HERO 都立藤川高校怪人撲滅部

埴輪

HERO 都立藤川高校怪人撲滅部

 ──誰もいない廊下。窓から差し込む光は、夕焼けの赤。一方、腕時計のバックライトはオールグリーン。ということは、首尾よく「シフト」できたのだろう。多分、きっと。


 時刻は18時30分。


「やばっ」


 思わず声が出る。完全に遅刻だ。僕は慌てて走り出した。



「すいません! 遅くなりました!」


 ──ガラガラガラ。教室……もとい、部室の扉を開け放つと、教壇に立っている部長が、腕時計から目を離し、僕に顔を向けた。高く束ねた黒髪のポニーテールが揺れる。


「1時間48分もの間、君はどこで何をしていた?」

「ここではない場所というか、僕自身は何もしていないというか──」

「簡潔に」

「はいっ! 怪人と戦っていましたっ!」


 僕が簡潔に述べると、部長……「怪人撲滅部」の部長は、冷ややかに目を細めた。



 ──僕の名前は高柳たかやなぎ康介こうすけ。男性、十六歳、都立藤川高校の一年生、クラスは1-A、怪人撲滅部部員、以上……と、特筆事項のない人間。だけど、僕は選ばれた。ヒーローに。……いや、正しくは、ヒーローの身代わりに。


 先日、数十年にわたるヒーローと怪人の戦いに、大きな転機が訪れた。歴代最強のヒーローであるレッドが、怪人の秘密兵器によって、異次元に囚われてしまったのだ。


 レッド救出作戦が急ピッチで進められ、レッドの身代わりとしてを異次元に送る……シフトさせれば良いということが判明し、そのに選ばれたのが、僕だったのである。


 なぜ僕だったのかは、守秘義務とやらで担当の望月もちづきさん──ボブカットがよく似合う、美人のお姉さん──は教えてくれなかったけれど、異次元については少しだけ、教えてくれた。


 異次元には時間軸が存在しないため、年を取ることがない……と同時に、時が流れることによって事象を認識できる人間が、そこで何かを感じ取ることはできない。ただ、レッドはこの世界のことわりから外れた存在であるが故に、この世界との交信も可能で、そこから脱出することもできるのだけれど、身代わりとして人間一人分の存在を残さなければ、異次元の均衡バランスが崩壊し、この世界もろとも、「無」に還ってしまう……らしい。


