第6話 勝つのはどっち!?



 それからほね組たちの妨害ぼうがい作戦は続いた。からだの大きい肝臓かんぞうくんはまととしてねらいやすいんだ。


『おれはそんなズルはしねえ。正々堂々と勝負をしたいんだ』


 肝臓かんぞうくんの言葉がむね(どこにあるかわからないけどね)にひびいた。ぼくのとなりでいっしょに応援おうえんしていた甲状腺こうじょうせんちゃんも、たんのうくんも泣きそうだ。


 だって、肝臓かんぞうくん。何度も転ばされてもあきらめないで立ち上がり、そして走っていくんだ——。


 入学式にゅうがくしきの日。肝臓かんぞうくんってイヤなヤツだと思った。意地悪いじわるで、口も悪くて、乱暴らんぼうで……。でもぼくたちは同じ内臓ないぞう組の仲間なんだ。


 ぼくは審判しんぱん脊髄せきずいくんのところにけよった。


ほね組はズルをしているんだ! 脊髄せきずいくん! 審判しんぱんでしょう? こんなのないよ!」


 どんどんほねたちにリードされている肝臓かんぞうくん。大型臓器ぞうきのほうが不利だ。

 しかし、脊髄せきずいくんはこまった顔をするばかりだ。


「悪いけど、ぼくはどっちが先にゴールするかを見届みとどけることしか、たのまれていないからね。途中とちゅうのルールについては知らないんだから。ぼくに言われてもこまるよ」


「でも! ズルでしょう? 見てよ。肝臓かんぞうくんが、きずだらけなのに、なんとも思わないの?」


 ぼくは必死ひっし脊髄せきずいくんにつかみかかった。


「ちょ、——やめてよ。そんなことされてもこまるよ。ともかくゴールしたほうが勝ちなんだから——」


 ——ゴールした方が勝ち?


 ぼくは、はったとした。


 ——そうか。どんな形であれ、ゴールすればいいんだ。


 脊髄せきずいくんから手をはなし、ぼくは走り終わって応援おうえんしているみんなのところに走っていく。


「ねえみんな! 聞いて! 作戦を変える——」



***



 何度も転んでどろだらけ、きずだらけの肝臓かんぞうくんの次は心臓しんぞうくん、膵臓すいぞうちゃんと続く予定だったが、ぼくはメンバーチェンジをすることを提案した。

 ぼくの作戦に、みんなは「え~」とか、「いいの?」とか言った。


ほねたちは自分たちらしく作戦を練ってきているだ。ぼくたちは、『ぼくたちらしく』ゴールできればいいんだと思うんだ。どうだろうか?」


 ぼくの提案に甲状腺こうじょうせんちゃんが最初にうなづいてくれた。


「いいと思うわ。わたしたちらしいじゃない?」


 すると、たんのうくんも「ぼくもいいと思う」と言ってくれた。二人がそう言ってくれると、他のみんなも「そうだな」「そうしよう」と言った。


肝臓かんぞうくんがつないでくれたバトンだ。ぼくたちはなんとしても先にゴールするんだ」


「よし、やろう!」


 ぼくの作戦通り、補欠ほけつになっていたカラダノくんが心臓しんぞうくんの代わりにそこに立つ。


 走ってきた肝臓かんぞうくんは不思議そうな顔をしながらもバトンをカラダノくんにわたした。


「おい、これはどういう——」


肝臓かんぞうくん! ぼくたちは絶対に負けないよ!」


 ——だって、キミはぼくに『ダイジョウブ』って言ってくれたよね!


 たおれそうになっている肝臓かんぞうくんを助け起こして、ぼくははいくん×2たちに声をかけた。


「よろしく!」


 ほね組たちはアンカーにバトンがわたったところだ。正直に言ったら、ぼくたちの勝利はない。しかし——。


 はいくん×2は思い切り空気をむと、一気にカラダノくんの中にそれをんだ。そして風船みたいに大きくふくれ上がったカラダノくんは、口をすぼませて、一気に空気をき出した——。


 ブウウ~~!!


 校庭いっぱいにおならみたいにひびくカラダノくんの音。ほねたちもびっくりしたみたいで、みんながかれを注目していた。

 カラダノくんは空気が抜けた風船みたいに、一気に飛ばされてほね組アンカーを追いしてゴールのテープを切った。


 一瞬いっしゅんの出来事に、みんながびっくりして声も出ないんだけど……。脊髄せきずいくんだけがぽつんと言った。


「はい内臓ないぞう組の勝ちね」


 ぼくたちのブランコ争奪戦そうだつせんは、こうしてあっという間に終わったんだ——。



 ***



 キーンコーンカーンコーン……——。


 業間ぎょうかんを知らせるチャイムが鳴る。ぼくとたんのうくんは校庭にけだした。


「間に合った?」


 目の前にいる右第十二肋骨ろっこつくんが振り向いた。


「ぼくの前、いいよ」


「ありがとう」


 あれから、ブランコに乗るのは、ほね内臓ないぞう交互こうごにしようという話しになった。おたがいに譲り合うこと、それから一個がげるのは三十回までと決めた。


 そのおかげで、なんとかブランコに乗れる日がふええた。ブランコに乗り終えてから鉄棒てつぼうのところに行くと脊髄せきずいくんがいた。


「この前はありがとう。脊髄せきずいくんはブランコに乗らないの?」


 彼は言った。


「ブランコなんて子どもが乗る遊具じゃん。ぼくは興味がないね」


 ——脊髄せきずいくんってかっこいい……。


 そんな脊髄せきずいくんの隣で鉄棒てつぼうに寄りかかっている肝臓かんぞうくんを見つける。


肝臓かんぞうくん。ケガ、ダイジョウブ? 肝臓かんぞうくんのおかげでみんながブランコに乗れるようになったよ。——ありがとう」


 ぼくは心からそう思った。今回、すごくがんばってくれたのは肝臓かんぞうくんだからだ。しかし、肝臓かんぞうくんは少しどす黒い色をして「け」とそっぽ向いた。


「別に——。あんなやつらに負けたくなかっただけだ。お前たちのためにがんばったわけじゃねえよ」


 ——素直じゃないんだから……。


肝臓かんぞうくんも、ケガ治ったらブランコに乗ろうね」


「けっ。べつにいいけどよ」


 ブランコのところでほねと話をしているクラスの子たちを見ると、なんだかうれしい気持ちになる。だって、ぼくたちは同じ一年生だもの。みんな仲良くできるといい。ぼくたちが仲良くすれば、人間の体も調子がいいに決まっている。


 ちょっと苦手だった肝臓かんぞうくんとも、仲良くできそうな気がするし。ぼくはにこにことして空を見上げた。


 ——ああ、きっと今日は、給食が美味しいにちがいない!





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人体学校 一年一組 雪うさこ @yuki_usako

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