鬼追い
ツヨシ
第1話
退屈な田舎に住んでいた。
陸の孤島のような集落だ。
ところがある日、それが変わった。
売りに出されていた家と田畑があったのだが、買った男がいたのだ。
尾崎と言う二十代後半の背が高くていかつい身体の男だ。
そしてその男の言動に問題があった。
田舎には田舎の決まりごとがある。
それを守らないのだ。
おまけに注意されると暴力をふるい、一人怪我人がでた。
数人で仲裁にはいりなんとかおさめたが、その男の態度は変わらなかった。
全ての行動が自己中心で好き勝手。
そのうちに他人の田畑の作物を盗むようになった。
それも堂々と。
もちろん持ち主は抗議したが、聞き耳を持たない。
そうこうしているうちに、暴力を振るわれた人が二人、三人と増えていった。
住民の怒りは爆発寸前だ。
そんな折に尾崎は、五歳の少女にまで手を出したのだ。
そこで一家の代表が集まり、話し合いが行なわれることになった。
俺も父が持病で入院していたために、若いながらも参加した。
みなが集まり村長を待っていると、村長が入って来た。
そして言った。
「あの男には鬼になってもらう」
そう言うと、その場にいた大半の者が同意した。
――鬼になってもらう。どういうことだ?
俺には意味がわからなかった。
しかし村長が一声かけると、集会はお開きになった。
俺も家路についた。
そのまま家でなんとなく外を眺めていると、坂田さんが家の前を通り過ぎた。
その両手には鎌を二本持っている。
――なんだ?
気になり後をつけると、男達がぞくぞくと集まってきた。
全員がその手に鍬、金属バット、棍棒などを持っていた。
そしてぞろぞろと歩いて行き、尾崎の家の前に集合した。
その数三十名ほど。
南田さんが大きな声で叫んだ。
「出て来い!」
尾崎は怖い顔で出てきたが、目の前の男たちを見て怯んだ。
南田さんが尾崎を引きずり出して言った。
「おまえは今から鬼だ。人間じゃない。だからなにをしてもいいんだ」
それを聞いた尾崎が、数人を突き飛ばして逃げた。
それをみなが追った。
俺は呆然と見送った。
俺が尾崎を見たのは、それが最後になった。
終
鬼追い ツヨシ @kunkunkonkon
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