マッドサイエンティスト 鶴見テルの偉業録
西東友一
第1話
その日は大雨に落雷まであった。
こんな日は、憂鬱になる・・・。
んなわけねーだろうが!!
「はー、はっはっはっ!!」
この恐怖のマッドサイエンティスト鶴見テルはこんな日こそ、歓び狂うのさっ!
ただ、勘違いしないでほしい。
台風の雨の中、ドアホウのように喜び走る、小学生と一緒にしてもらっては困る。
だいたいそういう奴は後先考えないで突っ走り後悔するドアホウだ。
「ついに・・・ついにできたぞ!!」
俺はさっきまでただの目覚まし時計だった「それ」を高々と持ち上げる。
ズドドドドドーンッ
うん、いいぞ~カミナリ。
タイミングは肝心だ。
まぁ、ネタ晴らしをすると、この天才には光ってから何秒後に音が鳴るかの計算なんて朝飯前。
俺レイベルになると、いつどこにカミナリが落ちてくるかわかるのだ。
決して、「あっ、今なりそうっ。早口で言わなきゃいけないワンワン」なんて考えていないので、そこも勘違いしないように。
あっ、これ。テストに出ます。
ギロッ
俺はどこからか、疑う目をした視線を感じる。
今、テストに出るわけないだろう?と思っただろう、お前。
出るんだよこれが!!
あとな、これって今、「いつどこにカミナリが落ちるか」の方じゃなくて、今俺が持っているこれ の方な。
あの、エジソンが電球を発明した日だって、義務教育で覚える範囲ではないだろうが、このマッドサイエーーーーーンティスツゥの鶴見テルが、今日、2031年1月21日、この日に発明したモノは、時間に由来する発明品であり、今日という日は歴史を変えられる奴だって変えることはできない。神から賜りし・・・いや、この神に匹敵する鶴見テルが愛する人類に授けるギフト・・・。
「そう、これが・・・」
俺はちらっと、外を見る。
ピカッ
「タイムマシーンだ!!!」
ゴロゴロゴローーーーンッ
「さてさて、どうしたものか。ワトンソくん」
俺は最高の助手兼実験台の、人形のワトンソくんに話しかける。
彼は俺の一番の心の支え。彼なしに今の俺はここにはいない。
「サッスガ、テルサマ~。サッスガ、テルサマ~」
いや、ワトンソくんの腕は今俺が動かしているが、ワトンソくんの声も俺が出しているわけではないぞ?
数多の実験の結果、魔術的なことが起こり、俺の腹の中から、声が出ているだけだ。決して、腹話術なんぞでは・・・ないぞ?
「うんうん、くるしゅうない、くるしゅうない。もっといいたまえ」
俺はワトンソくんとダンスを踊る。
おっと、誰かがイタイと言っている気がするぞ?
アイタイ、か?
ふん、自意識過剰とかではないからな、俺は。別に痛いやつなんていわれるはずは当然ないが、言われたところで凹むことはない。
「テル様~、テル様~どこ~」
ガラクタ・・・もとい、レアパーツの奥から助手のアイカが胸を揺らしながらやってきた。
相変わらず、えっちぃ体をしてやがる。
「なんだ、アイカ。お前も我を祝福しに来たのか?」
俺は得意の決めポーズを華麗に決める。
「ちがいますよぉ、急に電気が落ちちゃって困ったから、テル様がまた何かやらかしたんだと思って来たんですよぉ~」
「だぁ~れが、やらかした、だ!?アイカっ!!コイツめ!!」
「あっ、いったぁ~」
俺はスリッパでアイカの頭を叩いてやった。
テレビとアイカを叩くのは斜め45度の角度からに限る。うんうん。
「なに、腕を組んで、納得したように頷いてるんですかぁ~。暴力ですよ、テルさまぁ。暴力反対。私が警察に行けば、テル様イチコロ、牢屋行きですよぉ~」
頭をさすりながら、上目づかいでアイカが泣きながら反抗してくる。