 そこで、レッドがこの世界で怪人と戦っている間、レッドの身代わりとして異次元に送り込まれる……それが、僕が望月さんを通じて「組織」から依頼されことの全てだった。


 僕は承諾した。僕は怪人撲滅部なのだ。僕は怪人を倒せないけれど、レッドなら怪人を倒すことができる。部長だって喜んでくれるに違いない……そう、思っていたのに。



 部長……ひいらぎさやか。女性、十六歳、都立藤川高校の一年生、クラスは1-B、長い黒髪をポニーテールに束ねた美人さん……は、僕の話が終わると、小さく首を振った。


「……嬉しくないんですか?」

「部員の遅刻を喜ぶ部長がいると思うか?」

「それはそうですけど……」


 僕は教壇の前、最前列の指定席に向かいながら、部長の背後に目をやった。


「ほら、今日の議題にも即しているんじゃないですか?」


 僕は黒板を指さす。そこには白墨チヨークで「怪人を倒す方法」と書かれていた。それでも部長の表情は険しいままで、黒板を振り返ることもなかった。


「高柳君」


 部長はすっと人差し指を立てた。


「我が部の理念は?」

「怪人を撲滅する方法を考えることです」

「本気で」

「……怪人を撲滅する方法を、本気で、考えることです」

「その通り」


 部長は頷き、首下の赤いリボンをくいっと引っ張る。


「私たちはまだ子供だ。子供には金もなく力もないが、考える頭はある」

「考えるだけでいいってことですか?」

「それすらもできなくなるのだろう? そのシフトとやらは」


 ──図星だった。初めてのシフトの実感は、まるで実感がない、ということだった。ただ、時間だけが過ぎ去っていた。まばたきする間もなく、一瞬で、盗まれたかのように。


「君は怪人を倒していないし、考えてもいない。つまり、何もしていないということだ」

「……すいません。僕はただ──」

「謝る必要はない。君の都合だ、決めるのは君だし、決めたのも君だ」


 部長が教壇を離れ、部室の扉を開いたので、僕は思わず立ち上がった。


「部長! どこへ行くんですか!」


「家だ。さようなら、高柳君」


 ──部長が扉を閉めると同時に、下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。



 ──それから。シフトの要請は、三日に一度ぐらいのペースでやってきた。といっても、僕がやることと言えば、腕時計が震動し、バックライトが赤く光っていたら、文字盤をタッチするだけ。そうすれば、一、二時間ぐらい経っている……ただ、それだけだった。


 もちろん、困ったこともある。当然ながら、シフトの要請は僕の都合にお構いなしなのだ。


 寝起きにシフトしたこともあれば、食事中にシフトしたことも、入浴中にシフトしたことも、時には、トイレで用を足している途中に、思わずシフトしてしまったこともあった。


 寝起きのシフトは遅刻が確定し、食事中のシフトはカップ麺が伸びきり、入浴中のシフトはお湯が冷め切って、トイレでのシフトは……と、これは自主規制。


 ただ、学校には組織から話が通じているらしく、シフトが理由で遅刻したり、授業を抜け出したりしても、不問になっていた。そんな僕を、先生はともかく、クラスメートがどう思っているのかは分からない。事情を聞いてくるような友人はいないし、事情を知っている部長にしても、それで何か変わるわけでもなく、結果、僕と僕の周囲に、変化らしい変化はなかった。


 シフトの要請を受けるには、場所選びも重要だった。人通りの多いところでシフトすると、戻ってきた瞬間、接触事故となるリスクが伴うからだ。それでも、接触するのが歩いている人ならまだマシで、その人が自転車や、自動車に乗っていたとしたら……大変だ。


 幸い、シフトの要請は余裕を持って発信されているようで、たとえば要請から1分以内にシフトしないといけない訳ではなく──「だから、そんなに急がなくてもいいんですよ」と望月さんに言われるまでは、前述の通り、無茶なシフトもしていたのだけれど──、僕は場所もタイミングも選んだ上で、シフトすることができていた。


 「シフトの要請」=「レッドの力が必要」ということで、それは同時に「怪人の出現」をも意味している。そして、レッドが怪人を倒すことで、僕を含む国民は「安全・安心」というメリットを得ることになるけれど、僕のみに与えられるメリットもあった。お金である。


 シフトをする度に、僕の銀行口座にはお金が振り込まれる。それも、冗談としか思えないような金額が。だけど、僕はそれに手をつける気にはなれなかった。それが自分のお金だという実感もないし、部長に指摘された通り、僕は何もしていないのだから……そう望月さんに打ち明けると、「青春の対価としては安いぐらいですよ」と、笑ってくれるのだった。



 ──月日は流れ、案の定……と言うべきか、シフトが要請される頻度は増えていった。日常生活に支障をきたすほどではなかったけれど、放課後にシフトの要請をされることも多く、部活は休みがちになってしまった。


 部長には申し訳ないと思う。何しろ、怪人撲滅部は僕と部長の二人きりなのだ。そして、僕が休んでいる間も、部長は怪人を撲滅するための方法を、本気で考えているに違いないのだ。それでも、シフトの要請があれば、それに応じないわけにはいかなかった。


