名台詞とTPO

 前回「作品の外でチャンスを逃す事」

https://kakuyomu.jp/works/16816452218321983797/episodes/16817139557657776869

 で頂いたコメントをきっかけに、かねてより考えていた事の一つが固まったので、考えていこうと思います。

 

 前回の後半にて、私が感想を頂いた側の出来事で「欠片も共通項が無い作品に、ジョジョの名言を当て嵌められて内心不快に感じた(けれど、それを表に出さないのも感想を受けた側のマナーだと思います)」

 と挙げましたが、何故、そこまで不快に感じたかと言う点を言語化出来ていなかった事に気付きました。

「この作品は◯◯(別作品)のようで素晴らしいです!」

 と言う感想に不快感を覚えたと言う話は良く聞きます。

 言った本人にそのつもりはなくても、まるで剽窃ひょうせつを疑われているように感じられるのでしょう。

 私の場合、幸いにしてそちらの(◯◯のようですね、似てますねと言われる)経験は無いのですが、逆に掠りもしない作品を引き合いに出されると言うのは、これはこれで嫌なものです。

 よくよく考えてみると、恐らくは「ジョジョの台詞を持ち出したいと言う前提ありきで、内容をろくに読まれていない」ように感じたのだろうと思います。 

 私が読まずに書かれた感想、茶化した感想を最も嫌うのは、この創作論の序盤で述べた通りです。

 

 ジョジョやガンダムは名言の宝庫であり、色んな場所で口ずさまれ、愛されています。

 私も、これら作品のファンの一人です。

 しかし、それらには当然、使って良い場所といけない場所……TPOと言うものがあります。

 私が大好きな“きれぼし脳”(チートバグ)ネタでも、多くの名言……と言うか迷言が生まれました。(※1)

 しかし、当然ですが、チートバグに全く関係の無い場所でいたずらに用語を乱発すれば煙たがられるものです。

 本来、観に来た・語りに来たものに集中したい閲覧者が大半を占める場所で関係の無い話を割り入れれば邪魔でしかありませんし、コメントや書き込みのログも流れ、価値のある情報が消えてしまうという実害もあります。

 

 再びネットゲームの話になりますが、私の所属していたコミュニティに居た魔法使いの人の話です。

 上位の攻撃魔法を使う際、ガンダム0083のアナベル・ガトーの台詞、

 

「待ちに待った時が来たのだ!  多くの英霊が無駄死にで無かったことの証の為に、 再びジオンの理想を掲げる為に!  星の屑成就のために!  ソロモンよ! 私は帰ってきた!」(※2)

 

 を、毎回決め台詞のように発言する人が居ました。

 はい、長くて読み苦しいので最初は略すつもりでしたが、敢えて全文を載せました。

 これを、のです。

 それも、時には敵のいないタイミングで無駄撃ちをしてまで叫ぶ事すらありました。

 いくら営利の生じないゲームであり言論の自由があるとは言え、周りが善意で尊重する事で成り立っています。

 特にプレイヤー同士の戦争では、自軍の指揮者達が常にチャット欄で戦況や指揮のやり取りを流しているのですが、この魔法使い使いの人はお構い無しでした。

 当然、上位魔法と言うことは、落雷にせよ吹雪にせよ、エフェクトも派手なものになります。

 つまり、それらが生じている間は場の視認性を著しく阻害しますし、他の人達のパソコンのスペック次第では処理落ちによって、戦いへの対処が遅れる等の実害すらもたらしかねません。

 尤も、周囲も寛容いいかげんな組織だったので、誰も咎めなかったせいもあるとは思われますが。

 この方はもう一つ、コミュニティから脱退者(女性)が出た時に、

「自分がセクハラしたせいかな?」

 などと、素で茶化すような事を言っていたのですが、これも惰性が招いた非常識なのでしょう。

 実際の学校や勤務先で同じ事があったとしても、こんな事はまず言わない筈です。

 以前のネットゲーム体験談でも触れましたが、私がプレイしていた時期は、恐らくゲーム内の社会性が未成熟だった事もあるとは思います。

 ただ、こうした“ロールプレイ”、特にガンダムシリーズの登場人物の名前をキャラ名にして、所構わず“名言”を振り撒いていたタイプのプレイヤーは、総じてディスプレイの向こうに実在の人が居る事が見えていなかった印象です。

 それは他人の真剣な思いを茶化して踏みにじったり、傷付けても平気で居られるのは自明でしょう。

 厳しい物言いになりますが、他人の言葉を笠に着て、自分がそこに“在る”認識が希薄なのですから。

 本当にロールプレイが上手い人ほど、そこをきっちり分けていたと思います。


 言葉とは、時に酒と同じだと考えます。

 安易に酔ってしまえば、言葉を使つもりで言葉に使……行動さえも言葉に引っ張られ、周囲に不快感や多大な迷惑をもたらす危険すらあります。

 そして、先述のガトーしかり、ジョジョしかり、史実の偉人しかり、名台詞と言うのはその前後に、当事者達の(時には命を懸けた)出来事の結果生じるものです。

 本当に好きな作品であるなら、その重みを冷静に意識する事も大切なのではとも考えます。

 他人が関わらない場所であるなら、流石にそこまで堅苦しく考えても仕方がないとは思いますが。

 

 所詮、名台詞とは自分で考えたものではありません。いわば、借り物です。

 

(※1)

 きれぼし脳(チートバグ)=ゲームのプログラムをいじくり、わざとバグらせる事で、おかしな挙動になる様を楽しむ動画ジャンル。

 ゲーム中のメッセージや台詞がバグる事で、思わぬ珍言になり、いくつかはネットミームになっています。

 “きれぼし”の語源も、ファミコンのドラゴンクエスト4をバグらせた動画において「ばしゃと、きれぼし!」と言う不可解なメッセージと化した事がウケたためです。

(※2)

 私見ですが、いくら相手組織に非があろうと、核兵器で大量殺戮を行う直前の台詞です。

 創作において、お堅い事はあまり言わない主義ですが、その本質を理解せずに「何となくカッコいいから」と言う理由で美化されて良いものだとも思えません。

 ファンの方には申し訳ありませんが。

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