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ピー助


ピー助


「お、なんか美味そうな匂いがしてくるな!」

「ぴぃ!」

「お前もそう思うか? よし、じゃあ片っ端から見て回るぞ!」

「ぴぃぃぃぃっ!」

 旅の最中に立ち寄ったとある町。
 そこには多種多様な露店が並び、美味しそうな匂いをそこかしこから漂わせていた。
 それはまるで日本のお祭りのようで、町を出歩く人たちは家族連れやカップルも多い。

「おやじ、その串焼きを2本くれ」

「あいよ」

「ぴぃぃ!!」

「え、もっと欲しいって? まあ、慌てんな。こんだけ店があるんだから、ここでお腹一杯にしたらもったいないだろ」

「ははは、ちげぇねえ。今日は年に1度のお祭りの日だからな。この町の奴らは皆祭り好きで食い意地張ってやがるから、気合入ってるんだぜ? 楽しんでいってくんな。はい、串焼き2本」

 気のいい店主から串焼きを受け取ると、早速影治はピー助と二人してかぶりつく。
 今は珍しく他の仲間とは別行動で、一緒に行動しているのはピー助のみだ。
 ピー助も祭りの雰囲気に乗せられたのか、それともただ美味しそうな匂いに喜んでるのか。
 いつもよりテンションが高く、珍しく自分で空を飛んで移動している。

「ぴぃぴぃぃぃ!」

「次はあれか? よし、いくぞ!」

 次のピー助のお眼鏡にかなったのは、お好み焼きのようなものを売っている屋台だった。
 恐らく小麦を使っている点は同じだろうが、まるでハンバーガーのように2枚の生地にたっぷりの具が挟まれている。

「ぴぴぴっ!」

「おお、そうかそうか。思ってた味とは違うが、確かにこれも美味いな!」

 基本的にピー助が、何か物を食べてまずそうにしてるシーンは見たことないが、それでも美味しいものを食べた時は明らかにいつもとテンションが変わる。
 通り沿いに並ぶ屋台をはしごしていくピー助は、ご機嫌に歌うように鳴き声を上げながら、次々と屋台を制していく。

「ふっ、お前は食べてる時が一番幸せそうだな」

「ぴぃーーい?」

「思えば一番最初に出会ったのがお前だったな」

「ぴぃ」

 流石のピー助も、今日は珍しく影治からストップがかからなかったので、目一杯お祭りを……美味しいごはんを楽しむことが出来た。
 いつもは程ほどにしているので、ピー助が食欲を満足させて膨れるくらいご飯を食べたのは久々のことだ。

「当時はそんなに自覚はなかったが、お前がいてくれたおかげで救われてた部分があったのかもしれねえ」

 そう言う影治は、いつになく感傷的になっているようだ。
 そんな契約主の様子に、大丈夫? とばかりにピー助がくちばしで影治をつつく。

「今は大所帯になって騒がしくなってきたが、ピー助には感謝してるぜ」

「ぴぃぃぃぃちゃん!」

「えっ、おっ? なんかいつもと違う鳴き方しやがるな。でもなんだか初めて聞いた気がしねえや」

 影治は忘れてしまっていたが、前世日本で暮らしていた頃、影治は傷ついたインコを手当てして面倒を見ていた時期があった。
 元々ペットとして買われていたものが、野生化したと思われるインコは、そんな影治によく懐いていた。

 手を差し出すとちょんっと手に乗って、そのまま肩の所まで必死に上っていく姿は、まるで登山者のそれだった。
 そうして肩まで上り詰めると、少し伸び気味だった髪の毛を摘まみ始める。
 それをくすぐったそうにしながら、少年時代の影治がインコを窘める。
 その能力ゆえに、親しい友人がいなかった影治にとって、それは心安らかな時間だった。

「にしてもお前大分食ったなあ? そんなに食いまくってるとデブ鳥になっちまうぞ?」

「ぴぃっ!?」

 契約状態にあるピー助には、まるまると太って碌に飛べなくなってしまったピー助のイメージが直接伝わってくる。
 そんな自分の姿を見せられたピー助は、慌てた声で鳴く。

「はははっ、そうならねえ為にもいっちょ運動といくか!」

「ぴぃ!」

 食事の次は運動だ、とばかりに人通りの多い場所を抜け、町中を走りだす二人。
 自由に空を飛び回るピー助と、それを追いかける影治の姿は、やがて町の喧騒に包まれて消えていった。

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