「これだから素人は困る」(2/2)
少し突飛な話をしよう。
諸君は遠足は好きか。というか好きだったか。
僕は嫌いだ。
遊びまわって腹をすかして、意気揚々と弁当を開けたら虫が集まってきた。
その日から遠足と聞くだけでじんましんが出る。
しかし、壮大な実験のための遠足ではどうか。
たとえば、あたり一帯を炎で埋め尽くすとか。
……たぶんそれでも僕はお断りだ。
野次馬として見にいくぐらいならいいが。
――――――――――――
3人がやってきたのは、城壁からかなり離れた平原だった。
周りには木も川もなく、生き物もない。
ただ黄緑色の短い草原に、大きな岩が点々とそびえている。向かい風の音が唯一の音楽だ。
「……よし、ここだ」
ソユーズは一番大きな岩の影に座る。
女の子二人もそれにならった。
「ではこれから作戦の概要を説明する。
トローカ、こいつに教えてやれ」
「せんせー、こいつ、じゃないよ。アリョーナさんだよ」
「へいへい」
パラッ。
ソユーズが取り出したのは原稿用紙の束だ。
表紙には『デーモンロード 原稿』とある。
パラパラめくると、全ページに文字がびっしり詰まっていた。
「あ、すごい!原稿ちゃんと書いてる!」
「天才作家をなめるなよ」
「なめるどころかやや軽蔑してました!」
「それをなめてるって言うわけだが?」
口喧嘩する2人をよそに、トローカは「はい」と声を上げた。
「わたしたちがこれからするのは、『ここ』のための実験だよ!」
トローカが指さした場所は、原稿の唯一の空白部分だ。
44ページ、4行目の一部分。文字数はせいぜい4文字分か。
ここだけは、何度も書いては消した跡が残っている。
「……えっと」
アリョーナは首をかしげた。
「ここには何が入るんですか?」
ソユーズが言った。
「ここに入るのは、爆発音の『オノマトペ』だ」
オノマトペ、つまり擬音語。
象の鳴き声の「パオーン」
銃の発砲音の「バンッ!」
そういった類のものだ。
ソユーズが語ったストーリーを要約するとこうなる。
現在『デーモンロード』のストーリーは佳境を迎えている。
世界の半分ずつを支配すると言われる2大国キリスとアイリスは、痴情のもつれから始まったいざこざをこじらせ、なんやかんやで国同士の戦争にまでこぎつけた。
敵陣営のアイリスは巨大な学術国家であり、軍事利用のための科学もじゅうぶんに発達させている。
対する主人公陣営キリスは人民も戦力も領地も大きく劣る。戦えば犠牲は必至だ。
迫りくる開戦のとき。高まる緊張感。
そしてある日、キリスの監視兵が城壁から顔を出したとき。
小高い丘の向こうから、巨砲を携えた戦車が何台もやってきた。
「全軍、撃てぃ!!!」
号令の瞬間、砲台が次々と火を噴いて――
そして、空白部分にたどり着くわけだ。
「だが、ふさわしい言葉がまったく見つからない。だから爆発させる」
「……えっと……」
アリョーナは不思議そうな顔で言った。
「それって普通に『ドカーン』とかでいいのでは?」
「うん、トローカもそうおもう」
「…………」
この時のソユーズの顔を見たか。
見えるわけないから代弁するが、神話に出てくる悪魔と同じような顔をしていた。苦痛にゆがんだ顔。この世のすべてを憎む顔。
あ、やってしまった、とアリョーナは悟った。
創作家特有の変なスイッチに触れてしまった、と。
「……これだから素人は困る」
ソユーズはバッと立ち上がった。
「あのな」
「戦争が終わって平和になったのは今から100以上前のことだお前らも知っているな知らないとは言わせないぞほんで人の心は不思議なもので平和な世の中が続けば続くほどそのぶん創作には過激で愚直でバイオレンスな流血沙汰が求められるわけでその需要を満たすために俺のような冒険小説家がいるんだ俺以外の作家も同じことが言える」
(息継ぎ)
「創作に必要なものは1にも2にもリアリティーだ知っていることを書き知らないことは書かず分からないことがあったら肌で感じて勉強するんだそうしなければ作品に流れる血は止まり息も止まり人の心を1ミリも動かすこともかなわない駄作に成り下がってしまうそうなってしまえば作家は終わりだ」
(息継ぎ&アリョーナとトローカに指さし)
「思えば俺たちは平和に慣らされすぎた!