「う・・・っ、どこでそんな言葉を覚えて来たんだ、アイカ・・・」
「この前、テレビでおうちで暴力があったら、連絡しなさいってCMのおねえさんに電話したら、教えてくれたんです」
今度は胸を張って答えるアイカ。相変わらず胸だけは立派だ、胸だけは。
それにしても、テレビなんて子どもに悪影響しかないな。今度から、アイカが「テル様、テレビが壊れたぁ。直してくださ~い」と言っても、伝説の手刀「復活の45度」をお見舞いするのはやめておこう。
「あっ、その顔は全然反省していないですね。テル様?じゃあ・・・」
スマホを取り出したアイカは電話の画面を出し、1を2回押している。
「ああああっ!!待て待て、早まるなっ!実験と通報は急いてはことを仕損じるというではないか?」
おれは両手を上下に振りながら、落ち着くように諭す。
アイカは頭にクエッションを掲げながら、こちらを見る。
「せいては・・・?意味わからないです。それに困るのは私じゃないですもん。テル様ですもん」
アイカは0のボタンを押す。
「いやいや、虚偽の通報を重ねると、本当に大事な時に助けてもらえなくなるぞ、アイカ!!」
真顔でこちらを見て、あぁ、アイカのやつ、そんなジトーっと見やがって、俺がMに目覚めたら・・・あぁ、やばいやばい、発信ボタンまで押そうとしてやがる。
「なあああっ、わかった、わかった。頼むから指を止めてくれっ!!」
「止めてくれ?」
「あぁ、止めてください。俺が悪かった・・・です。すいませんでした」
俺は深々と頭を下げる。ここまで来たら、きれいな90度でお辞儀するのがプロの所業。
くっ、せっかく世紀の大発明をした大天才、世界の救世主、生きる国宝ならぬ、
「よしよし、よくできました。ちゃんと、謝れて、えらいえらい」
俺が頭を下げたからって頭頂部よりやや後ろをなでているアイカ。
俺は子どもではないというのに、こいつめぇ。俺もお前をえろいえろいって言いながら、なでなでしたろうかっ、その無駄にでかい二つの脂肪と、二つの小梅ちゃんをよお!?
俺は少しだけ顔を上げて、上目づかいでアイカのでかい胸を視姦する。
うっむ、悪くない。
「さ~てっ、茶番とちゃぶ台はひっくり返すものと相場は決まっている。見よ、アイカ。これがタイムマシーンだ」
「・・・?」
アイカめ、現実に直視できんのかまったく、それとも・・・アイカと俺の時間の進み方が違うのか?いや、俺の理論ではすべては時間の呪縛から逃れることはできない。どんな高速に動いたって時間は平等。
おっと、俺は言い間違えたわけではないぞ?
そう、この俺がどれだけ偉大かわからせるため、あえて「すべて」といったのだ。
すべてを超越する男「鶴見テル」と、かの者が創りし、クロノスの神への
はてさて、仮想通貨でも買うか、それとも、競馬?株?いや~、金持ちになる未来しか考えられんな?はっはっは。
「あっ。あーもしかして~、わかってたぁ?タイムカプセル開けるんだって」
「おい・・・アイカよ、誰がタイムカプセルと言った、タイムマスィーンだ、タイム、マッスィーン」
俺は流ちょうな発音でネイティブもびっくりな発音でアイカに教えてやる。
なんたって、タイムマシーンを作るには海外の論文も読まなくてはならないし、他の国の奴らと情報交換もとい情報収集せねばならんからな。
決っえ~~~して、コミュ障で話を一方的に聞くだけとか、卑しい気持ちで自分の情報をあげなかったとか、論文を読むのに、チープな激安翻訳機能を使った結果、中途半端な翻訳のおかげで真理に近づいたとかそんなことないからなっ!?
