何度召喚されても俺は……

貝人@鷹と一緒に異世界転生

第0話 国家権力を頼ろう


 白い空間に、縦横5m位の派手な装飾が施された木製の扉、地面には魔法陣……。


 ああ……またか。また俺を……。


「彼奴、また召喚しやがったな……。何回、召喚されても帰るっての。俺には、仕事があるんだし」


 さっさと最初に選んだスキルを使って、家に帰るか。彼奴に見つかると厄介だしな。


 そうこうしている内に、目の前にある巨大なドアが、勢いよく開く。


 帰るのがちょっと遅れたか……まあ、面倒な奴が来る前に、急いでスキルを発動させよう。


「ちょっと待ったー!!」


 巨大なドアを開き、走って来たのは、青い瞳、青い髪、白人の様な整った顔をした、見た目20歳くらいに見える、白いローブを着た優男。

 身長は170cmの俺より高い、多分180cmはある。イケメンで、高身長とか……。

 自称神らしいが、俺にとっては、何度も拉致をしてくる犯罪者でしかない。


「いやもう帰るんで、それじゃ」


 俺は、自称神になにか面倒事を言われる前に、スキルを発動し、木造アパートの自宅の部屋へ戻る。


 部屋の壁が若干薄いのが難点だが、駅近で風呂トイレ別1k、家賃が4万円と言う好物件だ。


「あー疲れた。全くなんで俺に拘るんだ? 他の奴に、もっとチートなスキルを選ばせればいいのに。俺のスキルなんて、自宅に帰る事ができるリターンと、物がしまえるストレージしかないのに。しかもリターンのスキルを使うと、地味に疲れるおまけ付きだし……」


 部屋の時計を見ると深夜1時か……明日が休みで、本当によかった。

 俺の仕事は、工事現場のアルバイトだ。

 基本的に、夜22時までには寝るようにしている。何故なら、現場の朝は早いから。

 バイトが終わって風呂に入って、飯を食べて寝る、この生活を18から続けてそろそろ1年が経つ。


 爺ちゃん達が、暮らしていた一軒家を20歳になったら譲り受け、そこで畑をやりながらスローライフをするのが俺の夢であり目標だ。


 ずっと帰宅部だった俺は、今までろくに運動をしてこなかった。畑仕事に耐えれる肉体を作るために、一から鍛え直している。


 工事現場のアルバイトは、お金も稼げて身体も鍛えられるパラダイスなのだ。


 鏡で身体を見ると、1年前よりは引き締まってきて、程良く筋肉もついてきた。


 そんな夢と希望に溢れている俺を、何度も何度もあの自称神は、異世界で魔王を倒せ! 君はヒーローだ! とか訳の分からない事を言い、拉致をしてくる。


 最初にリターンが選べて、本当に良かった。何故なら、スキルを発動した瞬間に、家に帰れたからな。

 あの時の自称神の間抜けな顔は、思い出すと笑いが込み上げてくる。


 身体を伸ばし、布団に仰向けに寝転がり天井に目を向けると、スパイダーマ○の様に自称神が、天井に張り付いてる。


 拉致だけじゃ飽き足らず、ついに俺の家を特定し、不法侵入してきやがった。


「チッ」


 俺は舌打ちし、枕元に置いてある、修学旅行土産の木刀を自称神に投げつけた。

 自称神のおでこに木刀が命中し、鈍い音が室内に響く。


 思ったより威力がでたな。これなら、自称神をしばけるぞ。


「いったあああい!!」


 自称神は、木刀がぶつかったおでこをさすりながら、器用に天井から降りて来た。


 俺は、木刀を自称神に突きつけ、牽制する。


「拉致の次は、不法侵入か。今警察を呼ぶから、そこを動くな」


 右手には木刀があるので、左手でスマホをポケットから取り出す。


「けっ警察!? なんで! どうして! 僕は神だ! 君には、何度も説明しているだろう!」


 叫く自称神を無視し、スマホを操作し110番に直ぐ様コールをする。


「はい。自宅に不法侵入されて、目の前に不審者がいます。ええ、はい、言動も服装もおかしく、常軌を逸しています。はい、はい、住所は……はい、よろしくお願いします」


「あっこら! やめろ!」


 自称神が、こちらに接近しようとしてくる。絶対に近寄らせないようにしなければ、お巡りさんが来るまでは。


 電話を切り、自称神の胸元に木刀を突きつけ、睨む。


「動くなよ、不法侵入の犯罪者め」


「きっ君はなんなのさ! 何度召喚しても最初に選ばせた、スキルで勝手に帰っちゃうし! 君達の憧れの、魔法がある世界だよ? それなのに、それなのに! 着いた瞬間にスキルを使って帰るなんて反則だよ! 魔王を倒したら、世界的なヒーローになれるんだよ? なりたいでしょ! それに君は特異点なんだよ!」


