい。賑やかな雰囲気なのに俺を見る目が冷たい気がするのは気のせいだろうか。

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獣人に人権はありますか? 昌治ゆう @_bob_

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