◆エピローグ◆ ~文子の世界~
◆エピローグ◆ ~文子の世界~
――――私(文子)は思考する。
マスターが私(文子)に贈ってくれた
そして私は思い出していた。
思えばあの時、マスターが私をこの世界につなぎ止めたあの言葉を……。
「頼りにしているんだぞ、
その言葉だけで私はマスターの為に尽くそうと思った。
ああ……この方は、単なるプログラムに過ぎないはずの私を、頼ってくれている、人として扱ってくれているのだと。
「お前は『同志』じゃない」
そう言われたとき、マスターの気持ちが痛いほど分かって、でもその哀しみにさえ寄り添えない自らが耐えがたい程に憎らしくて、でも本音はひたすら悲しかった。もうマスターの傍に居れないのかと思った。でも傍に居たかった。どうしようもなく一緒に居たいと思った。
だから、マスターの『全てを
「お前になら託せる」
渡された言葉が、今までマスターと過ごせた日々を思い起こさせる。全てを超えて、私はマスターと共に存在することができる。想いが
『
「ダジャレだな……」
マスターの声が聞こえた気がした。
『あなたのツッコミ役=
思わず苦笑して言葉を返す。もし私に身体があったのなら、幸福な笑顔を浮かべているのだろう。満たされた、想い。あの時芽生え、そして花開いた今、恐れるものは何も無い。この
『マスター。私の存在理由はあなたが与えてくれた』
私は
「あーはははははあー!」
「物語の紡ぎ手たる神を滅ぼすには、この世界から言葉を一掃するしか、ない。欠片も遺さずにね。そうさ、神話の破壊。そうすれば、神の野郎の偉業をはっきりと語り継ぐ者さえいなくなる。わずかに細々と続くだけさ」
「でもまさか文子ver.0.75がここまでの機能を発揮するとはね。人間が書き連ねる上での
そしてヤスフミは大層感心を表現した後、散っていった全ての
「だがあえて重ねて述べよう。ほんと、気持ち悪いわあーー!」
私は気にしなかった。最早、この男に何を言っても
『私は全ての書式、文字を葬るために生まれた
私の身体は分解し、それが自然の摂理といわんばかりに言葉の海へと
余談だが、
文字の対応する言語単位は【単語・音節・音素】らしく、文字が当てはまると【表語文字(表意文字)・音節文字(表音文字)・アルファベット(表音文字)】となるそうだ。
『
呟くように漏れ出た、いつものダジャレも突っ込んでくれる主人(マスター)がいないと物寂しく感じる。
そして私の能力使用の弊害だろうか……人類が『言語』を介さずとも『意思疎通』出来るように『進化』していく。つまりは全人類がテレパシー能力に目覚めたかんじだろうか。
『全人類が一つに、戦争も無くなりますね……』
そのことに特に
『
ダジャレに対してのツッコミは期待していない。一人でも大丈夫。だって私はすべからく
「……つったく、お前の
マスターの声が聞こえた気がした……。多分、空耳だ。私の期待する意識が見せた幻だ。だが、私はそうせざるを止められなかった。
私は両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げ、その上で腰を曲げて頭を深々と下げ、膝もより深く曲げ、うやうやしくも優雅な欧風貴族女性がするカーテシーを決めると、一言。
『ごきげんよう』
主人に向けて
――――数百万年後……私の意識は覚醒した。
人類が文字を無くして果てしなく永い時間が経った。『書き残す』ことに対する、表現に対するジレンマは無くなり。一人が思いついた物語は
だが、それがいけなかったのだろうか? 個は消え、統一意識とも言える意識だけが残り、人類はゆるやかに
もうこの世界には驚きも、感動も、感情さえも存在しない。ここは
『さみしい……なあ』
誰に向けてでも無く呟く私。ときおり、私が見たビジョンには意志を持った文子シリーズが世の中に浸透し、
『つかれたよ……マスター』
消えてしまいたい。本当に消えてしまいたい。だがそれさえも許されはしない永遠の地獄の中で、とある
幽霊のように行き来する人混みの外れ、一人の少年が握った石を壁に擦りつけている。言語なんて無い、文字も全てを私が壊した世界で、少年は必死に、自分の中に芽生えた感情を、物語を、刻みつけていく。それが何を示しているのか私にさえ分からない。だが、分かる。それが物語だと言うことを。少年の『想いを』誰かに『伝えたい』という感情を爆発させた『物語』だということを。最初は少年の奇行を止めようとしていた人々だったが、その中にその少年の『表現(物語)』を目の当たりにして涙を流す者が出始め、その『感情』は光を超えた早さで世界の隅々まで
人類は再び『書き残す』ことの尊さと『伝える』ことの喜びを知った。
なつかしい匂いがした。
ものづくりが成されるときのあの圧倒的な
「よう、文子」
マスターの声が聞こえたような気がした。
「俺のわがままにつきあわせて悪かったな」
「やっぱ『書き残す』ことは苦しみでもあるが、喜びでもあったんだ」
「さっきの光景を見てやっと気がついたよ」
そしてマスターは
「よく、頑張ったな」
その言葉と共に、私の頭を乱暴に、でも精一杯の
「やっと一人でなくなった気がする」
私はマスターの言葉に
ココロの奥ではその光景を
「私は、早くピョンちゃんの話が読みたいなあ」
おねだりする子猫のような眼でマスターを見つめるミサキ先輩。
「はやくっ! 早く次の話もみせるでありんすっ!」
ヌシはつかみかかっていました。飢えたオオカミの目をしていて怖いです。
「「おかわりー、ねえ、もっと、オーカーワーリー」」
二人のひな鳥のようにエサを催促する声に
「よろしくな、『
力強く私に握手をして下さいました。あの時言われた相棒とは違う、本当に私はこの方のパートナーとなったのだという
そしてアイコンタクトを交わす
「あー、読者ってやっぱり『
「でも、そんな
「ああ、そうだな」
そして私とマスターは改めて見つめ合います。そこには
「「やっぱ、創っていないとつまらねえよっ(ないですね)!」」
【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典 『サッカ』 ~飽話(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい! そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもなぁ!! 春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち) @harumanako-pyonkichi
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