【45】2006年6月8日 01:00・八恩慈駅周辺・晴れ。品定め(レン視点)。

「う~ん」



時刻は深夜1時。私とユアルは八恩慈駅周辺のビルの屋上から地上を見ながら『品定め』をしていた。ユアルにお願いして家を抜け出すときに使ってもらった『ミラジュレンス(?)』というヤツをかけてもらっているので誰かに見つかる危険性はない。



《なんだろうすごく興奮している。下品な言い方だけど、男が風俗で女を選んでいるときってこんな感じなのかな?というか『魔天の輪』を装着中は自分でも引くくらい思考が下品になっているような気がする》



それぐらい下心丸出しでゲスな時間。でもこれがたまらない。病みつきになる。




『アレ』を頬張ったときのまるで愉悦が身体を焼くように駆け巡る感覚をしっかり覚えている。一度味わったら忘れることなんてできない。



日付が変わってしまったから厳密には昨日だが、ユアルに学園で狩りに誘われたときあの感覚が全身を蝕んで立っているのもシンドかった。




だから、昨日は丹加部(にかべ)さんが来なくて本当に良かったと思っている。あの状態で細かな配慮なんて絶対できないし、ボロが出まくっていただろう。その最大の理由である『アレ』に早くありつきたいのだがターゲットがなかなか現れてくれない。




「さすがにこの時間帯になると人もまばらですね」



「フゥゥゥ。もっと都心に行けば人はたくさんいるんだろうけど八恩慈周辺はこんなもんだろうね。って偉そうに言っても私もココを車で通った程度のことしか知らないんだけど。フゥゥゥ・・・」



都内とは言え、八恩慈(はちおんじ)市も惺璃(さとるり)市の次に田舎なので、深夜になるとどうしても人がまばらになる。



「青、白、白、青。フゥゥ。せっかくココまでやってきたけどやっぱり今日はダメかな。ねぇ、ユアル。『ミラジュレンス』だっけ?あれって使用制限とかあるの?」




「そうですねぇ。今日の調子でいけば、魔力が枯渇するまでにあと数回が限度と言ったところでしょうか」


「つまり、チャンスはそんなに無いってことかフゥゥ」



まだ着いて5分くらいだが想像以上に人が少なく、時間帯とユアルの魔力を考慮すると諦めざるを得ない状況が近づいてきていることを理解する。今のユアルの発言を聞いて私の計画の浅はかさとユアルのフォローがないと何もできない実力のなさを痛感し決心がついた。



『やっぱり今日は諦めて帰ろうか?』ユアルにそう呟こうとしたときだった。








「ふざんけんじゃねぇぞ!テメェェエ!!」


男の叫び声が聞こえてきた。


「おい、すみませんじゃねぇんだよ!!舐めんてんのかコラァア!!!」




声の方を見ても人の姿がない。


「フゥゥ・・・。ユアル、今の聞こえた?」


「はい、聞こえました」


「姿が見えないんだけど、どこから聞こえたか分かる?」


「フフフ。レン、はやる気持ちも分かりますが冷静にもう一度ご自身の状態をお考えください」



「私の状況?えっと魔天の輪をつけてるでしょ。フゥゥ。身体能力がチート級に上昇するから・・・あ!!」



私はもしかしてと思い、隣のビルめがけてジャンプした。身体能力が向上しているということはつまり聴覚や嗅覚も飛躍的に向上しているということだ。聴覚が向上しすぎてだいぶ遠くの音も近くに聞こえてしまっていたらしい。




この感覚にあまり慣れていないせいか少し戸惑ったが原因が分かれば些細な問題だった。


「よっと」



隣のビルに着地すると端から反対側まで猛ダッシュした。反対側のビルの端のギリギリで止まり見下ろすと2人の男が言い争っている姿が見えた。1人はスーツ姿の中年、もう1人は私服だった。私服の方は見た目が若く大学生くらいに見える。イヤ、もしかしたら高校生かもしれない。




若者が中年にカツアゲでもしているのかと思ったがどうやら違うらしい。何が原因かは知らないが中年が一方的に声を荒げて、私服の若者を怒鳴っているようだった。


「もしかして・・・」


私は魔天の輪を装着している状態で中年を注意深く見る。



「おぉ、やっぱりッ!」


「レン、どうでしたか?」



ユアルが私の後を追ってきて状況を尋ねた。



「ユアル、見つけた。真っ赤に燃えてる。ビンゴ大当たりだよ!!フゥゥゥ」



「えぇ、えぇ。あれは結構スゴイですね。フフフ」


私は嬉しさのあまり、今すぐにでも襲いかかりたい気持ちでいっぱいだった。



「まだだ、まだダメ。フゥゥ、フゥゥ、フゥゥ」



はやる気持ちを戒めるようにつぶやく。


「ユアル1分くらい潜ってくるから何かあったらフォローお願い」


「お任せください、レン」



私は真っ赤なモヤに覆われている中年に最大限意識を集中する。すると、カメラのズームアップのような感じでどんどん中年の姿がこちらに迫ってきた。



これ以上ズームできないほど迫ってきた瞬間、目の前が真っ暗になり自分の意識が身体から遠のくのを感じた。


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ハラヘリヴィーナス 雅誅 @MasachuSS

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