 その日も、シフトを終えたのは18時40分。遅刻も遅刻、大遅刻だが、顔だけでも出そうと部室へ向かうと、いつものように、部長は教壇に立っていた。


「えっと……今日も、その、すいません」

「いいさ。君にとっては、部活よりも大切なことなんだろうからな」


 ……そういう言い方はないんじゃないかな。そう思ったところで、口に出せるわけもなく、自己嫌悪も手伝って、僕はただ、「すいません」と頭を下げた。


「明日は必ず来るんだぞ」

「明日って、お休みですよ?」


 僕は頭を上げて答える。確かに、連日のシフトで時間の感覚が怪しくなっている点は否めないけれど、今日は金曜日で、明日は土曜日、お休みであることは間違いなかった。……まぁ、シフトの要請に曜日は関係ないのだけれど。


「……明日が何の日なのかも、忘れてしまったのか?」


 部長の顔が寂しそう……いや、だったので、僕は頭をフル回転させ、明日が何の日かを、必死に思い出そうとする。明日、明日……僕は携帯電話を取り出し、日付を睨む。


「あっ」


 僕は思わず声を上げた。明日は、僕の父さんと母さんの命日だった。



 ──翌日。最寄り駅で部長と待ち合わせ、怪人被害者の共同墓地へと向かう。


 怪人に殺された人の遺体は、怪人研究のために使われる。だから、僕も父さんと母さんの死に顔は見られなかった。多分、その方が良かったのだろうとは思う。……お互いにとって。


 部長と初めて会ったのも、共同墓地だった。その際、父さんと母さんが、怪人に襲われていた部長を庇って命を落としたということを、僕は他でもない、部長本人から聞かされた。


 本来、そうした情報は関係者にも開示されないはずだけれど、部長は政府の担当者に何度も頼み込んだのだという。自分を救ってくれた人たちのことを知りたい、と。その結果、まずは遺族である僕に情報が開示され、父さんと母さん、そして僕のことを、当事者に明かして良いだろうかと確認されたのだけれど、それを断る理由は何もなかった。


 怪人に殺されて終わってしまうような人生を歩んではいなかった父さんと母さんが、誰かのために命を投げ打つというのは、何よりもし、その誰かにも父さんと母さんのことを知っていて欲しい、そして、長生きして欲しいというのが、僕の正直な想いだった。


 ──かくして、僕と部長は出会った。その時の、部長の怒ったような顔は忘れられない。


「君が高柳康介君か」

「はい」


「私は柊さやか。君の両親に命を救って頂いた者だ」


 ──交わした言葉はそれだけだった。それ以上、交わす言葉も、その機会もないと思っていたのに、結局、僕は高校で部長と再会し、同じ部に所属することになった。


 ……なぜそうなったのか。偶然と言うには出来すぎているし、僕が何もしていない以上、僕ではないが、または、が、そうなるように働きかけたに違いなかった。


 ただ、僕はそんな今も悪いものではないと感じていた。この先どうなるかまでは分からないけれど、せめて高校生でいる間だけでも、このままでいたい……そう、思っていた。 



 ──共同墓地を目前にして、腕時計が震動した。腕を上げて目をやると、赤く光っている。シフトの要請だ。顔を横に向けると、立ち止まった僕を、同じく立ち止まった部長が見詰めている。僕は腕を下ろし、歩きだした。部長は何も言わず、ただ、小さな足音が聞こえた。


 敷地に入ってからも、腕時計は時折、震動した。再び足を止めたのは、巨大な墓石モニユメントを見上げるためだ。周囲には、同じく遺族であろう人々が、思い思いに手を合わせている。


 部長も僕の隣で手を合わせていた。じっと、両目を閉じて。僕もそれに倣う。


 ──この時、何を念じ、祈り、思えばいいのか、僕はいつもわからなかった。正直、今でも父さんと母さんが死んだという実感はなく、ただ、どこか遠くに行っているだけではないかという思いは拭えなかった。ただ、部長はそうではないのだろうなと思う。父さんと母さんの最後の顔を見届けたのは、僕ではなく、部長なのだから──