 足をジタバタさせて怒る自称神。


「おい、暴れるな。下の階やお隣さんに迷惑だろ。深夜だぞ」


「時間なんて関係ないね! 日本人の若い男は、皆んな厨二病って病を患ってるんでしょ!? ちょっと魔王倒して世界を救ってみようぜ!」


 日本人男性が皆んな厨二病だと? 話も通じないし、本格的にヤバい奴だな。人を何度も拉致する時点で、かなりヤバい奴だって、思っていたけど。人の家にまで侵入してくるとは……。


「知らん。俺を巻き込んだお前が悪い。更に言わせて貰うなら、リターンなんてスキルを選択できるようにするな」


 おっ肩を震わせているな。正論に効いたか。


「なっ! そもそもリターンは、拠点から拠点への移動スキルなんだよ! 世界観移動なんて、想定外だよ!」


 あーうるさい。キーキー猿みたいに騒ぎやがって。そもそも神だって言うなら、自分で調べろよ。


「拠点から拠点への移動だろ? 俺が拠点と認めているのは地球のこの部屋と、爺ちゃんの家だけだ。そもそも異世界の人は、地球への概念がないんだから、異世界の中だけの移動に限定されるだろ。……お前本当に神か?」


 疑惑の眼差しを向けると、頬を膨らまし、顔を真っ赤しにて睨みつけてくる自称神。ますます猿だな。猿神か?


 何故俺が、こいつに睨まれなければならないんだ? 俺は被害者だぞ?


 ムカついたので、自称神の頭に木刀を振り下ろす。


「痛っ! だいたいその木刀はなんだよ! なんで神にダメージを与えられるのさ!」


 頭を押さえて騒ぐ神を尻目に、窓を覗くと警察の赤灯の光が見える。逃げられたら厄介だから、縛っておくか。


「出所したら、京都の土産物屋の婆ちゃんに自分で聞いてこい。何処ぞの神に信仰してましたか? ってな。そして、俺に二度と関わるな」


 縛る物、縛る物……


 釣り用のリールしか紐がないが、これで縛るか。前にネットで見た縛り方を試そう。


 素早く自称神に近付き、足をかけ、床に転ばし、組み伏せ、縛り上げる。


「あっこら! やめろ! 僕を縛るな!」


 喚く自称神を縛って、床に転がし一息つくと、インターフォンの音が鳴る。


「警察の到着だな。もう二度と、不法侵入や拉致なんて真似をするなよ」


 自称神を一瞥し、部屋を出て、玄関に行きドアを開ける。


 到着した警官に事情を説明し、自称神が暴れる為、拘束している旨を伝えた。


 俺は部屋の外で待つように言われ、入れ違いに警察官2名が俺の部屋に入って行く。


 警察官の声と自称神の声が、室内から響く。


「容疑者確認! 確保!」


「貴様、暴れるな! おい、こいつパンツ履いてないぞ! 白い布だけを身につけてやがる。不法侵入に露出狂だと?」


「まっまさか、お前、男を襲うつもりだったのか? 先輩コイツまさか酔っ払い? いや酒臭くないな……まっまさか薬か!?」


 おお、自称神の罪がどんどん増えていく。


「おい! ふざけんな! 糞!! 罰当たりめ! 痛い! 強く持つな! 僕は神だ、警察なんかより偉いんだぞ! そもそもなんで、僕に触れるんだ! あり力が使えない? 何故だ!」


「確かに酒の匂いはしないな……それに自分を神だと? 相当にヤバい薬を決めているかもしれんぞ!」


「酒? 薬? そんなものやるか! あっ手錠をかけるな!」


「容疑者確保!」


「離せええええ!」


 警察官に僕は神だと喚き散らし、暴れる自称神。


 頑張れ警察、負けるな警察。国家権力パワーで、そいつを牢に繋いでくれ。


 数分後抵抗をやめ、大人しなくなった自称神は、パトカーに押し込まれた。


 俺は警察官の方に頭を下げ、部屋に戻る。


 一枚の紙が、机に置いてある。


「なんだこれ、汚ったない字だな……。『第二第三の僕が、必ず君に魔王を倒して貰う。例え、僕が牢屋に繋がれていてもね!』……はあ、全く反省してないどころか、新しい犯行予告じゃねえか」


 紙をぐしゃぐしゃに丸め、ゴミ箱に捨てる。


「明日は、爺ちゃんの家に行って、庭の手入れをしよう。木刀と、釣り糸だけは忘れないようにしてな」


 これからも自称神と、帰宅をかけて戦わなければならないと言う現実にため息が出る。


 だが俺は、負けるわけにはいかない。俺は、現実世界でスローライフをするんだ。


 

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