ルシール・ベアトリクス

———ある屋敷



 この世界はクロエたちの世界でもなく、楓花ふうかの世界でもない。


 まったくの別世界だ。


 1人の女性が優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる。

 

 そこに1人の少年が現れる。



「ルシール様。申し訳ございません。神王の娘、その魂の入れ者の 、2名の殺害に失敗致しました」



 ルシールは怒ることはせず、静かに持っていたティーカップを机に置く。



「ベルゼブブごときでは、やはり無理でしたか。ご苦労、下がっていいですよ。アザゼル……いや、如音じょん 和尊わたるでしたか?」


「はっ。アザゼルで結構でございます。では、失礼します」



 1人の少年はそれだけ言い残すと、床に溶け込むように姿を消した。


 姿を消すと同時に3人の女性がルシールのもとに現れる。



「うえ。やっぱり”堕天使”とか、ほんまにキモいわー」


 

 ”小人族”の女性が第一声を出す。瞳はアメジストのような紫色に輝いている。



「アザゼルもマモンも余が消してもよいぞ。最早、”堕天使”など足手まといじゃ。ルシール様も、おおたむれを」



 ”鬼族”の女性が刀に指を掛ける。瞳はルビーのように赤色に輝いている。



「まぁ、待ちなさい。叶月音。あれらにはまだ利用価値がありますので」


「失礼を申した。ルシール様」


「どうですか? もうそろそろ、転移できそうですか?」



 ”ドワーフ族”の女性が機械を巧みに操り、時空に穴を開け始めている。



「もう、少々お待ち下さい。なに、ルシール様も少しだけ、ゆっくりされたらいいのです」


「それもそうですね。もう少しだけこの世界を楽しみますか」


 

 ルシールはそう言うと、再びティーカップに手をつける。

 紅茶を飲みながら、外の世界の様子を窓から見つめる。


 窓の外では銃声音、爆発音などが頻りに聞こえてくる。


 ルシールたちのいる屋敷以外、戦争の跡のように爆発ですべて吹き飛ばされたようだ。戦争はまだ続いているようで、外の大気が酷く歪んでいる。


 ルシールは不敵な笑みを浮かべる。



「ほら。人間なんて生物は凶暴そのものじゃない。この世界が滅びるのを皆が知っていても、きっとこの戦いを終わらせるつもりはなさそうですね」



 ルシールはこの世界のリリアーヌの魂の入れ者を殺した。


 この世界には神々など存在するはずがなかったため、呆気なくこの世界を


 すると、これまで平和だった世界は、1人の少女の死のみで一変した。


 人々、動物たちは突如、凶暴化して破壊の限りを尽くしている。

 動物たちはすぐに人間に狩り尽くされ、いまは人間同士で争っている。



「クロエ……。クロエ……。あぁ、世界が終焉しゅうえんを迎える時のための大事な生き証人。何年ぶりかしら。会うのが楽しみですわ」



 楽しみだと言うルシールの顔には、穏やかなままで全く感情がない。

 他の3人はルシールの言葉に同調して、各々が怒りを露わにする。



「ソフィア・レオンハートとかいう子。レオンハートを名乗るとか。余程、私に殺されたいんやな。怖いモノ知らずで楽しみやわー。アホなんやろうな」


「エレーヌ。まだ原始人のような武器に頼っているようじゃ、私に勝ち目はないぞ。あの”ドワーフ”の親方のように、無惨に殺すのが楽しみだぁ」


「叶月夜。余の娘でありながら、腹が立つ。余の教育が甘かったかの……」



 ルシールは穏やかな顔のまま、皆の怒りなど無視をして手を軽く叩く。


 

「そうですわ。私としたことが。大切な事がありましたわ」




 各々がこれまでの”堕天使”や”悪魔”とは、比にならない力を持つ者たち。

 もちろん元々、存在しない神々よりも。

 

 強大な危機が現代世界に訪れようとしていた。








『騎士令嬢降臨!』完


———







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騎士令嬢降臨! 葉月あお。 @hazukiaone

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