それに俺は過去を振り返らないニヒルな男、鶴見テルだ。タイムカプセルなんぞ・・・興味がない。今も昔も。確かあの時だって、中身を何も入れていないガチャのカプセルを入れただけに過ぎなかったはずだ。開けたところでなーーーんにも、おもしろくないわ。
「ふん、もし興味があるのであれば、アイカ一人で行けばよい、我は未来を歩む者。そして、過去は振り返るものではなく、過去を変えることのできる唯一の男、人々を導く救世主、その名はああああああ・・・」
ここで、他人に左右されずにゆっくり息を吸う余裕がある・・・これが天さ・・・。
「行こうよ、てるちゃん」
「・・・」
俺の心の中の声を遮りおってからに。そして、なんだ・・・その慈愛に満ちた目は。止めろっ。
「テル・・・様だろ、アイカ」
「そうだったね、てるちゃん」
俺は手に持っているさっきまで目覚まし時計だったタイムマシーンを見つめる。
「なぁ、アイカ。もし・・・過去を変えられるなら何がしたい?どうだ、アイカ。今までの貢献を労い、この天才がなんでも変えてやるぞ?」
「う~ん・・・」
アイカが腕を組んで悩む。
よしよし、かわいいやつめ。
「ねぇ、過去を変えちゃうと・・・記憶とか、その後のこととかどうなっちゃうのかな?てるち・・・テル様?」
「はっはっは。いいところに気が付いたな、アイカ。長年我の傍に無駄にいたわけではなかったようだな。いいか・・・それはだな・・・」
「ごくん」
アイカは飲む。
サイダーを。
「おい、そこは、唾だろう。何普通に炭酸飲んでいるんだ?炭酸とか一番飲んじゃいけないやつだから?どーすんの、俺が大事な話をしようとしている最中に花も恥じらう乙女のお前が、げっぷしたら?」
「へへへっ、花も恥じらうなんて~、そんな~。照れちゃうよ?」
その照れた顔は・・・、まぁ・・・かわいいのは・・・認めよう。天才は時に他者の才も素直に認めるのだ。他者を認められない奴は自信がない無能でしかないわ。
「えっ、そこはテンプレですか?俺もテンプレで『えっ、そこ?』って突っ込まないとならないの?いや、突っ込まないよ、俺」
「ふふふっ」
「なにを笑っておる、アイカ」
「だって、昔の口調になってるんだもん、テルちゃん」
「なっ」
この天才も時々は無能だった時に遡ってしまうことがある。
まぁ、タイムマシーンなんて世界を変える代物を作ったのだから、ちょっとくらい動揺もして、情けない幼児返りみたいなことも起きようぞ。決して、アイカの姿がかわいいと思って取り乱したわけではない。
天才は女になんてなびかない。なぜって?それは、女スパイに情報を取られて全てを失うなーんてのが、一番発明家で情けないからだ。そして、そんな奴は天才ではない。男は女に気を付けないとな、アダムとイブだって、女のイブに知恵の実を渡されて、楽園を追放になったんだ。女自身に自覚がなくても、他の奴に騙された女が唆してくることがあるから要注意だ。
おっと、科学分野以外に、神話にも精通しているところをひけらかしてしまったか?はっはっは。
あと、特に女スパイの要素である巨乳、美人、口説けそうなんてやつは要注意だ。まぁ、アキは例外だが。おっと、フラグじゃないからな?アキは特別だ。まぁ、アキに騙されるような俺ではない。
よくあるのが、発明家はモテない、コミュ障、自慢したがるなんてのが当てはまる。まぁ、科学者の俺には関係ない話だが。
俺のように、己が才を誇示せずとも、にじみ出てしまう天才は、自慢など必要がない。自信もあるしな。
コミュニケーションだって、まるで紳士のような振る舞い、社交場でウィットなジョークで話相手を笑わせることもあれば、相手のレベルに合わせて話を簡単にする。話しが通じないからと言って、手を上げるような原始人ではなく、理知的で温厚。下品なことを考えるやつは・・・まぁ民度が知れるな。
まっ、モテるかモテないかではモテる方だと思うが、発明の神にこの心も体も捧げている敬虔で謙虚な俺は、女にアプローチする暇などないので、まっ、そのなんだ。付き合ったことはないが・・・、まっ、デートに誘っても最高のプランを提供できる。まぁ、天才だからな、暇なときにデートのシミュレーションを脳内で妄・・・イメージしているからなっ。
おっとっと、ゆっくり喋ったつもりだが、聞き取れなかったら申し訳ない。なにせ、天才は一分一秒を惜しむものだ。決して、話し相手が自分の話に飽きてしまうんじゃないかとかの不安によるものではないぞ?