今では身を焼くような大爆発の経験などするすべもない!
だが書かなくてはいけないしかし体験がない!
だったらどうする体験せずに書くか!?
愚策おおいに愚策!読者に対するこれ以上ない背信行為だ!!
だからこそ爆発させるそうやって体験を俺たちが起こすんだ!
そうでなければたとえ売れても小説を書く意味など!!」
「よーしよしよし、せんせー、そこまで」
トローカが突然ソユーズの顎をなではじめた。
すると先ほどまで熱弁をふるっていたソユーズが嘘のように、
「や、やめろトローカ、そこはやめろ……」
骨抜きになってしまった。
「せんせーは『あご』が弱点なんだよ!」トローカは嬉しそうに言う。
「野生動物ですか……」
「それで、わたしがばくはつにひつよーなレシピをしらべたの!
トローカはせんせーの『助手』だから!」
「助手ですか。誘拐されたんじゃなかったんですね」
「誰が誘拐犯だ」
アリョーナが同調していると、
今度はトローカが立ち上がった。
「やーたいへんだったよ!まず学校ブロックの図書館に行って『古代魔術全集とその原理』っていう本を読んで!こんかいはその本にあった魔術素粒子圧縮原理をおうようしたんだ!これによって体積が10分の1に急速圧縮されたエンバルザックをよういして!それをさらに10分の1にして超圧縮という状態にすることで」
「あ、わかりました、もういいです。
めっっっっちゃよくわかりました」
「えーここからが面白いのに!」
「俺には全く理解できん。というかお前は早口でまくし立てるのをやめろといつも言ってるだろう」
「せんせーにだけはいわれたくないよーだ」
アリョーナはニコニコしつつ、
この作家にしてこの助手ありだと思った。
その時。
ふと風向きが変わった。
今までソユーズたちの方に吹いていた風が、まったく逆の方向に吹き始めた。
「よし、計算ピッタリだ。
さすがだなトローカ」
「えへへー」
「……トローカちゃんは何者なんです?」
「優秀なる『助手』だよ」
ソユーズはふたたび立ち上がり、
例のエンバルザックのびんを取り出した。
次にもう一個空の小ビンを出し、半分を移し替えた。
「あとは、これは遠くに置いて、
ふたを開けたまま1分待つ。そうすれば……」
「空気中の酸素とエンバルザックの反応で、溶液が100℃になって、どかーん!!だね!」
「“どかーん”かどうかは見て決めるがな」
ソユーズは数十メートル先に小瓶を置き、ふたを開ける。
そのままダダダダダッと戻ってきた。めちゃくちゃなフォームで。
「先生、焦りすぎです」
「何言ってるか全然わかんねえ。いいから隠れとけ」
10秒、20秒、40秒。
3人は息を殺し、岩陰から小ビンを見守る。
50秒。
ここでエンバルザックが一層強く輝き始めた。昼間でもよく分かる。
光は1秒ごとにどんどん大きくなる。
55、56、57、58、59――
光はついに最大限に達し――。
60、ついに臨界を迎えた。
――プスンッ。
小さめの煙が出て、魔剤は蒸発した。
「「「……………………」」」
長すぎる沈黙の後、
「……成功ですか?」
アリョーナが沈黙を破った。
そこで堰は完全に切れた。
「成功、ふむ成功か。
アリョーナ改め場末編集(ばすえへんしゅう)、お前は今までの会話の流れから、本当にあれを成功だと思うのか。本当か。うんやはりクビだ。お前のようなカラス目は編集なんかよりイノシシ狩りの方がよっぽど向いている」
「いえ、分かりませんよ。
もしかしたら爆発というのは突きつめればああなるのかも!」
「突きつめた爆発があれなら俺はもう小説家やめてやるよ」
「なんでそうなるんですか!?」
またケンカを始める二人。
それをしり目にトローカは、
「はぁー……こっちだったかー……」
と肩を落とした。
「こっち?トローカちゃん、こうなること予想してたんですか?」
「よそー、というか、かのーせいとして考えてたんだー。
エンバルザックの爆発反応は温度依存性でね。
かんたんに言えば、100度じゃ温度が低すぎるかもって」
「じゃあ何度ぐらいなら爆発を?」
「10000度とか」
「いち……」
「まん……」
今度は二人が協力した。
「10000度ってお前……あそこに浮かんでるのだって表面6000度だぞ?」
ソユーズはいわゆる“太陽”を指さす。
「プラス4000。急ごしらえじゃ不可能だ」
「ううーごめんなさい……」
「い、いえ、トローカちゃんのせいではありません。
もともと爆発を起こすという実験が非現実的だったんです!」
「あ、俺に罪着せるつもりだなお前」
「そもそも、もとはといえば先生がですね!」
「あー聞こえない聞こえない。
今の爆発で鼓膜破れたから。うわこれ爆発のせいだわー」
「爆発してないんですって!」
「ふぇぇやっぱりしっぱいだぁー!」
「ま、まだ半分残ってますから!
