お約束を少しずらす

 またまたまたまたブラッドボーンの話です。ネタバレにご注意下さい。

 あとついでに、無血のヒーロー短編集はサイコブラック編第3話「モンスター教師と陰謀を打ち砕け!」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054898070004/episodes/1177354054901011299

 のネタバレもしていますので、一応。

 

 現在、とあるボスに10回くらいボコされて来た所です。

 それは“ルドウイーク”と言う、かつて教会の戦士だった男なのですが、今では見る影もなく、馬のような魔獣に成り下がってしまっていました。

 獣の瞬発力と膂力をもって無差別に殺戮を繰り返す姿には、もはや生前の知性など欠片も残っていません。

 攻撃手段も引っ掻き、蹴り、跳躍からの踏み潰し、酸液のようなブレス。その二つ名は「醜い獣 ルドウイーク」

 生前に愛用した剣は背中にくくりつけられっぱなしで、使い方を忘れられて無用の長物と化しています。

 しかし、体力を半分ほどにまで削ると、様子が一変します。

 主人公から受けた深手のショックからか、自らが帯びていた聖剣の存在を思い出して正気を取り戻します。

 そして「ああ、ずっと側に居てくれたのか」と愛剣に語りかけるや、改めてそれを構えて主人公と相対します。

 醜悪に肥大化した外見こそ変わりませんが、二本足で地を踏み締め聖剣を構える姿は、往年の勇姿を取り戻したと言う事なのでしょう。

 ここからは名前の表記も変わり「聖剣のルドウイーク」となります。

 あまり言葉で多くを語らない作品なのですが、非常に印象に残るイベントでした。正気を取り戻したのなら戦いも止めてくれれば良いのに。ガッデム!

 

 姿を変えてパワーアップする。

 所謂“第2形態”と言う、お約束の展開です。

 しかし、このルドウイークは「魔獣から人間に戻っている」ただ一点が、お約束からズレています。

 通常、人間を捨てて魔獣になった方が圧倒的に強い事でしょう。

 しかし、愛剣との絆を思い出す事で取り戻した力こそ「人である事」の意義を象徴しているのでは無いでしょうか。

 かたやこちらの武装は、メイスの先端に丸ノコをくっつけた殺人ピザカッター。おまけに、わけわからん金ピカのピラミッド頭を装着。ついでに、わけわからん超越存在の触手を召喚する魔法も完備しています。

 これでは絵的にどちらが悪者かわかったものではありません。

 勿論、主人公にも聖剣や騎士剣(銃内蔵ですが)のような正統派の装備をさせれば、それはそれで、殺人ピザカッターとは趣の違う対決風景になるでしょう。

 ちなみに、体感的には聖剣持ち出した本気モードの方が弱く感じました。いや、そう言う事は一度でも勝ってから言えよ、と叱られそうですが。

 もしもこれも、演出の一環としての弱体化だとするなら、ますます感慨深いと思います。

 実際の所、このゲームは人やキャラクターの育成状況によって、得意な敵と不得意な敵が変わってくるので、たまたま私が、聖剣モードより魔獣モードを苦手としているだけの線が濃厚ですが。

 

 聖剣との絆によって、かつての勇者が今一度奮い立つ。ベタとすら言える王道展開です。

 本来なら珍しくも何とも無い筈です。

 繰り返しになりますが、違うのは「異形になったのではなく、異形から人間に逆戻りした事」と「聖剣の勇者が主人公に立ち塞がる立場である」と言う、単純な設定の逆転だけです。

 たったそれだけで、これだけドラマチックで引き込まれる(それも単発のエピソード)に仕上がるのです。

 

 またあるいは、暗黒の騎士は、邪道の力で敵を惨殺する存在かも知れません。

 しかし「みんなの幸せを守る為に敢えて闇の力に頼った暗黒騎士」と「神の名のもとに人々を粛清する聖騎士」との対決だとしたら、どうでしょう。

 私自身がやった例としては、無血のヒーロー短編集において、正義の変身ヒーローである主人公がカルト教団の教祖を洗脳し、自らを教団の神に据えた事です。

 やはり、人々の平和と幸せを守るには、こうした影響力のある組織を駒にすると、何かと効率が良いものです。

 結局、サイコブラックが散々利用した挙げ句に、途中で「こいつら、なんて悪い奴らなんだ!」と気付いてしまい、教団は取り潰しになってしまいましたが。合掌。

 ともあれ「正義のヒーローがカルト教団の御神体」と言うのは、自画自賛になりますが、ちょっとしたマイナーチェンジで他にはない構図を書けたかなと思っています。

 ヒーローもカルト教団も、よくある設定ですが、この二つが手を組む事はそうそう無い事でしょう。

 簡単な材料の組み合わせで、前例の無い話は充分に作れると言う事です。

 

 当創作論で何度か考察した「定番の面白さと未知の面白さ」を両立するには、こうしたちょっとしたマイナーチェンジが案外と鍵になるのかも知れません。

 

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