切れる袋

PIAS

切れる袋



 俺の食生活は偏っている。


 なんせ、毎食のようにコンビニでしか食べ物を買っていないからだ。

 そのせいか、些か健康を害してきているような気がする昨今だが、致命的な問題は起きていないし、今更自炊する気もちゃんちゃら起きない。



 今日も新発売の、スープのキレが評判だという、豚骨ラーメンの袋麺を買ってきた。

 早速鍋にお湯を張り、袋麺の中身を取り出す。


「えーと、なになに。先に容器にスープの素を入れておいて下さい、か」


 コンビニ弁当とインスタント食品に関しては、俺は最早お手の物だ。

 この袋麺にはスープの素と、特製黒ゴマ油の袋が入っていた。

 抜かりのない俺は、きちんとそれぞれの袋を確認し、特製黒ゴマ油は食べる直前に入れるという事を確認する。


 それくらい、プロインスタンターたる俺には当然の事だ。

 たまにカップ麺の表部分もろくに見ず、「ねぇ、これ何分で出来る?」などと聞いてくる輩がいるのだが、俺には到底信じられない。


 そこに! キッチリ! 書いてあるだろ!


 と、そういう奴を見かけたら、声を大にして言いたくなるものだ。



 さて、スープの素なのだが「こちら側のどこからでもキレます」と書かれてあったので、早速袋を切って、ラーメン用の丼にスープの素を入れようとした。

 が、どうにもスープの素の袋が切れない。


「チッ、たまにあるんだよなあ。こういうの」


 俺はボヤキながらも、少し切る位置をずらして、袋の端部分をねじ切ろうとする。

 だがそれでも切ることができなかった。

 もしかして、どこからでも切れると書いておきながら、実は切れる箇所が決まってるタイプなのか? それなら最初から一か所切れ目が入っているハズだ。

 と、切れ目を探してみるも、そんなものはどこにも見当たらない。


 やはりどこからでもタイプか? と思い、再び何か所も袋を指で切ろうとするのだが、まったく切れる様子がない。

 そんな無為な時間を過ごしてしまった俺だが、ふとスープの袋の裏面が気になった。

 先ほどあーだこーだしてる時にチラッと見えたのだが、何やら文章が書かれているように思えたのだ。

 そこで俺は、スッとスープの袋を裏返す。


 すると、そこにはこう書かれていた。


『ぶっぶー! 実はこの袋はどこからでも切れま…………せーーーん!! どう? キレた? キレちゃった? マジギレしちゃう? キレるとは書いたけど、切れるとは書いてないよーん。あ、キレてなかったら誤表示ごめんご。テヘペロッ♪』



 スゥゥ……。



 静かに呼気を吐き出した俺は、流れるような手つきで調理用のハサミを手に取った。



 え? スープの袋にキレたのかって?

 いやいや、決してそんなんじゃあないよ。


 ただ、堪忍袋の緒が切れただけ、さ。







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