やり直せますよ!」
「いや大失敗だろこれ」
「ほらぁー!」
「先生は静かに!」
ソユーズはわめく。
トローカは泣く。
アリョーナはあやしつつツッコむ。
3人すっかりてんやわんやになってしまった。
アリョーナは頭を働かせて、打開策を考えていた。
1つ、思いついた方法がある。10000度という言葉を聞いてから構想していた策が。
「……一つ、方法があるんですが」
アリョーナはついに進言した。
ソユーズはもうあきらめムードで、
「……何?」
「私が、なんとかできるかも」
アリョーナは両方の手のひらをだし、意識を集中する。
すると、緑のオーラが手を包み始めた。
「うお……」「わー!」二人が声を上げる。
「ごぞんじの通り、私は元分隊長。
軍では一人だけの『動態魔術』の使い手でした」
「動態……」
ソユーズは目を見開く。
「どーたい……エネルギーのこと?」
「ああ。熱を光に、光を音に、音を熱に変換する魔術だ。歴史書じゃ遠い昔に滅んだと書いていたが」
「ええ、私も純粋な末裔ではありません。
ですから使いこなせる範囲は限られていますが……。
私は、『すべて』のエネルギーを、熱に変えることができます。
カイザードラゴンも、その応用で討伐したんです」
この時。
ソユーズはやや動揺し、
トローカは大きく動揺した。
アリョーナは続ける。
「私の考えはこうです。
光、風、分子の運動。
この場にあるもののエネルギーを、熱に変換する。
それを一気にエンバルザックへ投射すれば……」
「うん!うん!」
トローカは大いに賛成する。
「それなら、10000度にできるかも!」
「だがよぉ」
ソユーズはなおも反論する。
「お前は退役したんだろう、秘術ってやつの魔力消費で。まだ力が残ってるのか?」
アリョーナは首を振った。
「分かりません」
そのあとで、ソユーズをまっすぐ見つめた。
「でも、賭けたいんです。
魔術師として……編集者として」
アリョーナとトローカは、ソユーズをまじまじと見つめた。
すさまじい熱視線。もはや脅迫ともとれる。
しばらく考えていたソユーズだが、ついに根負けして、
「…………わかった」
ついに折れた。
「アリョーナ、お前に託そう」
「ありがとうございます!
