【第21話】王者兼道の見る世界 帰ってきた文子《姦(かしま)しき創作現場の中で》(※神を喰らった王者兼道視点)

「ねええーん、もっとおおー」

「はいはい、ただいま」

 それからの日々は苦労の連続だった。

 ヌシと融合した先輩との共同生活・・・・。俺はという名の創作者・・・として、彼女……もはや融合して読者・・という名の暴食者・・・となりはてた者を必死にやしなっていた。

「ピョンちゃん、オカワリ、もっとでありんす」

 騒々しい読者の求めるままに俺は物語を創り続ける。独りで。だが、彼女の食欲じみた読欲は当然止まることを知らない。

「文子やミツバチの奴が傍に居れば、もう少しマシなんだけど……」

「それは、だあーめっ。だってこの世界には私とピョンちゃん以外必要ないでありんすから」

 あれほどうるさかった文子やミツバチの声ももう聞こえない。聞こえるのは物語を求める読者の要求のみ。

 そう、この世界には俺と先輩(+ヌシ)の二人きり。今更その事実が果てしない恐怖・・となって俺自身にのしかかってくる。誰にも頼れないという事実・・。神が人間の魂を利用するシステムを作り上げ、配下のサッカ達に作業を振ったのは上手うわてだったとさえ思えてくる。

 そして、あれほど憎んだそのシステムを上手と思って来ている自分に危機感を覚える。なんでこんなに苦しいんだろう。託された事一つ満足に消化できない自分。無力感にうちひしがれる。

 ここには何でもありそうで何も無い。

 ここには永遠があるが、それはすなわち停止・・していることを表わす。

 底には、……いけない、間違えた。いやそうか……か……はははははっ。

 思わずわらってしまう。ここは楽園。停滞という名の楽園・・。二人だけの世界。でも温度が無い。……感情・・が、ない。


「もう、どうしようもなかったんだよっ!」

 誰に向けてでもなく、思わず叫んでいた。

「創るの、もう、つらいんだよお、創りたくないよお」

 泣き言だ。これは泣き言なんだ。

「あら、神様・・、弱音ですか? 読者は私だけだというのに」

 大切な人一人満足させられない、哀れな神の独り言なんだ。そう、孤独・・

「もう、疲れた……」

 思わず漏れた弱々しい呟き。


 そんな時、懐かしい罵倒が俺の心を揺り動かした。かつての、そしてこれからパートナーになるかもしれない彼女の懐かしい罵詈雑言・・・・



『何ですか! その茶番・・は!』


 響く文子の大絶叫もとい全力・・口頭こうとうツッコミ。

「まさかお前に突っ込まれるとはな……」

高等こうとうツッコミと言って下さい』

「人の心を読むな」

『精神体ですから』

「……私とピョンちゃんの世界を邪魔・・しないでっ!」

 先輩が怒っている。ひさしぶりに見た、その感情むき出しの声にやらなすぎて方法さえ忘れていた感情の表わし方を思い出し、やっと『笑う』コトが出来た。

「はははっ、俺は疲れていたんだっ。創ることにれていたんだっ。でもやめることは許されない。なら、文子、『俺』を『引き継いで』くれないか? 『同志・・』をえた関係になったお前になら託せる」

「やめてええええーーーーーー!」

 そして、俺は俺を止めようとヒステリックに叫ぶ先輩を余所よそに俺の全てを凝縮したかたまりを……『かんむり』を被せた。

「また言っちまうけど、『ごめんな』」

 全部文子に押しつけてしまう罪悪感、だけではない。ヨシナリの想い、サッカのみんなの想い、俺は託されたモノを少しも消化できないまま文子に丸投げしようとしている。でも、言葉を受け止めて、顔を上げた文子は驚くほど慈愛・・に満ちていて、言葉は必要なかった。そのまま俺の意識は文子へと引き継がれていった。

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