「あつっ!」


 思えず声が出た。左手首が、燃えるように熱かった。「康介!」部長がそう叫ぶのが聞こえたと同時に、僕は腕時計に触れていた。



 ──辺りは真っ暗だった。19時。閉門時間は、とっくに過ぎている。


「戻ったか」


 部長がいた。「帰るぞ」と歩き出したので、僕もその後に続く。


 共同墓地の出入り口、大きな柵状門は閉ざされていたが、その脇にある通用口は開いているらしく、丁度、スーツ姿の男性が敷地に入ってくるところだった。


 男性は真っ直ぐ僕に向かって歩み寄り、僕の頬を殴りつけた。僕は突然の痛みと衝撃に体のバランスを崩し、砂利道に尻餅を突く。動悸が早く、体が熱くなっていく。


「何をする!」


 部長の声。男性は部長に目もくれず、僕を見下ろしていた。


「なぜ、すぐに来なかった?」


 男性の姿が見えなくなる。部長が間に立ち塞がったからだ。両手を広げて。


「ブルー! やめてください!」


 女性の声。……ブルー? ヒーロー・ブルー? 部長は屈んで「大丈夫か?」と僕に声をかける。僕は頷き、よろよろと立ち上がる。男性の姿はなく、代わりに望月さんがいた。


「高柳君、ごめんなさい!」


 僕に向かって深々と頭を下げる望月さん。僕が「大丈夫ですから」と応じ、部長が「後は任せます」と立ち去るまで、望月さんが頭を上げることはなかった。


「手当は車でしましょう。終わったら、ご自宅までお送りします」

「何があったんですか?」

「いつものことですよ。怪人が現れ、ヒーローが退治した」

「……遅かった、ですか」

「少し。でも、それは貴方のせいじゃありません。組織の責任です」


 ──それ以上、僕は何も聞けなかった。



 ──翌日。僕は学校へ行った。テレビも情報サイトも見なかった。……恐かったから。


 1-Aの教室に入ると、クラスメートが一斉に僕を見た。僕は言葉を詰まらせたまま、自席へと向かう。着席すると、人の気配。見上げると、黒縁眼鏡の女の子が一人、立っていた。これまでろくに話をしたことはないけれど、確か、図書委員の、名前は──


「どうして、すぐにこなかったんですか?」


 加賀屋かがや……そう、加賀屋さんは、涙を流していた。顔が赤い。目も腫れている。何があったかなんて、聞くまでもない。同じだった。一人になったあの日、洗面所の鏡に映った僕と。


 ──震動。腕時計が赤く光っている。僕は迷わずそれに触れた。


 

 ──夕日で赤く染まった教室には、望月さんがいた。


「貴方にお願いがあります」


 そう切り出された「お願い」は、長期間のシフトだった。その期限は、未定。


「いつになるかはお約束はできませんが、必ず方法を見つけ出します。だから」


 ……いつかはこうなるだろうなとは思っていた。有象無象の少年と、世界を救う希有な力を持ったヒーロー。その価値は、天秤にかけるまでもない。人の命が地球よりも重いだなんて、本当の意味で使っている人はいないのだから。


 それに、どれだけ時間がかかろうと、僕にとっては一瞬の出来事だ。もちろん、その一瞬が永遠となってしまうリスクはある。それでも、道を選ばせて貰えるだけ、僕は幸せなんだろうと思うし、それだけに、僕に残された道は、一つしかなかった。──でも。


「少しだけ、時間をください」


 ──18時30分。一言、告げるだけの時間はあるだろうし、その時間だけは、たとえ世界が滅んでも、失うわけにはいかなかった。


 僕は望月さんの返事を待たずに教室を飛び出し、部室を目指して走り出した。



「退部させてください」


 ──開口一番、僕は部長にそう告げた。


「理由は?」

「怪人を撲滅するためです」


 ……怪人を撲滅するために、怪人撲滅部を辞めなければならないというのは皮肉だけれど、これは僕なりのけじめだった。僕はもう、ここで怪人を撲滅する方法を、部長と本気で考えることはできない。僕が戻ってくる世界には、もう怪人がいないはずなのだから。