ようやく任せてくれましたね!」
「勘違いするな、不本意だ」
「それでもいいです!」
アリョーナは立ち上がり、
先ほどと同じようにエンバルザックをセットした。
そして、詠唱を開始した。
「英霊よ、わが声に答えよ。
『不動なる原子の因果』によって、我らが渇望を癒せ」
ソユーズとトローカはまじまじと見つめている。
「すごいね、えーしょうなんてはじめて見た!」
「メモっとこ」
やがて、アリョーナの手を包んでいたオーラが、
エンバルザックの方へと動きはじめた。
少しずつ距離を詰め、やがてたどり着く。
すると、異変はさらに顕著になる。
音が止み、風が止まり、ビンは完全にオーラに包まれた。オーラはぐんぐんと肥大し、直径5メートル程度にまでなった。
「二人とも」
アリョーナが口火を切る。
「岩陰に隠れて。衝撃に備えてください。
今、ビン周囲の音と光、運動エネルギーを熱に変えました。
あとはこれを一気に魔剤に移し替えれば……来ます」
「でも、アリョーナさんはどうするの?」
トローカが顔を上げ、不安な顔できいた。
アリョーナはにこりと答える。
「今私が近づいたら、お二人が魔力の流れ弾を受けてしまいます。
私は爆発と同時にそちらへ飛び込みますよ」
「でも……」
「大丈夫、こういうのは私の仕事です!」
アリョーナは気丈に微笑む。
トローカは不承ながらも、ふたたび顔を伏せた。
ソユーズは、何も言わず、アリョーナを見ていた。
「さあ、先生も、伏せて!」
「……いや、俺は爆発を見る」
「吹っ飛ばされるかもしれませんよ?」
「見ると言ったら見る。見てから伏せる」
「間に合うんですか?」
「俺を説得できると思うのか?アリョーナ」
「……そうですね、では、遠慮なく」
アリョーナはビンの方へ向き直り、
最後の詠唱を行った。
「……動態魔術、クロードアーツ!!」
すると、オーラはビンに吸い込まれるように小さくなった。
そして、エンバルザックの輝きが最高潮に達し。
ビンが、粉々に砕け散った。
その瞬間、ソユーズはアリョーナに飛びかかり、袖をがっしり掴んだ。
「きゃっ!?」
「来い!!」
ソユーズは詠唱終了と同時にアリョーナを岩陰に引っ張りこんだ。
二人が倒れるのと同時に、エンバルザックは轟音を上げて爆ぜた。
爆発は、辺りの地面をねこそぎ削り飛ばした。
その音は何百もの砲弾にも勝り、巨大竜の咆哮を思わせる衝撃だ。3人とも耳をふさいでいたが、それでも鼓膜がガンガンと打ち鳴らされる。
風は透明な壁となって爆走し、岩を砕き、草を散らし、遠くの森さえ揺らした。
ソユーズは他の二人を抱きしめて、その衝撃から守っていた。
――それからかなりの時間があって、衝撃は去った。
エンバルザックはもう跡形もなくなり、かつて草原だった爆心地は、巨大隕石のクレーター同然になっていた。
風はまだ強いが、もう許容できる。
アリョーナは目をひらき、あたりの様子を見た。
トローカはまだ耳をふさいでいる。
そしてソユーズは、とっくに立ち上がり、爆心地の方角を眺めていた。
嬉しさと恐ろしさ、衝撃を一緒くたにしたような顔をしていた。それはまさに、野望と好奇心に満ち溢れた夢想家の顔だ。
アリョーナは、ずっとそれを見つめていた。
懐かしいような感じがした。
かつてドラゴンを倒したときの自分の顔と、よく似ている気がした――。
やがて、ソユーズはアリョーナに向き直った。
「誰が、魔力が足りないって?」
「あ……いや、正直かなり衰えたんですよ。
今回はエンバルザックが多かったから成功しただけです」
「ああ、そう」
「ひえー……すごい……」
トローカがようやく起き上がる。
「アリョーナさん、これでまだよわい方なの?」
と、引きつつも嬉しそうな反応をした。
3人は岩陰から出て、改めて惨状を確認する。
しばらく絶句していたが、やがてソユーズが言った。
「よし、成功だ。二人とも今の感じを忘れるな。
一時間後、中央通りの酒場で打ち合わせだ」
「わーーい!お食事会だ!」
「打ち合わせだ」
トローカは嬉々として走っていく。
アリョーナがじっとしていると、
「何をしているアリョーナ、早く来い」
「え、私も行っていいんですか」
「当たり前だろう、編集なんだから」
「…………」
やがてアリョーナの顔に満面の笑みが浮かび、
「はい!」
と元気に答えた。
――――――――――――――――――
夜、商店街の人気酒場はにぎわいの限りを尽くしていた。
例のドラゴン騒動の緊迫から解き放たれたからだろう。
