✩彼の特技

休み時間

美凪と晃太郎の席の周りにはたくさんの生徒達で溢れていました。

晃太郎には何処の学校に居たのか?何で転校してきたのか?などお決まりの質問ばかりで晃太郎の顔も内心げんなりしているように見えた。

美凪には主に女の子達からの質問と言うよりはお願いが・・晃太郎にこういう質問をしてみて、と言うお願いばかり。

隣に本人がいるんだから直接聞けばいいものを・・・。

みんなが席に戻り静かになると無意識に自然とそろってため息が出てしまった。

「斎宮くん、疲れた顔してるね?」

「そうですか?」

「そうだよ!あんなに質問にあったら疲れちゃうよね」

「そうですね、そちらも疲れているように見えますが」

「当たり前でしょう!もー斎宮くんに直接聞けばいいのにみんな私に聞いてって言ってくるのよ!」

「・・・すいません」

「斎宮くんのせいじゃないでしょ、謝らないで!」

「はぁ」

少しイライラしている美凪は何を言っても聞いているのか聞いていないのか、火に油を注ぐだけのように思えて何も言えなかった。

今まで周りにはいないタイプだったので晃太郎は美凪が不思議な生き物のように思えて興味深かった。

不思議な生き物は失礼だが・・・

昼食時

小学校は給食がでる。宮本先生は食事中ホコリがたつからとみんな自分の席での食事になる。

そう、この時間こそ美凪が晃太郎に質問できる唯一の時間なのだ。

一応気を使うことが出来る美凪は休み時間の質問攻めの後に自分が質問するのは少し、いやかなり躊躇していたのだ。

自分もあれだけ疲れたのだから生徒に慣れていない晃太郎はもっと疲れているかもしれないと・・・・

もくもくと食べる晃太郎をたまに見ながらタイミングをはかり話しかけます。

「斎宮くん」

「はい」

「晃太郎くんって呼んでもいい?」

「はい?」

何を言っているんだこの人?みたいな顔であからさまに嫌そうな顔をする晃太郎。

気づいていないのか気にしていないのか美凪はかまわず会話を続ける。

「何か折角お隣さんになれたわけだし、名前で呼んだ方が仲良くなれるし」

(いや、それは貴方の都合なのでは?)

と思いながら驚いたような顔で真横の美凪の顔を見ていると、不意に目が合った。

ふわりと笑った美凪の笑顔に一瞬ビックリしてすぐに顔を逸らしてしまった。

「斎宮くん?」

「・・・」

怒らせてしまったかな?

顔を逸らされてから何の反応もない晃太郎に心配しながらも話しかけてみた。

「・・・・よ」

「えっ?」

小さい声で何かを呟いた晃太郎だが、美凪には聞こえていなく、聞き返すと・・少し頬を染めた晃太郎と目が合い

「い、いいですよ///」

「!!!ありがとう!」

まさか了承してくれるとは思ってなかった、了承してくれなくても、そのまま呼ぼうとは思ってたけど。

「私のことも美凪でいいからね」

「え・・それは遠慮させてください。」

「いいじゃない、私だけ呼ぶのもおかしいし」

「別におかしくはないのでは?」

「明日から楽しくなるね、これからよろしくね晃太郎くん!」

「・・・はい。」

晃太郎は仕方なく肯定の返事をしました。

呼んでもいいと呼ぶは違うのだから、自分はいつも通りにして呼ばなければいいんだと考えていました。

美凪は嬉しくて、ついつい大声で話してしまったので晃太郎と美凪が仲良くなったのはクラス中の話題になりました。

その日は学校から帰るまで興味本位からたくさんの好奇の目もあり変な疲れが溜まっていたのか、いつもより早めに眠っていました。

次の日

学校へ着くと、晃太郎の机にカバンはあるのに本人が教室のどこにも居ない。

加奈には昨日の出来事を細かく話していたので、何の戸惑いもなく晃太郎のことを加奈に聞きに行きました。

「加奈、晃太郎くん知らない?」

「なぁーに?そんなに斎宮くんに会いたかったの?」

「違うわよ、カバンはあるのに席に居なかったから気になったの」

美凪の答えにあからさまに肩を落としながら大きな溜息をつき廊下を指さしました。

「さっき先生に呼ばれて職員室に行ったみたいよ。」

「そうなんだ、転校してきたばかりだから何かあるのかな?」

「分かんない」

「だよね、ありがとう」

「はいはい、どういたしまして」

職員室には特に用事もないし、先生との話なら行っても分からないと思い友達と話しながら帰ってくるのを待つことにしました。

予鈴にて教室に戻ってきた晃太郎は手にノートパソコンを持っていました。

席に着くとすぐに机の中にしまってしまったが、前に先生が使っていたのを見たことがある。

「おはよう晃太郎くん」

「おはようございます。」

「そのパソコンどうしたの?」

「・・・・ナンデモアリマセン」

「目が泳いでるよ?」

「前を向いた方がいいですよ」

「教えてくれないの?」

「興味無いかと思いますが?」

「言ってみないと分からないじゃない?」

「・・・・はぁ、後でお話します」

「うん、待ってるね」

「・・・・」

機嫌よく前を向いた美凪の横顔を見ながら、晃太郎はこの人が苦手だと思った。

他人のパーソナルスペースに何の迷いもなくズカズカと入ってくる。

気になることは理解するまで聞いてくる。

これに関しては納得するが・・・

(どうしてここまで関わってくるんだろう?)