「てるちゃん?」
お客様・・・ではないが、アイカとはいえ、レディーを待たせるのも紳士たるものよくないな。うん、紳士たるもの。
「時を戻そう。それで、過去を変えてしまった場合、どうなるかだが・・・それは我にもわからぬ。おっと、勘違いしないでくれたまえ、アイカ。科学者として確証がないことを言えないということだ。科学者は、嘘はつかない。見栄も張らない。だから言う。やってみないとわからない。まぁ・・・仮説の話をすれば世界の全てが壊れる可能性もあれば、変えてしまったことの程度に応じて世界が変わるか・・・。ターニングポイントに世界は集約されるという理論は、私は嫌いだ、ちなみに。なので、そうだな、くくくっ。アイカが巨万の富を築き、イケメンと付き合う未来だって・・・」
「わたしはそんなのいらないよ?」
「なぬ?」
「わたしは、いらないのであります」
アイカはニコニコしながら、敬礼をしている。
「何を言ってるのだ?お前は?こんな、ガスも電気も・・・ごほんっ。日本政府の策略によってライフラインを止められることが多々ある生活、出るか出ないかわからない給料。それに・・・なんだ、こんなむさくるしい男、暴力・・・とは言わんが、調教をしようとする最低男しかおらぬではないか・・・。それこそ、花も恥じらう女が、だ。こんな状況にいては・・・ならぬ」
「えー、いじめられていたときの方が辛いもん。今のが全然平気だよ~。でも、まぁお風呂に入れないときは変なにおいがしないか気になるけど・・・ね?」
ふんっ、ぐさっと来てなどおらぬ。俺は別に・・・。アイカの言葉で一喜一憂することもない。「今が幸せ」と、言ってほしかったなんて思ってなんておらぬ。
こいつはこういうやつなのだ。俺が労ってしまった時こそ、そっけないのだ。
交換日記が流行って、アイカがどうーーーーしてもやりたいというから、俺も仕方なく、本当に仕方なく付き合ってやったのだが、途中でこいつ無くしやがった。それも、今回みたいに俺がアイカのことを珍しく思いやって、自信持てよ、お前は魅力的だーみたいなことを間接的に書いた直後無くしたなんて言いやがるから、さすがの俺も腹が立った。
それにこいつ、よく消しゴムとか無くすからかわいいのを買って渡したりしてやったのだが、良いやつを買ってやった時こそ無くしやがる。今更だが請求してやろうか?こんちきしょー。金がなければそうだな、体で払ってもらおうか。ぐへへへへっ。
おっと、勘違いするなよ?科学者として実験台になってもらうという意味だ。変な誤解をしたやつは気を付けろよ?マッドサイエンティストも人権擁護にはうるさいんだ。
まぁ、他人のふり見て我降り直せだな、ジェントルマンはレディーはもちろん、同士の悪口は言わないものだ。
さてさて、俺が自分の世界に入っている間にアイカが心配した顔でウルウルしてやがる。なんだ、その目は?匂いが気にならないと言ってほしい魂胆が見え見えだぞ、アイカ。はっきり言ってやろうか。
「気になるぞ、アイカ。ぷ~んぷんしてる」
「ふぇっ!?うぅ・・・ひどいよ。てるちゃん・・・」
「冗談だ、気にするな」
「気になるよぉ~」
アイカは自分の体をくんくん嗅ぐ。
「安心しろ、確かに匂うがくんか、くんかだ」
「くんか、くんか?」
ふん、鈍いやつめ。そうだ、俺は知的なコミュニケーションが高い男。アイカのわかるように言ってやるか。
「気にはなるが、臭いという意味ではない。どちらかと言えば・・・こう・・・香しい感じだ」
「なんか、その表現やだ~」
アイカの奴もワガママになったものだ。ワガママなのはそのボディーだけにしておいてほしいわ。
「冗談はさておき・・・なんなら、そのいじめられた過去を変えてもよいのだぞ?今の貴様でもいじめられた過去を変えるくらいたやすかろう」
「うーん、それも変えない。というか匂いの方は結局どっちが冗談なのかの方が重大であります」
なんだ、今日はやけに頑固ではないか。やはり、今日のアイカは年上になったからと言って調子に乗っているな。
「だって、そうしないと私の王子様が助けに来た日が来なくなるもん」
思考停止になる。
(・・・オウジ?なんだ?オヤジの間違えか?)
