第48話 諫言
木の幹に背を凭れさせながらアヤメはスッと周囲に目を配った。
下野は部下に紫苑のあとを追わせていた。
そして、こちらの人員が紫苑以外にさらに一人いなくなったことにも気がついているようだが、今の時点で何も言ってこないのは、その程度の認識なんだろう。
同じように木陰に佇む立浪に話しかける。
「…この感じ、なんだと思う。手柄を独り占めされることを危ぶんでるのかな」
漠然とした投げ掛けに、立浪は肩を竦めて応じる。
「わからん。が、その割には進みが遅いのが妙だ」
「飛竜探しの精鋭部隊…って感じには見えないよね」
「俺にはただのゴロツキに見える」
確かに立浪の言う通り、王立軍が寄越した部隊にしては装備が整っておらず、連携もあまり良くはなかった。
「妙だな。ただ、情報がなさすぎて予想も立てられない」
「杞憂ってこともある」
「まあ、それは」
返事をする声が低い。
周囲に気を張り巡らせていたアヤメは隣に立つ友人にようやく意識をきちんと向けた。
「?」
普段と変わらぬ引き締まった表情、けれどもどこか苛々とした目付きで遠くを見ている。
気まずい雰囲気が漂い、バツの悪さに思わず「悪かった」と口にしていた。
「アヤメ」
「うん…」
「すでに始めてしまったことにあまりとやかく言いたくはないがな、今回は飛竜絡みだ。 事が大きいし、何かあれば王立軍に不要な嫌疑をかけられる。それは最悪俺たちの領地にも関わる」
「…はい」
「お前の勘が良いのはわかってる」
大きく息を吐いて遠くを睨みつけていた目をアヤメにちらりと向けた。
「…これ以上、無茶はするなよ」
少し離れたところから、出発の指示を飛ばす下野の声が聞こえる。
立浪は厳しい視線をアヤメに残し、そのままゆっくり群集の方へ歩いていった。
その有無を言わせぬ声音に、残されたアヤメは立浪の背中に向かって素直に従って頷くしかなかった。
焔の子は花冠と舞う @ikumori_ritsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。焔の子は花冠と舞うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます