予知能力

 “マジクック(以下略)”において、現場で戦う主人公らに無線(?)通信でサポートする予知能力者が仲間に居ます。

 これも、エタった過去作のリファインではあるのですが、過去作を書いていた頃は自分で決めておいて持て余した設定でした。

 今回、久し振りに予知能力とは何なのかを整理した事で、どうにか最後まで書き切る事が出来ました。

 

 確実に未来がわかる。

 一見して無敵に思える能力です。

 しかし、この能力を書いてみて最初に気付いた穴がありました。

「未来を読んで対処すると言うことは、未来が本来のそれと違う結果になる」

 と言う事です。

 それによって、一手目の攻撃は予測できたとしても、相手が「一手目を対処されて考えを変える」為に予定が全く変わってしまいます。

 例えば攻撃側の予定が「右フック→殴られた相手が怯んだ隙に回し蹴り」であった場合。最初の右フックを予知されて空振った事で、攻撃側としては回し蹴りを当てるチャンスが消える事も意味します。

 そうなると、右フックを外して泳いだ体勢をリカバリーしつつ、ガードしたり追撃に来た予知者に足払いをかけようとしたりと、予定を変えるでしょう。

 そんなわけで、まず「相手に予知能力の事がバレてない状況が必須で、なおかつ、一手先しか読めない」と言う縛りがあります。

 実は、今の考察に反して、実際のマジクック(以下略)においては「敵の行動スケジュールを教える」と言う戦術も取ってはいたのですが……。

 まあ、そのモンスターはフィジカルと特殊能力こそ厄介でしたが知性は高くなかったので、愚直に初志貫徹な人(?)だったと言う事かも知れません。

 

 もっと厳しく考えるなら「予知者が未来を知った時点で、それはもう本来の因果から外れてしまった状態」と言う事。

 かつてタイムリープについて考察しましたが、

https://kakuyomu.jp/works/16816452218321983797/episodes/16816700425951976679

 蝶の羽ばたき一回の有無が、回り回ってハリケーンの発生の有無と連動している。時間遡行には、こうしたバタフライエフェクトと言う考え方が付きまとうものです。

 引用先でも考察しましたが、未来を知ってしまった時点で、予知者の記憶=脳に物質的な変化が既に生じてしまっています。

 身体がタイムスリップしなくとも、先に未来を予見してしまう行為もある意味では歴史の改変になり得ると思います。

 先程の右フック→回し蹴りの例で言うと、何も回し蹴りに繋げる牽制の方法はフックに限りません。その人が一手目にフック以外の(フェイントだったり投石だったりの)手段を考える可能性もあったわけで、何一つ因果が変われば、右フックよりも別の手段を思い付いていた可能性もありました。

 予知能力者の記憶が変化した結果、世界のあらゆる事柄が少しずつ影響し合い、攻撃側の一手目が右フックでなくなったり、まるで関係ない場所でハリケーンが起こる可能性すらあります。

 ……とは言え、ここまで視野に入れると予知能力自体、書くことが困難になるので、必ずしも現実に合わせるのが正解でもありません。

 宇宙での戦いには、音があった方が面白いのです。

 

 また、私の過去作、およびマジクック(以下略)における予知能力者は非戦闘員です。

 つまり、本体がひ弱なインドア派の女性でしかない=魔物や戦士の反射神経や肉弾戦のスピードには到底追い付けません。

 ジョジョ5部に出てくるディアボロのように本人のフィジカルが強いのであればこの限りではありませんが、殺傷力皆無な女性が未来を読めた所で、彼女ら自身を戦士にするには至りません。

 そんなわけで、直接の白兵戦は他の仲間に任せ、予知能力者は遠く離れた拠点から通信支援要員として能力を振るう形になりました。

 当然、せっかく得た未来の情報も、

 予知能力者→現場の仲間 

 と言う大きなタイムラグ無しには伝わらないので、即応性に難があります。

 そうなると、予知能力で戦果をあげるのに必要になってくるのは2つ。

 1つ。

 予知能力者は、その貧弱な反射神経でも役に立てる立ち回りを身に付ける事 = 斬り合いと言う戦術についていけないまでも、全体的な戦略を俯瞰する目を持つ事。

 2つ。

 現場の仲間アタックチームは、予知で見えたものに頼り切るのではなく、予知から得た情報を即時分析し「自分が未来に干渉した結果、状況がどう変わり得るか」までを常時自力で計算して動けるようになる事。

 そして、常にコロコロ変わる未来視の中で、正しいものだけを瞬時に・正確に選び取る事。

 正直、なまじ未来がわからない通常の状態よりも、ある意味で過酷です。

 予知を“正解”とするのではなく“かなり遠回しなヒント”と捉え、そんな難問クイズに連続正解し続ける。コンマ数秒のリアルタイムで。

 少しの油断が即、死の実戦において、気が散るどころの話でもありません。

 これに関しては、先述のディアボロのような例でもーー予知能力者本人に戦闘能力も備わっていようがーー要求される事だと思います。

 ただ、これが出来る域に達したチームは、個々の能力も連携もかなり強くなる筈でもあります。その成長が書き切れたなら、主役や仲間を特徴づける、かなり有力なフレーバーとなり得ます。 

 

 そんなわけで、実戦における予知能力とは想像以上に使いづらいものでしょう。

 やはり、予知能力の最も有効な用途と言うのは、身も蓋もありませんが“政治利用”なのかも知れません。

 先程から引き合いに出している私の過去作においても、プロット上では仲間の(主役の一人でもある)予知能力者が偉い人に“預言者”として祭り上げられ、最終局面に繋がる大問題を引き起こす予定でした。作品そのものは、そこに至る前にエタりましたが。

 未来予知そのものは事実なので、数秒先の出来事を言い当てさせ、あとは民衆がそれを勝手に拡大解釈してくれれば“預言者”だとか“神の使者”だとかに認めさせるのも比較的容易いとは思います。

 特に、社会や民衆が弱った状態であれば、かなり効果はあるでしょう。またの名を、救世主。

 それをリファインしたマジクック(以下略)の場合は、全人類一人一人の能力が千差万別過ぎて、その中に埋もれてしまう可能性の方が高いですが。予知能力者自体は、他にも居る可能性はあるので。

 

 確かに、ここまでひねくれて考える必要は無いかも知れません。

「常に一手先を読めるだけでも充分強い」「予知能力者を非戦闘員にする必要性もない。素直にディアボロ型にすれば良いじゃないか」「初見殺しが無効になるだけで役割は果たしている」と言えばそうです。

 ただ、私が過去作で苦しんだのは、予知能力の用途がそこ止まりで終わると、それ以上に発展せず、変化に乏しくなったと言うのもありました。

 予知能力とは、それだけ他の能力と比べて“重い”設定だと思います。

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