「・・・何を言っているんだ?」
「てへへっ。だって、てるちゃんが手を伸ばして助けてくれたあの日、私はお話のお姫様になれたんだもん。あんな経験できるのはシンデレラか、私くらいだと思ってるもん」
苦々しい過去が蘇る。あぁ、まったく・・・俺が無力だったがゆえの、苦々しい日々だ。今の天才の俺でないがゆえの・・・な。
「ふん、大雨警報で親の迎えを待たなければならない中、大雨の中に飛び出して風邪を引かせる王子がどこにいる」
「でも、私は楽しかったなぁ」
確かに笑い合った俺たち。だが、あの後の寝込んだアイカが苦しくしながらも気にしないでと笑った顔を俺は一生忘れん。
「そ・・・れにだな、王子とはみんなから愛される奴のことを言う、だれが陰キャの王子なんているんだ」
「そんなことないよ、私の王子様は人の痛みが分かって、なんだかんだその後も私のことを気にかけてくれて・・・へへっ、ボッチだったけど。でも私って、意外と嫉妬深いんだぁ。だから、てるちゃんがお金持ちになって、モテモテになったらそっちの方が悲しいかなぁ」
「そうっ!王子は金持ちだ」
俺はビシッとアイカに指を差す。良い子ではないマッドサイエンティストだから人に指を差すが、良い子と大きなお友達も真似しちゃだめだぞ?
「別に私はお金求めてないもん、それよりも夢を見せてくれるほうが楽しい」
俺は無力ではない。無敵だ。本気を出せば、世界のルールをも自在にできる男。なのに、なぜアイカは俺に叶えさせてくれないのだ。こんな、お先真っ暗な人生さっさとおさらばしたいだろうが。
俺はタイムマシーンをもう一度見る。
「でもね、てるちゃん」
「なんだ?」
「私は使わないけど、てるちゃんは使ってね?」
「なぜだ?」
アイカはにこっと笑う。
「だって、それを作るのが夢だったんでしょ?それに私はてるちゃんのやりたいことを邪魔したくないのです。てるちゃんと一緒に夢を見るのが私の好きなことだもん」
いつからだろうか。
俺がアイカの傍にいてやらないと、と思っていた日々が、いつの間にか、俺の傍にアイカがいてもらわないと、となった日は。
マッドサイエンティストと助手という茶番に付き合ってくれる女なんてアイカくらいしかいないだろう。
というか、俺の傍にいてくれる女・・・いや、俺の傍にいてほしい・・・女性は・・・。
「ふふふっ、ふはっはっはっは」
俺は面白くなって高笑いしてしまう、そうか、そうだったんだ。
「てるちゃん?」
「タイムトラベルは成功したようだ」
「えっ、本当に?」
ここは、ニヒルに、そして、マーーーードサイエンティスツらしくポーズを決めて言う。
「我、過去を変えたりいいいいっ」
金はない。
だが、俺は時を超えた。
辛い日々だった過去。感染症が原因でいじめられたアイカ。もとから浮いていた俺だったが、それを機にいじめられるようになった俺。やったことは正しいと思いながらも、自分の選択に半信半疑で、そんな自分が嫌で、くすぶっていた日々。
しかし、だからこそアイカと一緒にいれたのだ。
アイカの言う通り、辛い日々じゃない。アイカとの絆を育んだ大事な日々だったんだ。
「くすぐったいよ」
「はははっ、やはり頭を撫でるのは「復活の45度」に限るなっ」
ちなみに終わる前に懺悔しよう。
この「復活の45度」はアイカから伝授されたものであり、どんなに落ち込んだ時でも俺を復活させる魔法の頭なでなでなんだ。
「もー、そんなことばっかり言ってぇ~」
アイカの髪を思いっきり愛でてやると、口とは反対に嬉しそうにアイカが笑う。
「さてさて、最高の助手ワトンソ君も今日までだな・・・」
「えっ、私があげたワトンソ君、捨てちゃうの?いやだよぉ」
「誰が捨てるといった、バカタレが。この天才マッドサイエンティストは捨てらないんだ。すべてのものには無限の可能性を秘めているからな」
ワトンソ、貴様はどうやらここまでだ。これから俺の最大のパートナーになるはお前のお母さんだ。
なぁに安心しろ。これからお前は俺たちの息子だ。
気持ち悪いとか言うな、パパに向かって。子供になった瞬間から、反抗期か?
