第4話 資格
だだっ広い書斎には終始上機嫌の
「小僧の怪我は?」
「寝入った後、確認しましたが既に癒えておりました」
「やはりッ! あれは別格じゃ!」
遊馬の報告に泰三は両方の掌で自身の膝を叩くと興奮気味に声を張り上げる。
「では?」
「そうじゃ。あれには
「美柑様はまだ、8歳。婚約はいささか、早すぎるとの声も強いと思いますが?」
「むろんまだ奴はまだ資格があるにすぎぬ。開花しない限り、孫とこの丘咲家はやれぬよ」
泰三はカラカラと笑いながら、グラスに並々と注がれたワインを飲み干す。
悠馬は泰三に仕えて30年ほどにもなる。悠馬にもここまでストレートに一つの感情をむき出しにしている主を見るのは初めてで、微かな戸惑いが認められた。
「もしよろしければ、その資格が何かを教えていただきたいのですが?」
「ある道への扉じゃよ!」
「ある道への扉……ですか?」
「そうじゃ。我ら丘咲家が先祖代々、開けようとして触れることすらかなわなかった扉。あの小僧はそこへ扉を開くカギを既に持っておる。あとはその扉の前に到達するのみ」
「申し訳ございません。私には何が何やら」
「ほう、おぬしでもそんな顔をするか。実に愉快、愉快!」
声を張り上げカラカラと笑う泰三に、
「それでこれからいかにいたしましょう? 美柑様の婚約者候補となると慶帝学院への編入手続きをすればよろしいでしょうか?」
悠馬が畏まって問いかける。
「冗談をいうでない! そんな甘っちょろい御遊びの場で扉に到達できるものかっ!」
「それでは、いかがなさいましょう?」
「おぬし、昔は傭兵だったのじゃろう?」
「恥ずかしながら」
「まずは戦場へ送れ! そうじゃなぁ。おぬしの知り合いにバケモノ女がいるといっておったな?」
初めて悠馬の顔から余裕が消える。
「奴はとても人を教えるようなものではありません。奴に委ねれば、まず間違いなく、白部は死にます!」
「間違いなく? 当然じゃ! その程度の苦難でなければ意味はない! 奴を直ちにその女に送れ!」
悠馬はしばし苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、
「了承いたしました。直ちに手配いたします」
姿勢をただすと敬礼し、部屋を退出していく。
泰三は椅子から立ち上がると、両腕を広げる。そして――。
「ようやく、ようやくじゃっ! 我らの悲願が叶うッ!」
歓喜の声を上げたのだった。
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