第5話 人生を変える言葉

 次の日、気分は最悪だった。当然だ。描いていたハッピーライフの計画が頓挫してしまったのだから。

それにしても――。


「僕の身体って本当にどうなってんだろうな?」


あのオマジナイをしたら、次の日、骨折も嘘のように直ってしまっていた。本格的にこれは異常だ。かすり傷やヒビ程度ならまだわかるが、あれほどポッキリ折れたものがたった一晩で完全回復するのは今回が初めて。どんどん、僕のこの力って強まってやしないか?

 まあ回復能力だし、今の僕にとっては生命線のようなものだ。強まるに越したことはないか。

 そんなことを考えながら、屋敷を出ようと玄関に向かうと美柑が今にも死にそうな顔で佇んでいた。


「あ、あの白部、昨日は――」

「大丈夫だし、庇ってくれたことには感謝する」


 僕は姿勢を正すと頭を下げる。この女は確かにいけ好かない奴だが、昨日僕の命を庇おうとしてくれたことだけは事実だ。それには礼をしなければならない。


「べ、別に私はあんたが心配だったから庇ったわけじゃないんだからねッ! あんたに何かあったら杏子あんずが悲しむから――」

「知っているよ」


 美柑にとって僕はしつけのなっていない野犬に等しい。わざわざ母の花蓮に逆らってまで救う価値など本来ない。

 美柑が僕を助けた理由はただ一つ、僕に何かあれば杏子あんずが悲しむから。ただそれだけだ。


「……そう、ならいいわ!」


 美柑はどこか悔しそうに下唇を噛みしめると、そっぽを向いて立ち去ってしまう。

 僕も大きく息を吐き出して学校へ向かう。


 本来はカゴメ食堂でバイトの日だが、もうあそこに行くことはできない。だから隣の図書館で時間を潰して丘咲家の自室へ直行する。正直、今日は夕食をのんきにとっている気持ちにはならなかったのだ。

 ベッドに横になり、見慣れた天井の木目を眺めていると僕の意識はゆっくりと失われていく。



「お――」


 やけにゴツゴツした石のようなベッドで寝がえりを打つと、頭頂部に鈍い痛みが走る。

 微睡の中、浮き上がる意識の中、頭頂部の痛みと騒々しい声は無視できないものとなっていく。

 たまらずゆっくりと瞼を開けると、僕の顔を覗き込む不機嫌そうな顔の大人の女のアップが視界に入る。


「へ?」

「早く起きろ!」


 青髪の女は混乱の極致にある僕の胸倉を鷲掴みにすると、軽々と持ち上げるとコンクリートの地面に放り投げる。

 そして青髪の女は僕を見下ろしながら、


「私はCKシーケー、ここにごく潰しはいらねぇ。役に立たねぇなら死ぬだけだ。生きたいなら精々、気張ることだな」


 僕の人生を変える台詞を吐いたのだった。




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身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記 力水 @T-retry

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