【第20話】王者兼道の見る世界 果てしなき死出の旅への誘(いざな)い《この世で唯一の創作者》(※神を喰らった王者兼道視点)

「じゃあ、早速、所望しょもうするでありんす」

間髪かんぱつねえなあ、オイ」

「待った無し、で、ありんすよ。わっちは空腹くうふくなんし」

 ヌシが気だるい視線を俺に送る。啖呵・・を切ったはいいが、早速さっそく後悔・・する俺。

「スキ有りだよ!」

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、ヌシに喰らいつく先輩。

「何のつもりでありんす?」

 さっきの飄々ひょうひょうとした態度から一変、眼光鋭くにらめ付けるヌシに先輩は渾身こんしんの想いをぶつけた。

「やっと、やっとこの時が来た! やっとおじい様のを取れる」

 万感の想いでこの時を待っていたであろう先輩はヌシに言葉を浴びせかける。

「私はもう、負けない。あの時みたいにあなたに怯えたりしない。覚悟・・があるから」

 途端、ヌシの身体は光彩を欠き、ぼやけた輪郭りんかくは薄まり存在を消していく。対して先輩の身体は生き生きと光り輝くオーラに包まれていく。そして先輩は菩薩様ぼさつさまのような神々しさで俺に救済・・を与えてくれた。

「そして、ピョンちゃんを救うこともできる。もう、苦しまなくていいんだよ。私が、私がいるから。私だけが、ピョンちゃんの読者・・になってあげる……がっ」

 涙が止まらなかった。だが現実は残酷ざんこくだ。圧倒あっとういう間に先輩の意志はヌシに塗り替えられる。 そして、超然とした『読者・・』がそこに居た。


作者・・とは同時・・読者・・でありんす』

主様ぬしさま(神様)は読欲どくよくなどありんせんした』

『それに引き替え』と哀れみを込めた嘲笑ちょうしょうを交えてヌシはべんらべんらしゃべる。

人間・・で有る限り、読欲どくよくには抗えないでありんす』

『作者として読者におびえ、でも読者を辞められない『人間・・』』

『まことに『滑稽こっけい』でありんすなああーーーー!』

『まあ、僕には『黄金律おーごんりつ』があったからねえ。読みたいと思う必要などひとかけらもなかった。ただ創るだけで良かったのさっ。ただまあ、つまんない『作業・・』の連続だったけどね』

 高笑いするヌシに、すでに取り込んだはずののヤロウが無神経な合いの手を返す。俺は拳をにぎりめた。怒りが、悲しさが収まらない。ここまで侮辱されるなんて。……先輩を、人間を、俺自身の覚悟・・の無さを。だから、先輩は、ちくしょう。

「ああああーーーーー!」

 訳の分かんねえまま、俺はヌシに殴りかかっていた。ってか、さいきんこんなんばっか。バカだ。

「ぐっ、落ち着きな。ピョンちゃん」

「今、この身体はこの女半分、私が半分。でもさあ、この女と一つになって、どうしようも無く分かっちゃったのさ。祖父そふ仇討かたきうち? あなたを救う為? ちゃんちゃらおかしい。ほんとーにサイテーなんだよ私は。『読者・・』に堕ちたかった。いや、カッコつけすぎだな、ただただ、逃げたかったのさ。ほんとうにそれだけだったんだよ。ヨシナリさんが言うような崇高すうこうな目的をあなたに託したつもりもなかったしね。ほんと最低・・だよ」

「もう、なにも言わないで下さい」

 俺はくちびるみしめてかろうじて答えるのが精一杯。

「辛くて、苦しくて、読者に逃げちゃった。『君だけの読者』と言えば聞こえはいいけどね。……あれほど君に『書くことから、逃げるな』と言ったのにねえ、情けない限りさ」

 弱々しく呟いた先輩は、申し訳なさそうに俺を見据えた。あとは、もう、言葉は要らなかった。

『じゃあ、改めてよろしくでありんす』


 切り替わったヌシの意志・・が、俺を果てしなき死出しでの旅へといざなった。

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