 そして、きっと部長も──


「嫌だ」


 部長は首を横に振った。高く束ねたポニーテールが揺れる。


「それは……駄目って、ことですか?」

「私は君に生きて欲しい」

「別に死ぬわけじゃありません。ただちょっと、この世界からいなくなるだけです」

「それは死と何が違うんだ? 死後の世界、輪廻転生、これらを本気で信じるのと、君がこれからなそうとしていることに、どれだけの違いがあるというんだ?」


 必ず方法を見つけ出します……そう、望月さんは言ってくれた。望月さんは良い人だと思うけれど、その言葉を理由にできるほど、親しいわけではない。もし、それが部長の言葉だったとしたら、僕は安心してシフトすることができただろう。


 ──それでも。僕はシフトすることを決めていた。だけど、それは一体、なぜだろう? 世界のため? それとも、僕はもう諦めてしまっているのだろうか。自分の、人生を。


「私は君に生きて欲しい。他の誰でもない、君に」

「それは、部長が僕の両親に、命を救われたからですか?」

「そうだ」


 部長は迷わず頷いた。……ああ、やはりそうなのか。部長は僕に負い目を感じていたのだ。自分のせいで、僕の両親が死んでしまったと。そうだ、それしかないじゃないか。それしか、僕と部長に接点があるはずもない。だけど、それが、その事実が、何よりも悲しかった。……今すぐにでも、シフトしてしまいたくなるほどに。僕は、こんなにも部長を──


「だから、生きて」


 部長は左手を上げ、腕時計に触れた。その瞬間、部長の姿が消え失せる。


 ──そうか、シフトする瞬間は、こんなにもあっさりとしたものなのか。


「彼女の意志です」


 そう言って、望月さんが部室に入ってきた


「……誰でも、良かったんですか?」

「はい。でも、彼女はそれが君であることが嫌だったんですよ。とっても、ね」

「必ず、方法を見つけ出してくれるんですよね?」

「はい。それができなければ、私たちも力を持っただけの獣……怪人と、同じですから」

「それなら、お願いがあります」


 僕は──



 ──目の前には、部長の笑顔。それが見る見るうちに狼狽へと変わり、まずは腕時計に目をやり、次いで周囲を見渡し、もう他に逃げ場はないと観念したのか、僕に視線を向けた。


「……私は、君に生きて欲しいと言ったんだぞ?」

「だから、こうして生きているじゃないですか」


 あの日、シフトしてからどれだけ時間が経ったかは分からないけれど、今の僕は、僕たちは、間違いなく生きていた。


「……軽率だった。君がこうする可能性は、決して低いものではなかった。むしろ、私はそれを期待していたのだろうか? ……ううむ」


 腕組みする部長。それが余りにもので、僕もやっと安心することができた。


「全く、無茶なことしないでくださいよ」

「何を言う、君こそ──」

「僕だって、部長に生きて欲しかったんです。だから、僕はシフトしたんです」


 ──そう。それが理由だった。世界を救うなんて、有象無象の少年である僕には荷が重い。ただ、好きな女の子には生きて欲しい。そのためになら、何だってできる。


 異次元の研究には、より多くのシフト志願者が必要なはずだ。それが部長を救うことになるなら、迷いはなかった。それに、成功したら部長と会える……それは、僕の希望だ。


「……怪人は撲滅されたのだろうか?」


 僕は「そうですね……」と、周囲を見渡す。一見する限り、見慣れた部室のままだけれど、実はとんでもない時間が経過していて、ここは保存、あるいは、再現された場所であるということすら、考えられなくもなかった。ただ、いずれにしても──


「仮にそうだとしたら、怪人撲滅部は廃部ですかね?」

「そうだな。となると、新たな部が必要だな。さて、次は何を本気で考えるべきか……」

「僕と部長の未来とか、どうです?」


 部長は目をぱちくりし、次いで柔らかに細めた。


「それは、興味深いな」


 ──18時45分。チャイムが鳴り響く中、僕と部長は手を繋ぎ、部室を後にした。

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