広場は明るく彩られ、人の笑い声と木グラスの音、注文をさばく店員の豪声で満ち満ちている。
さて、中央やや右の大きなテーブルはソユーズたちの領域だ。酒場じゅうに暗黙の了解ができている。
その理由は、一目瞭然であった。
「はーーーむっ!んーおいしい!」
トローカが5皿目のステーキを平らげた。これで1kgだ。
「トローカちゃん、そんなに食べて大丈夫ですか?」
「んー?まだぜんぜんだよ?」
そう言って、トローカはテーブルの皿たちを指さす。
緑黄色のサラダ、塩のきいた具だくさん芋スープ、一面のレタスに乗せられたローストビーフ、クラッカーとチーズ、イチゴパフェ。
「……これ全部トローカのなんだよな」
ソユーズはそう言って、神妙な顔で葡萄酒を飲んだ。
「食費の8割はこの食いしん坊娘に持ってかれるんだ」
「胃が破裂しませんか?」
「だいじょーぶ!そういうときは十二指腸で逆蠕動がおきて括約筋反射でぜんぶでるから!」
「ダメですよ吐いちゃ」
「いや問題ない。トローカは食物繊維も吸収できるからな」
「えー食物繊維は腸内分泌液じゃ消化できないよ!」
アリョーナは目の前の高次元会話に目を回しつつ、
メモ帳に書いた文字たちを眺めた。
『ドボゴゴゴゴゴゴ byソユーズ』
『ズバババババーン byアリョーナ』
『ババババギョーン byトローカ』
なんか呪詛にしか見えないが、一人ひとつずつ持ち寄った擬音の案だ。
しばらく話し合ったが結局決まらず、トローカは暴食をはじめ、ソユーズは酒に逃げ、アリョーナは頭を抱えていた。
「うぅーん」
アリョーナはペンを持つ。
「とりあえずドボゴゴはナシとして……」
「おい待て、なんでだよ」
「一番ないからです。もっと颯爽としてたと思います」
「むしろあの爆発のどこに『バ』の要素があった?
どう考えても『ボゴ』だろ。地面えぐれてるんだから」
「『ドボゴゴ』だとヨボヨボのドラゴンが腹パンされてるみたいじゃないですか」
「ヨボヨボのドラゴンに腹パンすんなよ、かわいそうだろ」
「そういうことを言ってるんじゃないです!」
二人が言い争っていると、
「あ」
と、トローカが7枚目のステーキを食べつつ言った。
「じゃあさ!ぜんぶミックスしちゃうはどうかな?」
二人はこれを微妙な顔で聞いていた。
「ミックス……ですか?」
アリョーナはやや引け腰だ。
しかしソユーズは、
「……ありかもしれん」
と、メモ帳に1行書き加えた。
『ドボゴズババババギョーン』
「「「…………」」」
5秒程度の沈黙があって、ソユーズが切り出した。
「トローカ、発音」
「え……どぼごずばばびゃばぼーん」
「言えてねえ」
「いや無理ですよいきなり。
先生は言えるんですか」
「当たり前だ。どぼぎょ……どぼぼ……」
「序盤でアウトじゃないですか」
「お前は言えるのか」
「言えますよ。どぼびょ」
「いえてないね」
「しかしだ」
ソユーズは立ち上がる(酒2杯目)。
「言えないということは、それだけ目新しいオノマトペってことだ。あの爆発のハチャメチャ感を再現するために文字をハチャメチャにする。いい発想だ」
「でしょ!」トローカがニッコリする。
「それに、あの爆発を見たのは俺たち3人だけ。そうだな?」
「そうですが……」
「だったら、3人の意匠を全部入れたっていい。『デーモンロード』は一人だけで書いてるわけじゃないのだから」
「……なるほど」
アリョーナは感化されやすいタイプだ。
ソユーズの自信満々な目力と言い分で、
「では、これでいきましょう!」
と、メモ帳の1ページを切り取った。
「……じゃせんせー、アリョーナさん、これで……」
「ああ、完成だ」
「やったー!!」
トローカは料理りを小皿に分けて二人に差し出した。尋常でない量だ。
「お祝い会だよ!ふたりも食べよ!」
アリョーナは温和に微笑み、
「ではお言葉に甘えて……」
食指を運ぶ。
しかしソユーズの方はまったく取らない。
「俺はいい。もう入らねえ」
「そんなS字結腸の小さなこといわないでー」
「うるせえ、食わねえっての」
「えー……」
トローカが目をウルウルさせる。
偏屈作家は大きくため息をつき、
「……わかったよ」
「はい、あーん!」
トローカにステーキを食べさせられている「先生」。
アリョーナはそれを見て、
(……案外優しいのかもしれない、この人)
漠然とそう思った。
(注)この異世界小説家たちはフィクションです。 @rie_greenberet
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