これが素直な気持ちだった。

以前までの学校ではこの話し方と性格であまりと言うかほとんど友達が居なかった、自分と関わりたいと思う人が居なかったのだ。

最初は興味本位でみんなから色々聞かれるが、時間が経つにつれて興味も薄まり面白い話や特技もない自分はだんだんと人の輪から外れていった。

そんな自分に名前を呼びたい仲良くなりたいなんて言ってくる同級生なんて居なかったのに・・・

(何であの時・・・)

いくら考えても答えなんて出てこなかった、ただ名前を呼ばれても嫌な感じはしなかった。

これだけは確実に言える。

しばらく見つめてしまっていたんだろう・・美凪が気まずそうにこちらを向いた。

「晃太郎くん、私の顔に何かついてる?」

「い、いえ!?すいません」

慌てて前を向いた晃太郎の事を美凪は笑顔で見つめ、問うことなく前を向きました。

そして、パソコンには触れないまま放課後になり、美凪はとうとう我慢できなくなり晃太郎が帰る前にもう一度聞くことにした。

「あの・・・」

美凪が席を立つ前に隣のこから控えめに声をかけられた。

「これからお時間ありますか?」

「え?うん。」

「あの、朝に言っていたパソコンの件なんですが・・・」

「うん!教えて!」

では、一緒に行きましょう。と促され着いた場所はパソコン教室だった。

何度かパソコンの授業の時に入ったことはある。

後は休み時間に覚えたてのパソコンでゲームをやる生徒が出入りするくらいだ。

“失礼します”とパソコンを抱えた晃太郎が入っていく、美凪はその後を追ってパソコン教室へ入っていった。

「晃太郎くん、ここで何するの?」

「実はちょっと先生に頼まれごとをされまして・・・」

「頼まれごとって?」

「昨日初めて聞いたんですけど、先生パソコン苦手らしいんですよ・・・だから変わりにお知らせの紙を作ってほしいと相談されてたんです。」

「晃太郎くんパソコン出来るの?」

「えっ、はい。お父さんがパソコン関係の仕事についているので、お父さんに教わっていましたので・・・」

そう言いながら先生から借りてきたであろうパソコンを机に広げ、コンセントを繋いで準備を進めている姿を見て・・・美凪は本当に使い慣れてるんだろうな~。という目で見ていました。

パソコンが立ち上がるまでの時間を晃太郎の隣に座り待っていると、晃太郎が気まずそうに美凪を見ていました。

「あの・・・」

「ん~なーに?」

「僕がパソコンを持っていた理由はお話しましたが・・・」

「うん。」

「お時間大丈夫なんですか?」

「私?今日は予定ないから大丈夫だよ?」

「あの、パソコンで文字を打つだけですし・・・見てても面白くないと思うんですが」

「晃太郎くん文字打つの早いの?」

「まぁ早い方ではあると思います。」

「・・・邪魔しないから見ててもいい?」

「もう一回言いますけど、面白くはないですよ?」

「良いよ」

「・・・分かりました。」

「ありがとう」

仕方なく諦めた晃太郎は美凪を極力見ないようにしながら文字を打つことに集中することにしました。

「・・・・」

カタカタ、カタカタカタ、カタ

カタカタカタ、カタ・・・・

最初は順調に進んでいた晃太郎の手がだんだんとゆっくりになっていきました。それをじーっと見ていた美凪は不思議そうにキーボードから目線をあげて晃太郎を見ました。

「どうしたの?」

「・・・な、何でもありません」

「・・運動会嫌いなの?」

「知ってたんなら聞かないで下さい。」

「知らなかったよ?」

「では何で?」

「晃太郎くんが打ってるパソコンの画面に大きく運動会って書いてあるよ?」

「・・・そうでした」

「・・あははは晃太郎くんって面白いんだね」

「笑わないで下さいよ・・」

「だって、晃太郎くんかわいいんだもん」

なにやらツボにはいってしまった美凪は沈黙する晃太郎の隣で未だに顔を隠しながらクスクスと笑っていました。ひとしきり笑った美凪はようやく落ち着いたのかさっきの質問をもう一度口にしました。

「はー面白かった」

「それは良かったですね」

「ねぇねぇ、何で運動会嫌いなの?」

「まだその質問覚えてたんですか?」

「当たり前じゃない!ちゃんと覚えてたよ」

「笑いに集中していたのでてっきり忘れてるのかと思ってました。」

「そんなに忘れっぽくないもん!」

「分からなかったもので・・・」

「で?」

「何がですか?」

「だ~か~ら~!何で運動会が嫌いなの?」

「・・・・運動苦手なので」

「そうなんだ、確かにあんまり得意そうには見えないもんね」

「十分分かってますよ・・・」

カタカタカタ、カタ!!

言いながら最後の文字を打ち終わった晃太郎は早速印刷にかけに行きました。

「えっ!?いつの間に終わってたの?」

「美凪さんが笑ってた間にですよ」

「ほんとに打つの早いんだね・・・えっ!?」

「えっ?・・あっ」

「「・・・・」」

ついつい名前を呼んでしまった晃太郎、普通に受け答えしてしまったが、後から晃太郎に名前を呼ばれたことに気が付いて固まってしまった美凪でしたが、だんだんと笑顔になりにこにこと晃太郎をみると、自分が言ったことに驚いて口を押えている様子がありました。

「ありがとう!」

「今のはちが・・・」

違います!と言いかけると・・・美凪の顔から笑顔が徐々に無くなり、悲しげな顔になっていきました。

「ちが・・・くありません」

あんな顔を見たら、肯定しか出来ない晃太郎なのでした。

お知らせのプリント作りも終わり、印刷したプリントを先生に届け、二人は一緒に帰りました。

帰り道が公園を挟んで真逆なので、公園で別れて家まで帰るのでした。






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パソコンオタクとわがまま美少女 ✩と桃ちゃん✩ @tomomochan

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