ガヤが何と言おうと、俺たちは最高の家族になる。そうだろ?
「どういうこと?」
アイカがはてなをうかべる。
「ふっ、それはだな・・・まぁ、タイムカプセルを開けにいけばわかるだろう」
俺は白衣を翻し、さっそうと研究所の出入り口へと向かう。
「ねぇ、教えてよ、テル様」
「まぁ、まて。タイムカプセルに答えが入っているのだから。待つことができたら、おいしいものでもごちそうしてやろう」
そう、俺は辛かった過去を、アイカとの大事な時間だと認識を変えた。これで、もし、俺がタイムマシーンを使って、過去の俺か、過去のアイカに干渉してしまえば、いままでのアイカとの日々が変わってしまい、なかったことになってしまうかもしれない。
しかし、せっかく作ったものを試さない俺ではない・・・が、変えた記憶も、変えられた記憶もない。そして、推測した、俺の行動を。
俺ならば、中身のないタイムカプセルにいれるはずだ。こっそりと、ばれないように。
何を入れるかって?そんなの決まっておろう?
―――指輪だ。
まっ、俺なら入れる。しかしだ、金がないのも事実。入っていれば間違いないが、入っていなくても、タイムマシーンは成功しているはず・・・だ。もしかしたら、いつかの俺が持っていっているかもしれんしな。
これが、シュレディンガーの猫、ではなく、「テルのタイムカプセル」というやつだ。
何も入っていないわけではない。
開けた瞬間になくなるかもしれない。
俺は過去に手が届く存在であり、だが、過去をそっとしておく男。
その名は、マッドサイエンティスト鶴見テル!!
俺は今日という日以前を変えること規制するマシーン。イォヴェアイカを作ろうと決めた。
それまではタイムマシーンを使うのはお預けだ。
そして、イォヴェアイカができたら俺が、タイムカプセルに指輪を隠し、イェヴォアイカを使用する。つまり、タイムマシーンの有効開始日は2031年1月21日だ。
俺たちの思い出に水を差すのは許さない。
造ったらすぐ試さず、それを防ぐマシーンを造ってから試すなんて、なんてマッドサイエンティストなんだろうか。かはっ。
二人で出かけるのが嬉しいのか、タイムカプセルを掘り出しに行くのが嬉しいのか、アイカの嬉しそうな背中を見守ってやる。
「そういえば、アイカ。貴様は何をいれたんだ?」
「えっとね・・・てるちゃんもらった全部!!交換日記に、ぶたさんの消しゴムに、うさぎさんの消しゴムに・・・」
「いつものラーメン屋でアイカのだけ、チャーシューを3枚追加してやろう」
「本当に?わーい、テル様サイコー!!」
今、俺は貧しい癖から払えないだろうと思ったやつはいるか?嘘だろ矛盾乙とか言ってないだろうな?
ふっ、最後の最後までうっとうしいとか自意識過剰だ思っている奴もいるかもしれないし、俺のことをクレイジーだと思っている奴がいるかもしれないがな、一つ言っておく。俺は科学者だ。
妄想と仮説は無限大だがな―――
俺は、嘘を言わない。
もし、俺を観察している傍観者がいるとして、俺の人生を少し遡れるなら見返すといい。
俺の発言はすべて事実、妄想と事実の区別をよく確かめるこった。はっはっは。
なにせ、今日以降はタイムマシーンが使えるのだから、見るのは可能であろう。
タイムマシーンが出来上がった瞬間を見れるなんていい世の中だな、お前たち。
ただ、アダムとイブの前に人類の歴史がないように、俺たちの歴史が始まる前にタイムマシーンの歴史がない。おっと、アイカは知恵の実を持ってきたわけではないし、女スパイでもないからな。
ここも、テストに出るぞ。
アイカは俺を不幸にしないし、俺を裏切らない。
そして―――
鶴見テルはアイカのことを愛している。
「ハッピーバースデイ、ディア、アイカ」
マッドサイエンティスト 鶴見テルの偉業録 西東友一 @sanadayoshitune
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