第4話 燕天峰と燕天豪


「誰か出てきます!!」


家の方を伺っていた兵士の言葉に、地面に大刀を刺し仁王立ちをしている男が顔を上げる。

外に出てきたのは、男二人、女二人の四人。

其々武器を持っている。

男は目を細めると、傍に置いてあった武器を地面から抜く。

そして、前線へ歩き出した。


「…やっと出てきたか。」

「時間制限なんて無かったですからね、お待たせしてしまったのなら申し訳ございません。」

「…いや、構わん。」


青龍の言葉に、男は首を振った。

そして、並んでいる兵士達の前に立つと、武器を再び地面に突き刺した。


「俺は、燕天峰(えん てんぽう)。お前達が『四聖獣』と呼ばれる者達か?」

「ええ、そうです。私は青龍と申します。でも、よく知ってらっしゃいますね?もう、300年以上も昔の話なのに。」

「ふん。物好きな男がいるからな。」


青龍と自己紹介をした男・燕天峰は、腕を組んだ。

そして、青龍の隣にいる男と、その後ろに立つ女二人を順番に見つめた。

そんな燕天峰に、青龍は微笑みながら話しかける。


「それは、雲雕という男ですか?」

「…答える義務はないな…。それより、『翼人』はどこだ?」

「こちらも、貴方に答える義務はありません。」

「…そうか。なら、答えて貰うまでよ!!」


がそう言い放つと、彼の後ろに控えていた兵士達が大きな声で叫んだ。

それと同時に、前列に居た兵士が走り出してきた。

燕天峰が武器を手に取った途端、青龍の後ろに控えていた玄武が青龍の前に出てきた。


「…お覚悟っ!!」


そう言うと、弓を向かってきた兵士達に向けた。

その姿を見た兵士達は、慌ててその場に立ち止まった。

彼等の行動を見た玄武は、兵士達に向けていた弓を空へ向け、その空に向けて矢を放った。

玄武の行動を見ていた兵士達はニヤリと笑う。


「馬鹿か?空に向けたって意味がねぇだろ?」


一人の兵士がそう呟いた途端、止まっていた兵士達が再び4人に向かってきた。

そんな玄武の行動に、燕天峰は首を傾げたが、何かに気付き慌てて兵士達を止める為叫んだ。


「戻れっ!!」

「…え?」


燕天峰が叫んだのと同時に、空から無数の矢が青龍達の方へ向かってきていた兵士達に降り注いだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「くっ…!!」


矢が当たる瞬間に避けた燕天峰に怪我は無かったが、逃げ遅れた兵士は矢の餌食になってしまった。

目の前に、矢が刺さった兵士の躯が沢山転がっていた。

その様子を、燕天峰は舌打ちしてみていた。


「矢一つを空に放っただけで、コレだけの矢が降ってくるとはな…。」

「申し訳ありません。しかし、こうでもしなと貴方達は止まっていただけませんから。でも安心してください。私の放った矢は命を取るものではありませんので。」


玄武の言葉に、燕天峰は近くに倒れた兵の脈を測る。

脈を打つ感覚に、確かに死んではいないと確信する。


「…命を取らぬか…。」

「えぇ。『翼人』は戦が嫌いですから。」


玄武はそう言うと、燕天峰に頭を下げた。

その時、四聖獣達の後ろで扉が開く音がした。


「…朱雀?」

「璃茉っ!!」


声をかけられた朱雀は慌てて振り向くと、そこには主である璃茉が立っていた。

璃茉は、キョロキョロと周りを見渡す。

そして、燕天峰の姿を見つけると、慌てて朱雀の元に走りしがみついた。


「…ほぅ…。お前が『翼人』か。」

「なっ…!!」


燕天峰の口から『翼人』の文字が出てきて、璃茉は目を見開いた。

『翼人』という言葉は、この世に生きる人には知られてない、むしろ、物語の人物としか捉えられていないと春嵐に教え込まれていた。

なのに、目の前にいる男は普通に『翼人』と言い放った。

璃茉は顔を青ざめる。


「どうやら、お前が『翼人』のようだな。」

「ちっ…違いますっ!!」

「ふん。そんな顔を青くして否定しても無駄だ。」


燕天峰はそう言うと、持っていた武器を構える。

その姿を見て、青龍と白虎も構えた。


「『翼人』は連れて行く。邪魔をするな。」

「それは無理なお話ですね。大切な我が主を渡す訳にはいきません。」

「そうそう。俺達の主にも生活はあるからね。」

「そうか。なら、仕方がない。…力ずくでも連れて行く!!!」


燕天峰はそう言うと、青龍と白虎に襲い掛かってきた。

青龍も白虎も、璃茉に被害が無い様に、その場から離れ燕天峰を迎え撃った。


「璃茉、今のうちに逃げましょう。」

「だけど、青龍達がっ!!」

「彼等は大丈夫です。さぁ、行きましょう!!」


朱雀と玄武に連れられ、璃茉は森の奥へ走って逃げた。

しかし、森へ入る瞬間、何処からともなく矢が飛んできた。


「きゃっ!!」

「璃茉様っ!!」


飛んできた無数の矢は朱雀達と璃茉の間に刺さり、彼女達の間に隙間ができた。

それと同時に、誰かが璃茉の首に腕を巻きつけてきた。


「きゃあぁぁぁぁっ!!」

「よしっ!!確保っと。」

「璃茉様っ!!!」


捕らえられた璃茉を助けようと、玄武が矢を放とうと構えた途端。


「おっと、動くなよ?動けばこのお嬢ちゃんの命はないぜ?」

「くっ…!!」


璃茉を捕らえた男は玄武に言い放つ。

手には小刀が握られている。

玄武はどうする事も出来ず、そのまま弓を下ろした。

その行動を見た男は、笑って頷いた。


「うんうん。それでいいぜ?…峰兄(ほうにぃ)ー、捕らえたぜー?」

「よくやった、燕天豪(えん てんごう)。」

「「璃茉様っ!?」」


燕天豪と呼ばれた男は、璃茉を捕まえたまま燕天峰の元へ歩き出す。

璃茉はその間必死にもがいて逃げ出そうとするが、全く歯が立たない。

必死に足で腕を蹴るが効いてないようだ。

何度も蹴ってくる璃茉の姿に、燕天豪は苦笑いを浮かべた。


「さて、四聖獣。」


燕天豪が隣に立つと、燕天峰が自分の目の前にいる二人と遠くに居る二人に話しかける。


「璃茉は捕まえたが、お前たちも欲しいと雲雕は言っている。」

「うるさいっ!!誰がお前たちなんかにっ!!」

「懸命な抵抗だが、ここで璃茉を殺してもいいんだぞ?」

「な…っ!!」


いきり立つ白虎に、燕天峰は持っていた短剣を取り出し璃茉の首筋に当てる。

その姿を見た四聖獣は、顔を青ざめた。


「…だめっ!!」

「…嘩燐?!」

「あたしなんかの為に、無理な事はしないでっ!!」

「だけどっ…!!」

「なら、あたしココで死ぬっ!!」


璃茉はそう言うと、いきなり暴れだして燕天豪の腕からすり抜けた。

そして、燕天峰が持っていた短剣に飛びつこうとしたが、すぐさま燕天峰に捕まった。


「勇ましい姫だな。」

「離してっ!!」

「ここで殺してしまっては、雲雕に俺が殺される。」


燕天峰はそう言うと、拳で璃茉のみぞおちを殴った。


「うぐっ…!!」

「璃茉様っ!!!」

「安心しろ、眠らせただけだ。このまま死なれては困るからな。」


燕天峰は近くにいた兵に璃茉を預けると、縛って馬車に乗せろと命令した。

璃茉を受け取った兵は、そのまま馬車の方へ走っていった。


「璃茉ーーーーーっ!!」


慌てて白虎が追いかけようとしたが、その前に燕天峰が現れた。


「…燕天峰っ!!」

「お前たちも来い。…璃茉を殺されたくなければな。」

「くっ…!!」


それでも燕天峰に襲い掛かろうとする白虎を、青龍が止めた。


「白虎!!今、燕天峰を襲えば璃茉様の命がっ!!」

「だけどっ!!」

「今は…今は我慢しよう…。そして、璃茉様をお救いするんだ!!」


青龍の言葉に、白虎は持っていた大剣を落としその場にしゃがみこんだ。

青龍の傍に、遠くにいた朱雀と玄武もやってくる。

彼女らに頷くと、青龍は燕天峰を見た。


「璃茉様を大切にしてくれるなら、我等は貴方がたについて行きます。」

「…分かった。」


燕天峰は青龍の言葉に頷くと、再び近くにいた兵に彼等を捕らえろと命令をする。

青龍達は近寄ってきた兵士達に縄で縛られ連れていかれた。

そんな姿を、燕天峰は黙って見つめていた。


「峰兄…。」

「なんだ?」

「本当に良かったのか?殿の命令だけどさ…。」

「仕方がない。雲雕の…君主の命令だからな…。」


燕天峰は小さくため息を付くと、自分の馬の元へ歩き出した。

その後姿を、燕天豪はただ見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鳥の詩(うた) 嘩燐 @tekko31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