第2話 出来ない

学校ではなんでも『進んで自分からやる』事が良い事とされている。

私も少なからず思っていたのだ。かといって、やりたくても『底辺ブス』で吃る私にはそうそうできることではなく、かなりハードルの高いものだった。

『私がやります!』なんて発言したところでクラスの発言力のある生徒達にスルーされるであろう。それは悲しいだろうからやめておいた。


ただ一度、挑戦できる、出来そうな機会があった。

小学校六年生の時の、いわゆる学芸会だ。

例年通りだったら、劇の配役は先生達が『出来る子』に任命するのだが、その年の配役決めはなんと、自主性を重要視したものになるという。

目立つ事は私には無理だ、と物心ついた時から思ってはいたが、全く目立ちたくないわけではない。もちろん、チヤホヤされてみたいし、モテてみたいという子供心は充分にあったわけである。

そして、今まで一度もセリフのある役なんてあてがわれたことがなかった私だけど、もしかしたら自薦したら役名がつくかもしれない!

と、早速自薦してみた。


主役は無理なのは、もちろん承知しているので、一言二言くらいの役柄に応募。


結果を聞いたときは愕然としたのを覚えている。


その役に決まった子は、自ら役を希望しなかった子。その他大勢でいいやと、なんの役柄にも自薦しなかった子だった。


『自ら進んでやる事』は良い事じゃないのか。


先生に後で聞いてみた。私は役は貰えないんですか?


綾さん、今回は我慢してね。


あぁ、次なんて私には来ないのに。


本番に吃ってしまってもいい、自信がつくんじゃないか、

母親も、舞台の私を見て、誇らしく思うんじゃないか、

なんて、色々想像を巡らせて密かに楽しみにしていたのだか、現実は甘くない。


私は先生に、大人に、出来ないと判断された。


なんともやり切れない、今となっては懐かしい思い出になっている。


でも今思うと、こんな事なんて一度や二度ではないせいか小学生にして、もう慣れっこになってしまっていた。


小学生の頃なんてまだマシな方。

比べられる事がこんなに辛いという事が、この先には死ぬほど待ち受けていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

洞穴から聞こえる歌は、ヘタクソ。 @koukinsoap

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